第15話 「迷わず行けよ、行けばわかるさ」
ナリカネは激怒した。
必ずかの邪智暴虐の門番を懲らしめなければならぬと。
門番によって、ギルド内にお荷物男(物理)などという不本意極まりないあだ名が広がった俺は、必ずかの門番を見返すべく今まで以上に必至で依頼をこなしていた。
実際、ゴブリンを倒せるようになった俺たちパーティは少し稼ぎが良くなっていた。
ゴブリンは……というかゴブリンに限らずだが、モンスターと分類される生き物は、人間を見つけたら襲ってくるらしく、討伐証明部位としてギルドで決められている体の一部を持ちかえれば、ギルドから報酬が貰えるのだ。
ゴブリンの場合。右耳一つで銀貨二枚であった。
モンスターによっては、素材の受け取りも行っているらしいのだが、ゴブリンには使える素材はないらしい。
基本的に薬草採取などを受けつつ、現れたゴブリンをナイアに倒してもらうようになり、俺たちの稼ぎは一日で銀貨十枚。日本円で一万円ほどになった。今までのおよそ倍である。
その中から、宿代や食事代を抜いた金額をノワールに貯金し、二十万貯めてスキルを覚えるのを目標に、俺は鬼人と化した。今なら、双剣だって使いこなせそうだ。
そして、今日。
俺が門番を呪った日から七日。
ついに、ノワールに二十万という金額が溜まったのだった。
「……長かったなぁ。ここまで」
「……ええ。本当に」
「ううむ。五百年生きた妾ですらそう思うのじゃ。この一ヶ月は妾の人生の中でも一番長い月じゃった」
三人でしみじみと頷く。
いや、本当に長かったのだ。
でも、俺たちは登り切ったのだ。この果てしなく遠い男坂を……。
閑話休題。
「それではこれより、第一回ノワール強化会議を行う」
「おー!! です!!」
「おー!! なのじゃ!!」
おお。珍しいことにノワールもテンションが高いな。
まぁ、<スキル>としては、俺たち以上に待ち望んだはずだからな。
「じゃあ、ノワール。改めて説明を頼む」
「はい! 私の能力は金額に応じて<スキル>及び<ステータス>を上げることが出来るというものです」
「うむうむ」
「そして、現在二十万という金額が溜まっており、今回の会議はこの貯金額を使って、何を覚えるべきかというものです」
「ほうほう」
「そして、二十万で覚えられるスキルがこちらです!!」
ノワールはそう言うと、手元に不思議な白い板を出し、俺とナイアに見せてくれた。
現在の貯金額で習得可能
<スキル名一覧>
片付け
掃除
清掃
洗濯
皿洗い
料理人(見習い)
雑草取り
芝刈り
庭いじり
etc.etc…。
そこには途方もない量の生活関連スキルが並んでいた。習得金額も五万から二十万と幅がある。
……ノワールには悪いがとても見ていられない。分厚い辞書を読んでいる気分だ。
「……なぁ、ノワール。戦闘系のスキルだけ見せてくれないか。」
「……そうですね。分かりました。」
「良いのぅ。妾はどんなに頑張っても料理は上達せんかったからのう……」
ノワールがスキル表示を操作している横で、ナイアがぶつぶつ何かを言っていた。
何かのフラグになる気がする。
俺は今のナイアの発言を、しっかりとレポートにきろくした。
「……っと出来ました。」
そう言って、ノワールがまた、リストを見せてくれた。
習得可能スキル一覧(戦闘)
体術(初級)
盾術(初級)
剣術(初級)
槍術(初級)
弓術(初級)
鞭術(初級)
鎌術(初級)
etc.etc…
「多いわっ!!」
そのリストを確認した瞬間、俺は叫んだ。
実際、武器一つ一つにスキルがあるようだ。
選択肢が多いのは良いことだが、日本人の俺からしたら無駄に悩ましいだけだ。
優柔不断民族を舐めてはいけない。
「そんなことを言ったってしょうがないじゃないですか。」
某タレントのようなことを言うノワール。だが……
「うーむ。……しかし、ノゾムの意見も分かるのじゃ。これではいつまで経っても話が終わらん気がするのじゃ。」
今回はナイアも俺の味方のようだった。
とりあえず、スキルの候補を見る前に、方向性を決めておこう。
その方が早い気がする。
「まず、覚えるのが体術系か魔術系か。ということを決めないか?」
「うむ。その方が良いと思うのじゃ」
「残念です。私としては、このリストを見るのも楽しみだったのですが……」
ノワール。
気持ちは分かる。俺だって前世では、自分が買えるものを見てニヤニヤしてたからな。
……だが、少しリストが多すぎる。ここは諦めてもらおう。
「俺としてはパーティに足りない所を補っていくべきだと思うんだが……」
「それなら、ナイアが足りない所を私たちが補っていくべきですね」
「妾に足りない所とな?……ううむ。ぶっちゃけ、妾は元々、魔法も身体能力もピカイチじゃったからのぅ。戦闘を苦手に感じたことはないのじゃ」
確かに。
この幼女。こんな見かけで俺を軽く担ぐからな。
「だが、今は弱体化しているんだろう?」
「それはそうじゃがのう。……そう言えば、今更じゃが――」
そこでナイアは言葉を切った。
こちらを見て続ける。
「――ノゾム。自身のステータスがどのくらいか確認しておるかの?」
え? いきなり、何を言っているんですか。この幼女は。
合コンか? 合コンなのか?
