異国のひな鳥の記憶2
リューの左目は、この街に難民として潜入する際に、視力を失った。
民間人であると信じさせるため、リューも、母親役の女性も、丸腰で戦地を抜け、わざとボロボロになったのだ。
その際、厳しい取り調べを少しでも受けずに、一秒でも早く王都に入るため「緊急事態に見舞われている母子」を装った。
そのために、リューは自分で自分の左目を切りつけたのだ。
リューは軍の施設で育った。
切りつける時に、恐怖心はあったが、そうすることに疑いは持たなかった。当然の行動だと思っていた。
だが、半年後、リューの兄としてやってきたコルボは、リューの左目を見て涙を流した。
久しぶりに、ようやく再会した弟が片目を失っていたことに、ショック受けた兄を、完璧に演じていると思ったリューは、コルボはすごいと思った。
だが、あれは演技ではなかったのだと、最近になって気付いた。
コルボは争いを憎み、人々が傷つくことに心を痛めている。
こんな、優しく暖かい人を、リューは今まで見たことがなかった。
「コルボ様、そんなお顔をしないでください。この目は……」
この目は、自分で納得の上でやったことなのだからと言おうとしていたリューの口元に、コルボが人差し指を差し出して制した。
「コルボ様じゃない。兄さんだろ。俺たちは兄弟だぞ」
コルボはそう言うと、リューの頭を乱暴に撫でた。
リューは「そうでした、兄さん」と言って、照れ隠しに笑った。コルボを「兄さん」と呼ぶと、なんだかくすぐったい気分になった。
バサバサという羽音が響き、二人はハッと顔を上げた。
頭上の木の枝に、一羽の大きな黒い鳥が止まっている。
コルボとリューは今、王都の外周を囲う山のふもとの森に来ていた。この鳥を待っていたのだ。
コルボが左腕を掲げると、くちばしも、足の先まで、全てが闇の色をしたその鳥は、風を切る音を立ててコルボの腕に下りてきた。
コルボは慣れた手つきで、鳥の足に付いていた小さな黒い書簡を抜き取った。
コルボが左腕を高く上げると同時、鳥はすぐ近くの木の枝に舞い戻った。
この鳥は、この大陸に広く生息している鳥で、日常的に街のあちこちで見かける鳥だ。こうして訓練をすれば、怪しまれることなく、自国の軍本隊との連絡を取ることに役立ってくれる。当然、書簡の中の文章も暗号になっている。
コルボは無言のまま、暗号文を読んでいる。
リューも大人しく、コルボの言葉を待った。
「命令だ」
どのくらいだったろう。コルボはため息交じりに言った。
「王城を探る」
リューはコルボの言葉にどきりとした。
「じゃあ……」
「ああ。総攻撃が近づいている」
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