走り出す時間

 四人はいつもと同じように帰路に着くと、ジウの家の前で別れた。

 ジウは、やはりいつもと同じように玄関で待ち構えている執事に軽く挨拶をすると、いつもより格段に急いで自室へ向かった。

 部屋に着くなりメイドが茶を持ってきたが、受け取ってすぐに「課題をやるから、しばらく放っといてくれ」と念を押し、鍵をかけた。

 ジウの部屋はそれなりに広かったが、内装や調度品は貴族のそれとは全く違っている。

 家具に付いていた不要な装飾品は、無理を言って外させ、片付けてもらった。子供の勉強机には大きすぎた派手な机もワガママを言って、小さなものに変えてもらった。この小さな机は、長兄が自ら作ってくれたものだ。

 ジウは部屋を見渡して、少し落ち込んだ。

 ジウは貴族という肩書きが嫌いだ。

 そして、その貴族である両親に頼らねば生きていけない自分も大嫌いだ。

 この部屋だって、地味な家具にするのに結局両親や使用人を頼って、元々あったものをわざわざよせて、新しいものを用意してもらって出来上がったのだ。

 何一つ、自分の力でなど、成せていない。

 それに比べて、自活しているアヤやシノは、本当に立派だと思う。

 政治に携わる貴族達は、この街を動かしているのは自分達だと思っているだろうが、それは違う。

 遥か昔から、自分の祖先達が敷いたレールの上を走っているだけで、実際に街を動かしているのは、平民達だ。

 ジウの服を作っているのも、食べるものを作っているのも、住んでいる家を建てたり直したりしているのも、みんなみんな平民たちだ。

 貴族など、自分では何もできない木偶の坊ばかりだ。

 そして自分もその一人だ。

 ジウは盛大なため息を吐いて、机に鞄を放った。

 窓辺に置いてあるリュートを手に取る。

 長兄がいつも弾いてくれた楽器だ。

 今この家で、ジウの心を慰めてくれるものは、これ一つだった。


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