鳥籠の真実

昔語り

 むかしむかし。

 本当に遠い昔の話だ。


 この街は、こんな姿じゃなかったんだ。

 もっと広くて、大きくて、天上は覆い隠されておらず、青い空がどこまでも無限に広がっていた。


 そら――という言葉すら、お前たちには解らないだろう。


 天上はな、今のこの街のように暗い壁なんかじゃないんだ。昼は青い空、夜空には輝く星々が見える。

 大地だってそうだ。硝子森があって砂嵐があって終わりなんかじゃない。大きな森があって、川が流れて、広大な陸地があり、その先には海がある。

 雨が降ったり、風が駆け抜けたり……。

 世界とは、美しく広大なものなんだ。


 お前たちには解らないのだな。


 すまない。

 解らなくしてしまったのは、我々だ。


 はるか昔。この街は戦争に巻き込まれた。

 戦争という言葉も、理解が難しいだろうな。


 たくさんの人間が、一斉に、集団と集団でひどい争いをしたんだ。

 人がたくさん死んだ。街がたくさん焼かれた。それでも終わらなかった。


 この街にいた王や貴族たちは、そんな争いをもうやめたかった。

 だがこの街に伝わる魔法の力は強大で、使い方を誤れば世界を滅ぼしかねないほどのものだった。

 だから、その力を戦争に利用する為に攻め込んできている、外の国々――敵には、何としても渡すわけにはいかなった。

 この街は、攻めてくる敵に、必死に抵抗していたんだ。


 私は、そんな街に侵入した敵国の人間だった。

 戦争に巻き込まれて、行き場を失った無力な市民を装って街に入り込み、夜になるとこっそり城に忍び込んだ。

 城や街の状況を調べ上げ、黒い鳥を使って海岸に待機している自国の軍と連絡を取り合い、確実に城を落とせる時を見極める。それが私に与えらえた役割だった。

 私が、今だと合図を出せば、街は滅びる。

 そんな仕事だった。


 だが、私は忍び込んだ城で、彼女――エトランゼに出会った。


 エトランゼは美しく、儚く、純真で、穢れなき存在だった。血と涙で汚れきった私には、眩しすぎるほどに。

 私は、やがて仕事のためにではなく、エトランゼに会いたい一心で城に忍び込むようになった。

 何度も何度も逢っているうちに、私は、エトランゼを護りたいと思うようになった。


 ある日、親衛隊に見つかり捕らわれた私は、牢獄の中でアータ博士に出会った。

 アータ博士は、敵国の間者である私に、優しい言葉で話しかけてくれた。

 そして、共に姫を護ろうと言ってくれた。

 私は、アータ博士の提唱する「カゴミヤ計画」に賛同することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る