対峙する刃

 扉が閉まる音が響いた後から聞こえてきた足音は、着実にこちらに近付いてきている。それも、すごい速さで。


 さすがのシノも不安そうな顔になっている。

 ジウが来た道の方をのぞき込もうとすると、ユキが剣を構えながら左手で制した。


「みんな、下がってて」

 ユキは小声でそう言い、三人を武器だらけの部屋の中から出ないよう手で指示し、扉をほんの少しだけ隙間を開けた状態にした。その隙間から死角になるよう全員壁に張り付く。


 まもなく、足音が扉のすぐ前まで来て止まった。だが、止まったの足音は一つだけで、まだ少し遠くに他の足音が響いていた。


 ジウは、その音が残響なのか新たな足音なのか判別出来ないでいた。


 武器に囲まれた室内は、今まで四人が経験したことのない緊張感で、苦しいほど張り詰めた空気でいっぱいになった。

「――!」

 扉の隙間から、足音の主の姿が僅かに見え、ジウは息を呑んだ。


 金糸の髪をまとめている白い布。その結び目から垂れ下がった長い布が、背中でひらひらと揺れている。

 虚ろな青い瞳。白磁の肌。骨のような質感の甲冑。

 昨日の女守護者だ。

 女守護者は、扉の真ん前で通路の奥を見据えたまま立ち止まっている。扉の隙間からは横顔が見えている。

 こちらに気付いていないのか、とジウが思った直後。

 女守護者の左手の掌が、扉の隙間いっぱいに見えた。何やら白い光がぼんやりと灯った。

 ジウが、それを見て何かを思うより早く、ユキの手がジウの肩を押した。


「伏せろ!」


 ユキの絶叫に、まだ身体が動かないジウの服を、後ろでシノが引っぱった。

 ユキはジウの肩を押した直後、その左手を素早く横の武器の列の中に突っ込んで、剣や槍の後ろに立てかけられていた大きな盾を引っ張り出した。

 盾の前に置かれていた剣や槍が、ガラガラと派手な音を立てて倒れていく。

 その全てが、ほんの二、三秒の間に起こり、直後、扉の隙間から真っ白な光が溢れ、爆発音が四人の耳をつんざいた。

 強烈な閃光と、煙のように巻き上がった埃で思わず目を閉じる。

 ジウは思い切り尻もちをつくと同時、アヤとシノと思われるものにぶつかった。

 アヤが咳き込む声が聞こえる。

 金属同士がぶつかり合う、鋭い音が重く頭に響いて、ジウはハッと目を開けた。


 最初に見えたのは天井だった。

 慌てて上体を起こすと、扉があった場所はただの穴と化していた。その前で、女守護者の槍を、大きな盾で受け止めているユキの背中が見えた。


「ユキ!」

 ジウが立ち上がると、女守護者が盾の向こうからジウを見た。

 真っ青な虚ろな瞳。

 ギリギリと音を立てて必死に盾を支えるユキを圧倒しているというのに、全くの無表情だ。

 背後でシノがアヤを立たせ、手近な槍を手に取った。アヤを守るように前に出る。


 ジウは記録書を抱えて女守護者と見つめ合ったまま身動きが取れないでいた。


「アサが――」


 不意に女守護者の唇が動いた。


「アサがきてはならない。タイヨウが上ってはならない」


 まただ。昨日と同じ――

 ジウの思考が急に回転し、ようやくそう思った瞬間、女守護者は凄まじい力で、盾ごとユキを弾き飛ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る