第16話 「仲間だもんげ!」

前回のあらすじ


救いは無かった。



「……じゃあ、俺のステータスについてはLVを上げることで、上げていくしかないんだな?」

「そうなるのぅ」

「なんだか、すみません」

 二人とも決して、俺とは目を合わせない。

 まぁ、俺のステータスは思った以上に弱かったし、魔法を貰ったら即死ということが分かってしまったしなぁ。

 これが、改善できないということは結構苦しい。

 ……だが、まぁ。俺が神様からもらった<ノワール>自体がかなりルール破りな能力っぽいし、そういう弱点もあるということだろう。

 有名な作品でも言っていた。制約と誓約。

 強い能力程、何かに縛られているものなのだ。

 そう考えれば、納得もいく。

「分かった。まぁ、俺についてはLVを上げて、ステータスは強化していくとして、とりあえず。ノワールをどう強化していくかだが……」

 話を戻す。

 とりあえず、ノワールに貯めた二十万を使って、強化していくことに変わりはないのだから。

「今の貯金額では、戦闘用のスキルを一つ取得するか。それともステータスを上げるか。という所ですね」

「ふむ。現状、ノワールのステータスも低いからのぅ。妾としてはステータスを上げることを薦めるのじゃ」

 ふむふむ。

 ちなみに、ノワールの<ステータス>はこれくらいだったか。


 名称

 <ノワール>


 LV:1

 HP   :20/20

 MP   :20/20


 攻撃力  :5

 防御力  :5

 魔力   :5

 魔力防御 :5

 速さ   :5 


 所持スキル


 称号

 <ユニークスキル>

 <自我を持つ者>


 貯金額

 ¥200,000.-


 この世界の一般的な成人男性のステータスが二十前後というから、冒険者として見ると確かに低い。

「うーん。どうするか。……そう言えば、ステータスを上げるのにはどのくらいかかるんだ?」

「そうですね。数字を一つ上げるのに、五千円という所でしょうか。ただし、これは今の低いステータスを上げる時の価格であり、ステータスの上昇に従って、金額も上がるようです」

「なるほど。そういう感じなのか」

「ふむ。ノワールの言う五千円とは、たしか銀貨で五枚じゃったか? ……ならば、ノワールのステータスは合計で四十ほど上げられるということかのぅ?」

「そう言うことになりますね」

 四十か。……それって凄くないか?

 俺は驚愕する。

 この世界の一般的な成人男性が平均二十だとすれば、四十も上げれば二倍である。

 決して、二十万程度の金で手にして良い力じゃ無いだろう。

 能力も月までブッ飛ぶこの衝撃……

「……なるほど。ナイアが驚いてたのはこういう事か」

「妾とて、ここまでとは思わんかったがのぅ」

 確かに、これは他の人間に知られたら、変なトラブルが起きても仕方がない。

 とんでもない能力だ。

「ふふふ。ご主人! 見直しましたか? 痺れて、憧れても良いんですよ?」

「だが断る」

 確かに羨ましいが、自分のスキルに嫉妬するのはちょっと違うだろう。

 意地があんだよ。男の子にはな!

 閑話休題。

 さて、じゃあ次に考えるのは、上げる予定ステータスの割り振りだが……

「俺の世界のゲーム知識だと、こういうステータスって何か一つに偏らせて全振りした方が、最終的に強くなったりしたんだが……ナイア。どう思う?」

「そうさのぅ。確かに何か一つに優れた奴というのは、少しだけ手こずった気がするのぅ。……勇者パーティとて勇者以外は、物理特化の脳筋と、魔術特化のもやし。回復特化の木偶。じゃったからのぅ」

