水のなかった星

子山妙

プロローグ

 水の音が聞こえる。空気を震わせながら伝わった微細な振動が耳から入り込み、体全体に響き渡っていく。同じ音の繰り返しのようにも、同じ音など一瞬たりとも存在せず、常に新しい音が生まれているようにも思えるくらい、似た音が延々と生み出され続ける。そう、ここは水の惑星。私たちの住む星には存在しないものに満たされた惑星。


       *


 私は川沿いに広がった原っぱに寝転がっていた。Tシャツ越しの背中から、やわらかい芝生の感触が伝わってくる。芝生なんて普段から慣れ切っているはずなのに、そこに水が流れているというだけで特別なものになる。


「あ、ここにいた」


 水の音に乗った人の声が、私の意識を引き寄せた。


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水のなかった星 子山妙 @myokoym

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