カラスの椅子

「よく来たな。運命の子たち」


 そう言った人影は真っ黒で、ぐったりと椅子に体重を預けていた。


 ジウたちは全員、あの「コルボ」を思い出した。

 だが、直後、別人ではないかと思った。


 男は、髪も瞳も、服も、全てが真っ黒で、四人を通路に導いた男と同じ、暖かそうな獣の毛皮のような上着も着ていたが、頬はこけ、眼窩は落ちくぼみ、目の下には酷い隈が刻まれ、髪の毛は床を這うほど伸び放題に伸びて、あの力強いコルボと同一人物とは、到底思えない様子だった。


 更に、室内は異様な光景で、四人はすっかり言葉を失ってしまった。

 男が座っている大きな椅子の後ろには、巨大な白い円柱があり、天井にまで到達しているそれからは、大量の細長い管が出ていて、それらは床を這い、男の体のあちこちに接続されていた。

 痩せこけた男の頭に被せられている無機質な金属の輪の四方から。

 力なく肘置きの上に置かれた、骨と皮だけの指先、十本全てに着けられた無骨な指輪のようなものから。

 両手首に嵌められた鈍色の輪から。

 両足足首を縛り付けている枷のような輪から。

 四肢のあちこちに嵌められた金属の輪、全てから、太さは様々だが、灰色の管が伸び、円柱と男を繋いでいる。


 円柱には、巨大な魔法円と大量の古語がぼんやりと光り、浮かび上がっていた。

 床は、男の黒髪と管の束で、足の踏み場もないほどだった。

 部屋の四隅には、透明な、大人一人がすっかり入るくらいの背の高い、円筒形の水槽のようなものが置かれており、中には透明な液体が満たされている。

 液体の中、筒の中心あたりに、硝子で出来たような球体が一つ浮いている。そしてやはり、筒の根本から出ている管が、男の身体へと繋がっていた。

 あまりの管の数に、どの管がどの装置と、男のどの部分を繋いでいるのか、もう解らないほどだった。


 まるで囚人だ。


「そんな!」

 シノの涙まじりの声が沈黙を破った。

 シノはフラフラと男に近付き、管だらけの男の手元にしゃがみこんだ。


 アヤが止めようか躊躇しているうちに、シノは男の骨のような指に触れて、男の瞳を覗き込んだ。


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