灯を受け継いだ者

 四人は、シノがコルボと思われる男を見たという通路の奥に向かった。


 天球儀の部屋を出る時、ジウはふと思い出してユキに声をかけた。


「そういや、ユキのはどんな夢だったんだ?」

「ああ」


 問われたユキは、何故か少し照れくさそうに答えた。


「皆とは全然違ったんだ。皆みたいにハッキリとした夢じゃなかった。何だか、暖かくて柔らかいところで、眠っているような、よく解らないけど、すごく幸せな感じがした。全部忘れて、このままでいたいような、そんな感じだった」


 シノが「へえ」と言って、ユキの顔を覗き込んだ。


「ユキだけ、なんだか普通の夢だったんだね」

「ふふ。ほんとだね。でも、何だろう。不思議な感じはしたよ。誰かにすごく愛されてるって感じて、とにかく、本当に幸せだった」


 話しているユキの表情は、いつもよりさらに穏やかで、本当に幸せそうに見えた。ジウは、ユキとは幼馴染の間柄だが、こんな表情を見たことはなかった。


 ユキの母親は、ユキを産んですぐに亡くなった。今、家にいるのは、ユキの父親の二人目の妻で、ユキの弟妹たちの母親だ。家を継ぐのは、その母親が生んだ弟だ。


 だから、ユキは出兵する。

 小さい頃からそれを覚悟していたユキの表情は、穏やかでも楽しそうでも、どこか少しだけ寂しそうだった。


 ――おい。出兵するくらいならぼくの家に来いよ。


 ――そんなことしたら、だれが出兵するのさ。ぼくしかいないんだよ。


 幼い頃のユキとのやりとりを、ジウが思い出しているうちに、一行は一番奥の扉に辿り着いた。


 最後の扉は、通路の突き当りにあった。

 一番最初の砂嵐の中の扉と同じような形で、二枚の扉を手前に引いて開ける造りだった。

 扉の表面には、今までのものとは比べ物にならないくらい大きな魔法円が描かれている。円の中心には、アータ家の家紋が描かれており、その外周に何重にも古語が書き込まれている。


 圧倒的な存在感に、四人はため息をついた。

 アヤが一歩踏み出して、魔法円を鋭い目つきで調べ始めた。


「ここに…… 制御する…… 街を…… カラス…… 人……柱……? 身体……を……繋ぐ? この扉に触れる者、アータの継承者。ハリの継承者。灯……を……受け継いだ者」

「ハリ?」


 アヤがところどころ読める単語を読み上げると、シノの家名「ハリ」が出てきたことに、驚いたシノが声を上げた。

「アヤ、そこにハリって書いてあるの?」

 ユキが声をかけると、アヤも難しい顔をして振り向いた。

「ああ。手元に資料がないから、確信は持てないんだが、ここに」

 アヤは外周の文字の一部を指した。

「ハリの継承者。灯を受け継いだ者、とある」

「ともしび?」


 ジウは言いながら、シノの胸元の飾りを見た。


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