第2話
その場から一番近い町、
桂木は国境に近い宿場町で、仕様、値段、客種もさまざまな宿が軒を並べる。その中から道長が「ここにしよう。」と入ったのは、派手な呼び込みはなく、入り口はひっそりとした
そんな宿で政次は当たり前のように四つ――つまり香絵の分まで――部屋を取った。
見るからに上客である彼等を案内したのは番頭で、客商売がしっかり身についているデキた番頭は、泥にまみれたボロボロの女を連れた一行に胡乱な目を向けることもなく、提供する自慢の部屋の説明をしながら廊下を歩いた。
隣り合った四つの部屋の中で、他の部屋よりも幾分広いひと間へ、四人一緒に通される。
部屋へ入ると道長は、香絵の着替えをすぐに用意するよう番頭に言い付けた。
「まず、湯でも浴びてきなさい。あんな所にいたのだ。身体が冷えただろう。そなたの衣は洗わせておくから、それに着替えるといい。」
香絵は、番頭が手配した宿の女の持っている衣をちらっと目で確認して、黙って頷く。
「では湯殿までご案内いたしましょう。」
香絵が宿の女と出てゆくと、道長は供の二人と打ち合わせを始める。
香絵を連れてきたために変更となる明日以降の予定確認と、今日の視察の要点だけ。詳細は帰ってからまとめればいい。手早く済ますと、疲れているだろう供達を仕事から解放した。
香絵は宿の女に浴室へ案内された。
女は当然といった
女は不思議そうな顔をしていた。
大体この国で姫が、いや、若い姫に限られたことではなく、子どもでも年寄りでも、女が旅をすることなどまずない。それに宿の女は過去に奉公に出た経験があるので、ある程度上流階級の生活を見聞きしているが、彼女の知っている限り姫は――ここの宿賃を払えるほどの良家の姫君ということだが――一人で湯を浴びるなどしない。出来ないと言うべきか。必ず手伝いの手が必要なのだ。
だが宿の女は、香絵の衣を見て考えを改めた。妙な型の衣。きっとどこか他国の姫なのだろう。
女は番頭に――番頭は道長に――香絵の衣を洗うように言われている。香絵が恥ずかしくて脱ぎにくそうにしているのは気付かないふりをして衣を脱ぐのだけ手伝うと、「それでは後でお迎えに参ります。」と言って、香絵の衣を持って退がった。
香絵はサッと体の汚れを洗い流す。身体のあちこちに小さな擦り傷があって、お湯が沁みた。どれも大した傷ではない。この程度なら放っておいてもすぐに治るだろう。
香絵は落ち着かない気分のまま全身を洗い終え、用意された宿の衣を身に着ける。
浴室を出た時、ちょうど女が戻ってきて、道長の部屋へと連れて行かれた。
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