エッセイ3『書くことそのものに意義がある』

 さて、小説を書くうえで、どうしても気になってしまうことがあると思います。

 ボリュームです。

 今日は書き進めるぞ、と思って取り掛かってみたけれども、筆が進まなくて千字くらいしか書けなかった、ということが時々あるかと思います。また逆に、今日は少しだけにしておこうと思っていたら意外に進んでしまって一万字も書けた、とかいう経験は多くの方にあるのではないでしょうか。

 調子よく書き進められた場合のことはさておき、思ったよりも書けなかったりすると、人によって程度の差はあれがっかりした気分になるかと思います。せっかく頑張って書こうって決意したのに、思ったような成果を上げられなかった。残念な気持ちになりますよね。

 特に連載作品を手掛けていると、このことがプレッシャーになったりすることがあるでしょう。更新したいと思っているのにそこまで辿り着けないと、焦りそうになるかもしれません。もしも読者から「更新を待っています」とか声を掛けられたりしていたら、なおさらのことです。

 中には「一日に○千字書く!」と決めて挑戦している作者様をお見かけすることもあります。

 大変立派で、素晴らしい挑戦だと思います。

 やろうって自分に約束することは、それだけ真剣に創作に向き合おうとしている姿勢のあらわれですから。その気持ちは何よりも尊いと思うのです。

 一方で、仕事や学業、そのほか様々な状況があってなかなか創作の時間をつくりだすことができず、悪戦苦闘していらっしゃる方も多いと推察します。

 私も日中は仕事があって、普段は夜帰宅してからでないと執筆できません。

 ですから、なかなか書く時間をとれないというもどかしい思い、及ばずながらもわかる気がします。

 このように「書きたいのに書けない」「書こうと思っても書けない」ということがあると思います。

 でも、まずは「書きたい」「書こう」と思っている自分を認めてよいと思います。

 一生懸命に「書きたい」「書こう」って、思っているのですから。

 つまり、創作に向き合おうとしているっていうことにほかならないといえます。前稿でも述べたように、そのような気持ちをもつことがまず何よりも尊いことです。思ったように執筆が進まなかった=成果をあげられなかったとしても、それはそれです。今日という一日の中で「創作に取り組もう」って思った自分がいたならば、成果に結びつかなかったとしてもその自分を否定する必要はないと思います。

 そればかり繰り返したらいつまで経っても執筆作業にはいれないかもしれない、と心配する人もいるかもしれません。

 いいえ。

 今日上手くいかなかったら明日はなんとかしてやればよいのです。まだ明日はやってきていないのです。過ぎ去った今日という時間は戻せませんが、明日という未来を自分の力で変えることはできます。

 ここは少し気合が要るかもしれません。

 でも、あまり難しく、ハードルを高く考える必要はないと思います。

 昨日は書けなかった。

 でも、今日は五十字書いた。

 それは前進です。成果です。昨日できなかったことを今日は成し遂げた。それを前進と呼んでいいと思います。

 五千字、一万字じゃないから駄目だ、なんて思う必要はないでしょう。

 書きたい、書こうと思って実際にそれを実行できたなら、そのこと自体がまず大きな進歩なんです。問題は字数の多寡ではなくて「書くことができた」という事実です。

 もちろん、たくさん書けたらそれに越したことはありません。

 でも、たくさん書かなくちゃいけない、ということはないのではないでしょうか。ここが大切なポイントではないかと思います。

 小説を書くことを生業にしている人は別です。

 しかしながら趣味で、好きで書いているのだったら「これだけの量を書かなかったら小説を書いていると公言してはいけない」なんていうことはないじゃありませんか。百字だろうと一万字だろうと、書くという行動そのものが素晴らしい成果なのです。

 一日一文でも一行でもいい。

 書けたら、書けた自分を褒めましょう。

 今日も書けたな、と思ったら、自然と意欲が高まってくるものです。


 小説を書くということは、自分を表現するということ。

 これは簡単そうにみえて、簡単なことではありません。

 それができたということは、とても大きな進歩なのです。

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