カラスの決意

 満月。

 ジウの大嫌いな満月。

 この街を照らす光。

 この街を支配する光。


「なら、あの夢が大昔の現実の光景なら、ここは王様のお城の地下室ってことか」


 震える声でジウが言う。冷静を保つのが難しい。


「そうだ。塔以外はほとんど原型を留めていないが、この辺り一帯は王城とその周辺の街だったんだろうと思う」

「じゃあ俺が見たあの青くてきれいな場所も、ずっと昔のこの街のどこかってこと?」


 シノが言う。


「そうかもしれないな」


 アヤが答えた。そして扉を見つめて「とにかく」と切り出した。


「シノが見た黒ずくめの奴が手掛かりだ。シノの夢の中のコルボと同一人物かどうかは別として、この通路の中にいるそいつを見つけ出せれば、何か解るかもしれない」


 そこまで言って、アヤはジウの瞳を真っ直ぐに見た。

 ジウは、アヤを見つめ返して、我知らず呟いた。


「俺は、知りたい」


 他の三人も頷いた。

 もう、何も知らなかった頃には戻れないのだ。






 ――ねえ。あなた、まるでカラスみたいね。


 なら、私はカラスと名乗りましょう。

 見知らぬエトランゼ、貴女のお名前をお伺いしても?


 ――エトランゼ? 素敵な響きね。

 ――私はエトランゼと名乗ることにするわ。


 ならばエトランゼ。貴女に捕えらえた哀れなカラスめに、何をお命じになられますか?


 ――そうね。では、私をここから連れ出して。ずうっと遠くへ連れていってくださいまし。


 貴女が、お望みなるのならば。


 ――冗談よ。

 ――そうね。お話をしてくださらない? 貴方の国のお話。



「エトランゼ」

 男は口に出して呟いた。

 在りし日の記憶。

 鮮烈な、キラキラ輝く眩い色で溢れたあの景色。


「今度こそ、一緒に行こう。遠くへ」


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