それが招いたものは災いか
アヤが鋭い声で割って入った。ユキもシノもジウも、弾かれたようにアヤに振り返った。
アヤはものすごく険悪な表情で、本を見つめていた。
「この本だ。これのせいだ」
「どうして?」
聞き返したのはシノだった。
「お前、守護者を近くで見たことがあるか? ましてや自宅に来るなんて聞いたこともないだろ」
「まあねえ」と答えたのはユキだった。
「それに、戒厳時刻ってのは、休めってだけのことで、そんなに厳しい政令じゃないんだ。数分違反したくらいで取り締まられたりしないし、それを理由に武器を持って襲いかかるなんてあり得ない」
ジウは、胸が苦しくなっていくのを感じていた。それが、不安によるものなのか、高揚感か、ジウには解らなかった。
「アンタの生活の中で、変わったことがあるとすれば、この本だけだろ。それに、この本は満月の塔に深い関わりがある」
「えっ、そうなの?」
シノが驚いて声をあげたと同時、ユキも目を見開いた。そう言えば二人は、最初の数頁〈ページ〉を見ただけで、あの塔の断面図のような頁はまだ見ていないのだと、ジウは今更ながら気付いた。
「それに……正直、半信半疑だったんだか、王立研究所で聞いたことがあるんだ。満月の塔に関する古文献が発見された場合は、速やかに守護者の管理下に置かれなければならないという法令があるって」
アヤの言葉に、ジウの心臓は跳ね上がった。
ユキもシノも、絶句しているようだった。
「アンタの所に行った守護者たちは、アンタの本を取りに行ったんだ。しかし、アンタは本を持って逃げた。知らずにしたこととは言え、アンタは法令違反者になったのかもしれない」
「そんな!」
シノが悲痛な声を上げた。まるで心が麻痺しかけているジウの代わりに叫んでいるようで、ジウの緊張が少し解けた。
「いや、アンタの台詞じゃないだろ」
ジウは動揺をごまかすために、わざと軽く笑って言った。
「え、でも、法令違反ってどうなんの? 捕まったりすんの?」
シノはすっかり取り乱している。ジウのようにかっこつけることもなく、堂々と。
「解らない。俺だってそんな法令、本当にあるのかどうかも疑ってたくらいなんだ。塔に関する古文献なんて、今まで見たこともなかったし」
アヤも相当、動揺しているようだ。声が少し上擦っている。
「ねえアヤ」
ユキが困ったような顔で口を開いた。
「アヤ、今日の帰り道、ジウにさ、その本を自分が持ってたら即取り上げられてしまうようなこと言ってたよね。それって、この法令のこと知ってたから?」
ユキの口調は、多少の不安感もあったが、それでも穏やかな冷静な響きだった。
「そうだ。そうだけど、でも俺は、守護者がジウのトコに行くなんて思わなかったんだ。文献が王立研究所に届くか、もしくは発見者が塔に通報するかして、守護者が文献の存在を知ってからじゃないと、何も起こらないと思ってたんだよ」
アヤの言い分は当然だ。
誰にも言わなければ、秘密にしていれば、守護者にだってバレることもないはずだ。
「それでアヤ、研究所や寮に持って行きたくなかったんだね」
シノも泣きそうな顔になった。どうにも、すぐ周囲に同調しやすい性格のようだ。
「ね、ジウ、家の人にその本のこと話したりした?」
ユキに聞かれ、ジウはブンブンと首を振った。
「アンタらにしか言ってねえよ」
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