若き小鳥の記憶1
――呑気なものだ。
王城へと続く門の一番最初。第一の門の前に立って、マウナは心の中でため息をついた。
今、この国は戦争の真っ只中なのだ。
大陸のほぼ中心に、四方を山と深い森に囲まれ、自然の要害に守られるように位置しているこの王都だが、現状はかなり深刻なはずだ。
この大陸には、それぞれ技術力に差はあれど、各国に魔術が伝わっている。
魔術は、自然を深く知り、共存することで、自然から分けてもらった力で、何かを起こす技術だ。火を灯す。風を起こす。水の流れを操る……魔術は自然と関わることならば、たいがいのことができる。
敵を攻撃することも。
ゆえに王国は、太古から、魔術を我がものにしようとする者や危険視する大陸の外の者たちから、攻められてきた。
その度魔術の力で対抗し、生き延びてきた。
だが、今度ばかりはそれも危うい。
永い時の中で、全ての人々の考えや行動を完全に統一するのは不可能だ。
国を裏切り、他国に魔術を売る者。そういった意図はなくとも、他国へ渡りそのまま永住する者やその子孫により、今、王国はかつてない危機に見舞われている。
魔術はその力をふるう者の先天的な素養が大きく関わるものだ。魔術自体は技術・技法だが、その技術によって得られる成果は、扱う者が生まれつき持っている魔力の強さによって大幅に変わる。
火を灯すにしても、細いろうそく一本に灯せるだけの者と、一瞬にして森をまるごと焼野原にできる者がいるワケだ。
その差、違いは、血脈によるものだ。
だから、他国がどんなに魔術を欲そうとも、魔力を持たぬ人間には扱えぬ技術なのだ。
他国の者との婚姻、他国への転居が王国で厳しく禁じられているのは、自国を護るための「魔術」を他国へ渡さぬためだった。
しかし、その鉄則も永い永い時の中で効力を弱め、少しずつ魔術の禁忌は外へと漏れ出していった。
大陸の外の国は、魔術を持たぬ代わりに、高い科学力を持っていた。
王国が魔力で得る力を、機械の仕組みによって得ているのだそうだ。
その外の国々は、少しずつ漏れ出す魔術の片鱗を、地道にかき集めて研究し、魔科学なる恐ろしい技術を生み出した。
魔科学の力は恐ろしく強大で、大陸は、海側からじわじわと侵略され、王国と共に戦っていた国も、一つ、また一つと落とされていき、すでにほとんどが外の国々の領土になってしまった。
マウナが生まれた頃にはまだ交流のあった国が、今では敵国になってしまっている。
長い戦乱の中で、この大陸で生まれ育った敵国の人間も多いと聞く。
同じ大陸で生まれ育ちながら、言葉がほとんど通じぬ者たち。
今、そんな者たちがこの王都の中にいる。
マウナは難民たちが住んでいる地区の方を見た。
王都の一番外れとは言え、敵国の民を受け入れて、中心地であるこの都に住まわせていることに、マウナはどうしても納得がいかなかった。
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