 ぺっ、と吐き捨てるようにいう魔王さん。

 うん。殺されたんだから、嫌いなのは仕方ないよね。

 ……でも、幼女が怖い顔をしてると、ギャップがひでぇな。

「やっぱり、そうか」

「じゃが、奴らが強かったのはあくまでパーティという集団だったからじゃ。何か一つを伸ばすのは良いと思うが、それだけでは対処できん事態になった時に、コロッと死ぬぞ」

 まぁ、そうだよな。

 レベルを上げて物理で殴るだけでは、物理無効とかいう相手が来た時に詰むだろうし……

 なら、一つを重点的に伸ばしつつ、他のステータスも弱点にはならない程度で育てていくのが良いだろう。

「あ、ならナイアのステータスを見せてくれないか? パーティとして、少しでもナイアが足りないところを伸ばしていくようにしよう」

「……うっ!」

 俺がそう言うと、ナイアの動きがピタッと止まった。

「どうした?……何かまずいのか?」

「いや……その……じゃな」

 気まずそうに視線を泳がすナイア。

 いつも率直な彼女にしては珍しい態度である。

「……おおっ!! そうじゃ!! ノゾムよ、ステータスというものは、みだらに人に見せてはいかんのじゃ。これはこの世界の常識じゃ」

 ふむふむ。

 どうやら、ステータスを見られたくないらしい。

 まぁ、ぶっちゃけ見せたくないなら構わないんだが、こういうナイアは珍しいので、もう少し突っ込んでみよう。

「へぇ。そうなのか。それは何でだ?」

「決まっておろう。ステータスを見せるということは、確実に実力差が分かってしまうということじゃ。もし、相手に悪意があればその情報開示は決して良い方向に向かうまい」

 成る程。確かに、それもそうか。

 そう考えたら、復活直後の魔王が自分のステータスを見せられる訳がないよな。

 いつどこで、誰に寝首を搔かれるか分かったものじゃないんだから。

「なるほどな。良く分かったよ、ナイア」

「分かってもらえたら良いのじゃ」

 そこで、ぱぁっと笑顔になるナイア。

 うん。魔王なのに、素直過ぎる。

 なに、この可愛い生き物。……逆に苛めたくなるな。

 ということで、俺はもう少しからかってみることにした。

「つまり、俺たちはナイアに信じてもらえてないということか……」

 その俺の一言で、ナイアは凍り付いた。

「ちちち違うのじゃ!! ノゾム!! 妾はノゾムもノワールも信じておるのじゃ!!」

 あ、動揺してる。動揺してる。

 予想通り、反応が面白い。

「悲しいよなぁ。ノワール」

「そうですねぇ。ご主人」

 俺はこれみよがしにノワールに同意を求める。

 ノワールもわざとらしいくらいにしみじみと頷いた。

 持つべきものは、ノリが分かる<スキル>である。

 うん。なんだかんだ言って俺たちは仲良しだった。

「違うのじゃぁ!! 妾は……!! 妾はっ……っ!!」

 そんな俺たちを見て、ナイアは困った顔をしたかと思うと――

 へぁ!? うそっ!!

 ――泣き始めてしまった。

 一気に焦る俺とノワール。

 やばいっ!! やばいって!!

