月を頂く塔、追撃

 アヤとシノは、思いがけず再会した幼馴染みのサヨが、目の前で泣きだしそうな声で女王に訴えかける姿を見て、何も出来ず、困惑していた。


「あ……あの……」


 シノが何か言おうとしたその時。

 先程までジウ達が立っていた辺りの床に、強烈な光と共に魔法円が現れた。


「ジウ! 記録書を!」


 ユキが叫んだ。

 魔法円の上、光の中に人影が浮かぶ。

 考えるより先にジウの右手が動いた。

 指先にあった小さな魔法円は、ジウの右手が触れた途端、光って形を変え、ジウの家紋を描き消え去った。


「サヨ、立って!」


 シノがアヤと共にサヨの腕を掴んで立ち上がる。サヨは、幼子がいやいやをするように頭を左右に振って抵抗した。


 ジウは慌てていたのか、記録書の下にあった木箱も一緒に持ち上げてしまった。


 光の中の人影が濃くなり、光が弱まっていく。


 ――ジュナだ。


 ジウは木箱ごと記録書を抱えて、ユキの方へ駆け寄った。

 ユキは先程、本棚から取り出した本を脇に抱えて、剣を構えていた。


「エトランゼ!」


 サヨが叫んだ。声が室内で反響する。

 シノとアヤがなんとかサヨの腕を引いて、ジウとユキの元へやってきた。


 直後、光が消え去り、槍を構えたジュナが現れた。

 ジュナは、また元の虚ろな瞳に戻っていた。


「アサが来てはならない。タイヨウがのぼってはならない」


 ジュナはそう言い、ジウ達から女王を護るかのように立ちはだかった。


「ひめさまをまもるため」


「今度はひめさまかよ」

 ジウがぽつりと呟く。

「あの椅子の人、何なんだろう」


 シノも、アヤとサヨの前に出ながら言った。


「女王、エトランゼ、ひめさま。全部彼女を指しているように思うが」


 アヤもサヨをかばうようにしながら言った。


「それより、退路を確保しないとまずい。ジュナに勝つ自信はないよ」


 ユキが緊張した声でそう言った。


「ここから出たいの? なら、わたし、壁のどこかに開いた穴に入って、さっきの所まで滑り落ちたの。その穴が見つかれば……」


 と、サヨが言った。

「穴?」

 素早くユキが反応する。


「壁伝いに歩いたら、急に壁がなくなって滑り落ちたの。だから、壁に穴が開いてたんだと思うけど」


 四人はサヨの言う穴を探した。


「あ、あれじゃない?」

 シノが横の壁にある正方形の穴を指した。

 半球型の室内の壁の半周は本棚で埋められているが、残りの半周は白い壁のみで、本棚のすぐ横辺りに正方形の穴が開いていた。本棚とほぼ同じ、ジウの腰くらいまでの高さの穴で、かかめばジウやユキでも入れそうなくらいの大きさの穴だった。

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