もう一つのエピローグ

 潮風を体に受け、その暖かさに夏の訪れを感じた。

 闇から闇へ、真実が葬り去られることを危惧しかなり慎重に立ち回ってきた。だが、それも無用の心配だったようだ。

 彼女の口から少しずつ引き出した事実を、やがて市長は認めることとなる。薄々勘付いていながらも目を閉じていたことを。

 そうして、連続殺人犯の死亡が確認されると、逃亡中の殺人犯の名は自然と忘れられていった。警察もそちらを盛り上げ自分たちの失態から目をそらそうとする。


 エマーソンは海の見える丘に立てられた墓碑を前にする。


「どこで間違ってしまったんだろうね」

 彼らが出会ったのは偶然だった。

 しかし、一線を越えてしまったのは間違いなく彼らの意思だ。

 それぞれがそれぞれの願いを叶えるために、人として踏み込んではならない領域へ行ってしまったのは、どんな状況にあったといえども彼らの責任なのである。

 悲しい偶然。

「いや、それすらも呼び込んだ」

 想いが、出会いを生む。


 エマーソンは華やかな色をした花束を墓碑の前にそっと置いた。

 そこは、メアリ・マイヤーズの墓だ。

 訪れるものをなくした墓は、あっという間に朽ちて行くという。

 真実を知る一人として、同僚として毎月花束を添えてきたが、とうとう自分にも変化が訪れた。長く親しんだ土地を離れなければならなくなったのだ。

 心残りはいくつもあるが、そうやって人は生きて行く。

 

 空を見上げる。

 そこには、相変わらず美しく夕日に輝くイーハーがあった。

 本を主とし、再び成長を始めたイーハーは、しかし、今度はもう少しだけ人間に興味を持ってくれればと思う。

 一つだけを追い求めると、見誤ってしまう。

 間違いを犯してしまう。

 次はそうならないために、世界へと目を向けよう。

 世界は、可能性に満ちているのだから。


 別れの挨拶をして、彼もまた、新しい道へと踏み出した。


      了 



~以下、サイトに掲載時つけていたコメントです。


あとがきみたいなもの。

はっきりと明確に書いていない部分も多いです。

今は必要ないのではないかと思うからです。

あと、1888年のあの事件がでてきてるのは、たしかに好きだからってのもあるけど一応意味もあるんだよ! そのうち!! 今いくつか書きたいものというのがありますが、それらが全て終わったら私はこの作品を書き続けて行くんだろうなと思ってます。

いつか本当の終わりを書けることを祈って。

2008.2.16 鈴埜

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イーハー空中図書館殺人事件 鈴埜 @suzunon

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