「すいませんでした、ナイア!! ほら、ご主人も早く謝ッテ!!」

「すまん!! ナイア!!」

 俺とノワールは無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで、速やかに土下座へ移行する。

 泣く子と地蔵には勝てない。異世界でもそれは同じようだった。

「信じておるのじゃぁ……違うのじゃぁ……」

 すすり泣きながら、話す魔王さん。

 号泣である。

 ごめんなさい。本当に……


 俺たちは必至で謝った。


「冗談が過ぎました。泣き止んでくださいナイア」

「頼む。ナイア。俺たちが悪かった」

「ご主人ならいくらでも殴っていいですから。なんなら、焼いた鉄板の上で土下座させますから」

「機嫌を直してくれナイア。誠意を見せろと言うなら、ノワールが今からセプクするから」

「ご主人!! こんな時に自分だけ助かろうとするとは、まさに外道!!」

「なんというブーメラン。今日のおまいうはここですか?」

「はい? 私のログには何もないですね。という訳で、ここはご主人が責任を取るべき、そうすべき」


 うん。なんだかんだ言って俺たちは敵だった。

 お互いに相手に責任を押し付けながら、俺たちはナイアに謝り続けた。



 ……少しして、ナイアは落ち着いた。

 そして、

「……ぬぅ。酷いのじゃ!!ノゾム!ノワール!!」

「いや、ホント。すまん」

「すいませんでした」

 現在、ナイアは俺たちがからかっていたことが分かり、怒っている。

 ううむ。本当に悪いことをした。後でジュースを奢ってやろう。

「そんなに嫌だとは思わなかったんだ。許してくれ」

「ええ。こちらが浅慮でした」

 ちなみに、俺とノワールは猛省していた。

 別にどうしても、ナイアのステータスが見たかったわけではないのだ。

 ちょっとした悪ふざけのつもりだったのだが、泣かせてしまうとは。

「……いや、元をただせば妾が悪いのじゃ。信頼していないと言われても仕方がない」

 だが、ナイアはナイアで落ち込んでいるようだった。

 いや、この世界ではステータスはかなり重要なんだろうし、悪いのは十対〇でこっちだろう。

「……妾から一つお願いがあるのじゃ」

 そう言うと、彼女は<ステータス>、と呟き、自分のステータスが書かれた板を呼び出す。

 そして、こちらを見て続ける。

「妾のステータスを見た後で、態度を変えんで欲しいのじゃ……」

 ナイアは絞り出すようにそう言った。

「いや、良いぞ?ナイア。無理に見せなくても……」

「ええ。そんなことをしなくても大丈夫ですよ」

 本当に気まずい。

 幼女を脅して、行為を強要する男と猫。

 事案ものである。

「……いや、これは妾からも見せるべきじゃと思うのじゃ」

 だが、ナイアは見せることを決めたようだった。

「妾はこの五百年。今が一番楽しいのじゃ。それは、ノゾムとノワールのお陰じゃ。二人には隠し事はしたくないのでの」

 そして、ナイアは板を回し、俺とノワールの前にソレを見せた。



 名称

 <ナイア>


 LV:99

 HP   :150/99999

 MP   :100/99999


 攻撃力  :40/9999

 防御力  :40/9999

 魔力   :40/9999

 魔力防御 :40/9999

 速さ   :40/9999


 ステータス異常 <存在修復中>


 所持スキル

 <魔王>

 <拳王>

 <覇王>


 称号

 <魔法を極めしもの>

 <拳を極めしもの>

 <大陸を統べしもの>


 種族特性:ヴァンパイア

 <月に愛されしもの>



「……」

「……」


 俺とノワールは言葉を失くしていた。

 そこにあったのは、規格外という言葉ですら生温い。

 魔王と俺たちとの絶対的な差。

 俺はナイアを見る。

 彼女は伺うようにこちらを見ていた。

 まるで、何かを怖がる子供のように……

 俺はそんな彼女に……

 こちらへの誠意として、迷いながらも自分の情報を見せてくれた彼女に――


「ナイア。すまん。ぶっちゃけ全く参考にならなかった」

「ええ。桁が違いすぎましたね。スキルも万能のようですし……」


 ――頭を下げた。


 ノワールも申し訳なさそうにしている。

 ううむ。せっかく見せてくれたのは嬉しいが、これは予想以上だ。

 規格外だとは知ってたが、ここまでとは。

 戦闘においては、遠近弱点ないみたいだし、これを参考にノワールの強化の方針を決めることは難しいだろう。

 俺とノワールが頭を下げていると、ナイアはポカンとしていた。

「……ノワール。俺たちはまた何かやらかしたのか?」

「分かりません。……分かりませんが謝りましょう、ご主人。ナイアが泣くと、私は罪悪感で死にそうです」

「お前もか」

 などと、ノワールと話しているとナイアがぽつりと聞いてきた。

「……妾が怖くないのかのぅ?」


 それに対する俺たちの答えは――


「どうする? ノワール。この場合はどう答えたら良いんだ!?」

「……待ってください。ご主人。今、考えてますから」

「正直に怖くないって言っちゃうか?」


 ――悩ましいものだった。


 だって、この魔王。

 財産を盗んだ俺たちを殺さずに、人間の町まで送っちゃうようなお人よしだしな。

 見た目は幼女だし、怖がれという方が無茶である。

「いやでも、それはナイアの魔王としてのプライドに傷をつけませんか?」

「そこなんだよなぁ。……だが、普段の態度からして俺たちが怖がってるっていうのは無理がないか?」

「いや、ナイアはご主人と違って素直ですし……あるいは……」

「ノゾムゥー!! ノワールゥゥ!!」

 俺たちがこの難解について議論を重ねていると、急にナイアが抱きついてきた。

「嬉しいのじゃぁあああ!! 嬉しいのじゃあああ!!!」

 そう言って、泣きながら力を込めるナイア。

「ありがとうなのじゃぁぁああ!! 妾はっ!! 妾はっ!!」

 抱きつきながら泣くナイア。

 一体何が彼女の琴線に触れたのか。

 これまで彼女の人生に何かがあったのかもしれないが、五百年生きた魔王の人生なんて、十五歳の俺には想像も出来ない。

 きっと多くの苦難があったんだろう、ということぐらいだ。

 それこそ、あれだけのステータスを身につけるだけの何かがあったのかもしれない。

 ただ一つ言えるのは、今、抱きついているこの魔王様は……見た目通りに泣いている子供のようにしか見えなかった。


 俺は、嗚咽を漏らす彼女の肩を、優しく二回叩き、声をかけた。


「……ナイア。タップ。タップだ。締まってる。俺もノワールも締まっている。」

 俺たちは死にかけていた。

 思い出してほしい。今のナイアのステータスは一般的な成人男性の約二倍である。

 そんなナイアが全力で抱き着けばどうなるか。

「ご主人……先に……逝きます……」

「ああ……待ってろ。ノワール……俺もすぐ逝く……」


 答えはそう遠くなかった。

 ナイアが気づいて、腕の力を緩めるまでの間、俺とノワールは綺麗な花畑を楽しんだ。

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