王様と魔術の時代3
ジウは、本棚の奥にも家紋があり、それが光ったことを思い出した。そして、それを三人に話した。
アヤは目を見開いて、少し興奮気味に聞いていた。
シノとユキは口を開けてポカンとしていた。
「アンタ、魔術が発動するとこを見たのか!」
アヤが身を乗り出してきた。ジウは「ああ」と少し慌てて答えた。
「なんて羨ましい……どんな感じだった? 光って言ったな……色は?」
「待て、待て、アヤ君! 人変わってんぞ!」
アヤに問い詰められて、辟易するジウを尻目に、ユキは本の背表紙の家紋をまじまじと見ていた。
「で、そんな技術を使ってまで、キレーに保管されてたこの本って、一体何が書かれてるワケ?」
シノが思い出したように言い、本に手を伸ばした時、四人の頭上で鐘の音が鳴り響いた。
帰宅時間を知らせる鐘だ。
次の鐘が鳴ると、学院の扉は鍵がかえられ、閉まってしまう。
四人はハッとして顔を見合わせた。
「残念だが、ここまでだな」
アヤは本当に悔しそうにしていた。
「これは、いったんアンタに返す。誰にも見られないようにしっかり持っててくれ」
「え、いいのかよ。俺、持ってても調べたりとかできねーし、アヤくんが……」
「それを研究所の俺の寮に持ち込んで、他の研究員に見つかったら、取り上げられて、俺なんかじゃ見せてもらえなくなるかもしれない。俺は、それを自分で調べたい」
ジウに本を返すと、アヤは話ながら手際よく帰りの仕度を整えた。
「アヤ、でも、それ大丈夫なの? 大発見みたいなものなんでしょ?」
シノが心配そうに言うと、アヤは強い口調で答えた。
「そうだが、俺はどうしても調べたいんだ、自分で。別に手柄がほしいワケじゃない。知りたいだけだ」
「でも、バレて研究所クビになったりしない?」
シノは尚も、心配そうにしている。
四人は立ち上がり、階段に向かって歩き出した。
「そうならないように、ひとまずアンタに持っててもらいたい」
アヤはジウの手の中の本を指して、ジウに言った。
「自分で調べたら、その後どうするかもアンタに任せる。公にしたければ、俺がさも今初めて聞いたように研究所に伝えてやるよ」
ジウは、アヤに圧倒されながら、あたふたと鞄に本をしまった。
鞄のボタンをとめたところで、ふと気付いた。
「アヤ君て、意外と不良な」
「アヤって本のことになるとボーソーすんの。俺。もー心配」
シノがやれやれといった様子でジウに言った。
まるでいつものアヤとシノが逆転したようだった。
一番後ろを歩いていたユキが、堪えきれずに吹き出す。
アヤはまるで何も聞こえていないかのように、飄々と歩を進めて行った。
ジウは、自分の頬と一緒に心も緩んでいるような気がした。ふわふわと浮わついて、明日が待ち遠しいような、楽しい感覚。
ひどく懐かしい気分だった。
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