身長とか、学歴とか、収入とか聞いて、品定めするアレなのか?
怖いな。幼女でも女子は女子か。
「……いや。良く分からないな。」
とりあえず、そう返しておこう。
「やはりそうかの。どれ<ステータス>と言葉にしてみよ」
え?異世界怖い。そんな簡単にスペック見れんの?
とりあえず、言われたとおりにする。
「<ステータス>」
すると、目の前になんか出た。
白い板みたいなモノに、こう書かれている。
名称
<ナリカネ ノゾム>
LV:1
HP :60/60
MP : 0/ 0
攻撃力 :10
防御力 : 7
魔力 : 0
魔力防御 : 0
速さ :12
所持スキル
<ノワール>
称号
<来訪者>
<貯金好き>
「なななっ!! なんじゃあっこりゃぁ!!」
俺は板を見て、声に出して驚いた。
え? なにこれ!! なにこれ!!
俺のスペックってこと? こんなRPGみたいな感じで表示されんのか!?
ってかっ……えっ!! 低っ!! 分からんけど、多分、低いよな! コレ!!
「……ノゾム。妾も見て良いかの?」
「ご主人。私も気になります」
俺が動揺してると、二人が声を掛けてきた。
俺はとりあえず、白い板を2人に見えるように回す。
「……おおぅ。これは」
「……ナイア。解説をお願いしても良いですか? 私では、このステータスがどのくらいなのか理解できません」
「……少々、酷な気もするがのぅ。分かったのじゃ」
ナイアは俺に同情的な目を向け、息を整え、そして言った。
「この世界。戦闘に関わらん成人した人間のステータス平均が20位と聞いておる。それに照らし合わせるとノゾムのステータスは全体的に見ても、低めであると言えるじゃろう」
「そうなんですか」
「うむ。特にMP、魔力、魔力抵抗に至っては0じゃ。ステータス一覧で0など妾は初めて見たのじゃ」
マジかよ。
五百歳魔王が見たことないって、相当なんじゃないだろうか。
俺のステータス。
「コレらが0だとどうなるんです?」
「恐らく、魔力が一切ないということじゃろう。魔法も使えず、魔法を打たれたら一発で即死じゃろうな」
俺はどうやら、スペランカーのようだった。
「……さすがにこれは、茶化せませんね。ご主人。」
「……」
ノワールは珍しく、俺の傍にきて、俺の背中を撫でてくれた。
優しさが痛い。
「じゃが、それも今のステータスの話じゃ。幸い、ノゾムのLVはまだ1じゃし、これから上げていけば良かろう」
「上げられるのか!?」
俺はがばっと起きて、ナイアに聞く。ナイアはびっくりしたようだったが、小さく続けた。
「う…うむ。モンスターなどを倒すことで経験値が入るはずじゃ。そうすればLVも上がり、ステータスも上がるはずじゃ」
「なるほど。そういうシステムなのか。」
……まるっきり、RPGじゃないか。
この世界。俺が居た世界とはずいぶん違うということは感じていたが、今回の発見は正直予想外過ぎた。
なんというか、俺が信じていた世界というもののあり方が崩れていくような――
「というか、その前にノワールでステータスを上げれば良いではないか。」
――俺が考え事をしていると、ナイアが閃いたというように声を掛けてきた。
あ、その発想は無かったな。
俺は逸れていた思考を戻すことにする。
「そうか。その手があったか。」
「うむ。そもそも、今のステータスでは仮に、何かの<スキル>を覚えたとて、使いこなせんじゃろうよ。当面はステータスを上げることを優先するべきじゃろうな。」
ふむふむ。と俺がナイアの言葉に頷いていると、気まずそうにノワールが声を掛けてきた。
「……あの。」
「どうしたノワール?」
「うぬ? 歯切れが悪いなど珍しいの?」
ノワールは俺と魔王を見た後、言葉を続けた。
「私の説明が悪かったのですが、私ではご主人のステータスを上げることは出来ません」
……
…………
………………はい?
ノワールは固まった俺たちを見て、覚悟を決めたように頷き、小さく呟いた。
「<ステータス>」
俺と魔王の前に白い板が現れる。
名称
<ノワール>
LV:1
HP :20/20
MP :20/20
攻撃力 :5
防御力 :5
魔力 :5
魔力防御 :5
速さ :5
所持スキル
称号
<ユニークスキル>
<自我を持つ者>
貯金額
¥200,000.-
「私の能力で出来ることは、貯金額を消費し、『私』がスキルを取得すること、もしくはステータスを伸ばすことです。」
……
…………
「救いはないんですかぁ!!」
俺はようやく登り始めたらしい。このはてしなく遠い男坂を……。
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