第6話 世界観

 翌日、ゲーム専攻の授業が終わり今日は上伊那さん含め3人で学生ホールに来ていた。

 上伊那さんは、ボブヘアーの髪を櫛でといて普通の女子アピールをしていた。

 その姿を見て安曇さんは、目を丸くして驚いていた。

「あの、上伊那さん? 雰囲気変えた?」と安曇さんは疑う。

「え、ええ? なんのことかな、前と変わらないよ」

 上伊那さんの弁解は無理がある。

 SRTA奔走中の上伊那さんの生活態度は、休み時間は机に突っ伏してたり髪の毛もアホ毛、外はねにも気にせず外に出てたり女子とは到底呼べないような態度で、いきなり女子力的行動にうつしても不自然極まりない。

「それより、何でさがみんと今日ゲームする約束してるの?」

 上伊那さんは一刻も早く、話題を逸らすためにそう言った。

「んー、どう言ったらいいかな? チームで簡単なゲームを作るんだけど昨日、相模くんと燕さんでゲームの方針を決めたの。

 それで、アニマルライフを手本にしたゲームを作ることにしたんだけど、今日はそのゲームの研究会?

 一人で探ってもつまらないし」と安曇さんは苦笑いで言う。

「いや、それはいいとして、さがみんが他人とゲーム研究会とかおかしい!」

 安曇さんの言葉に対して次は上伊那さんが僕に指を差して言った。

「僕が?」

「全然、検証つきあってくれない!」

 なんて横暴な!

「上伊那さんの検証はデバックだよね!

 しかも、1フレーム技とか強要してくるよね!」

 1フレーム技とは、SRTAの用語だ。とは言うものの、1フレームとかフレームの単位自体は、ゲームの開発用語である。

 ゲームの画面は秒間隔の処理ではなく、おおまかに1秒間に30回、60回の入力、処理、出力、描写を繰り返して行うのだ。

 つまり、1フレーム技とは30分の1秒または、60分の1秒の一瞬の間で適切にコントローラーの入力を行わなくてはいけない。

「当たり前でしょ? 1フレーム技ができてから検証になるんだから」

 上伊那さんは、SRTAを軸に生活をしているような人なので、こういう風に無理難題を押し付けることがある。

「だから、無理なんだよ僕には! レベルが高過ぎ」


「お待たせです」

 燕さんが息をきらして学生ホールに入ってくる。

「なんで息きらしてるの?」と安曇さんが言う。

「エレベーターが満員で私、人が密集してると息押さえる癖があって」

「聞いてるこっちまで苦しいわ」と安曇は、血の気を引かせた。

「集まったことだし始めようか?」

 僕と上伊那さんは、ゲームを立ち上げた。

「うん」


 アニマルライフは、4人マルチプレイができる。

 マルチプレイができてゲームでは何ができるかと言うと、シングルプレイとなんらやることは変わらなかい。

 友達と虫取したり魚釣りしたり、家のレイアウトを見せあったりお気に入りのファッションを見せあったり、ショッピングしたりとやることは変わらない。

 元々、アニマルライフは昔からあるゲームで今でもベースとなる要素は昔から受け継がれている。

 昔はゲームの通信技術は乏しく、アニマルライフもそんな時代に出てきたゲームだ。

 だから、マルチプレイを考慮できていないのだ。

 確かに、今回のアニマルライフは離島に出掛けることができて、そこでならマルチプレイを考慮した遊びがふんだんにある。

 だけど僕個人としては、それは違うのだ。

「ねぇ、相模くんはどう思う?」と安曇さんが聞く。

「マルチプレイ辺りの要素を強化したいね。

 確かに今回のアニマルライフは、離島で色んなミニゲームがあってそれがマルチプレイの要素としてはいいと思うけど、僕としては村にマルチプレイならではの要素を入れて欲しかったな。

 村でのマルチプレイのやることの少なさを離島のミニゲームとしてカバーしてる感じがして」

 率直な意見を言った。

「マルチプレイの強化ね......。上伊那さんは?」

「え? 私は特に......。でも、内部的に言うなら私は、ゲームの進行時間をリアルタイムの時間じゃなくて、ゲーム内時間で管理したいかな? コンパクトに」

「進行スピードは、ゲーム内時間で......。燕さんは?」

「私は、俯瞰視点って言うのかな?

 固定カメラじゃなくて、自分で見渡せる感じがいいかな?

 色んな角度で世界をみたい」

「カメラ操作可能......と」

 安曇さんはメモを取りながら一人一人に感想を聞いた。

「じゃあ、こういうのどうかな?

 私が考えてるのは、アニマルライフをモチーフとしたオープンワールドのゲームシステムを採用したスローライフゲーム。

 オープンワールドと釘打つんだから、アニマルライフにはない要素として、クラフト要素を入れるの!

 例えとして、壁と床と屋根のパーツを組み合わせて自分なりの外装や間取りにできたり、畑を耕すことで、農作物を育てることができたり、乗り物に乗ったり、自給自足の生活ができるゲーム」

 安曇さんの中ではもうゲーム画面が出来上がってるのだろう。

 これからは、僕の役目だ。

 僕はプランナーを目指している。

 これから僕のやることは、ディレクター役である安曇さんの中にあるゲームの情景を細かく聞き出して整理、意見、提案をすることで、企画書に落とし込んでいく。

 幸い、企画書に必要な絵はアーティスト志望の燕さんがいる。

 仕様書に必要なアルゴリズムやコーディング規約は、プログラマー志望の上伊那さんがいる。

 これから、このゲームが形になるかどうかは僕の匙加減だ!


 夕焼け差し込む淀川を渡る電車の中......上伊那さんだけではなく、燕さんも安曇さんもろくろーおじさんのチーズケーキを片手に座っていた。

 僕は、女の子達の前に立ち憤怒の表情を浮かべていた。

「おい、なんで燕さんと安曇さんのぶんも奢らないといけないんだよ!」

「え、いいじゃない! 上伊那さんだけだなんて小さい人じゃないんでしょ?

 それとも、付き合ってるの?」

 安曇さんの言葉に上伊那さんは、顔を赤くして首をブンブン横に振った。

「ぜんぜん、付き合ってもないよ!」

 きっぱり・・・・・・!

「あーあ、フラれた」

「悲しいなぁ」

 当たり障りのない会話をする。

 揺れる電車の中、淀川を渡ると上伊那さんは、十三で乗り換え、安曇さんと燕さんは三国で降車して僕だけがしばらく宝塚線に揺られていた。

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