それぞれの道
ジウとユキ、そして先ほどの女子生徒が着ている真っ白なシャツは、貴族用の制服だ。
そして、アヤとシノが着ているくすんだ水色のシャツは、平民用の制服。
この街には、貴族と平民がいる。
貴族とは、街を運営し支えていく、政治に携わる者達で、平民はその他の仕事に就く者達を言う。
本来はその程度の差で、上も下も無いらしいのだが、実際のところは違う。
貴族達の方が立場は上で、暖かく明るい中心街に住んでいるし、平民は外周の薄暗く肌寒い地域に住んでいる。貴族の館のメイドや使用人は平民がほとんどだ。
貴族は平民を見下しているし、平民は貴族を睨め上げている。
こうして四人でいることも、成人したらまず出来なくなる。
学院の外は、歪な規律と歪んだ社会観に染まりきっている。
四人は肩を並べて家路についた。
「ねえ、卒業したらみんなどーすんの?」
学院を出たところで、シノが聞いた。
「まあ卒業っつっても、俺ら平民は特に何も変わんないか」
シノはそう付け足すと、アヤを見てニッと笑った。アヤは無言で頷いた。
「俺は出兵する」
ユキは、先ほどの屋上での会話を聞かれたからだろう。あっさり答えた。
「ユキ、さっきも言ってたっけ。それ、ホント? スゲーじゃん!」
シノが目を輝かせてユキの前に立った。
ユキは嬉しそうな笑顔を見せた。
「あーあ。散々止めたのによー」
ジウが溜息まじりに言うと、シノは不思議そうな顔をした。
「何でよ? 出兵は満月の塔に入って、街を守る守護者になる、貴族だけに許された最高の誉れなんだろ? スゲーことじゃん」
まるで純粋な子供の目をしてシノが言う。
シノは決して童顔ではない。少し吊り上がり気味の大きな目、鼻は高く、意思の強そうな眉をしている。身長はジウやユキほど高くはないが、がっしりと逞しい身体つきで、短く刈った髪が伸びてきて邪魔なのか、派手な柄の布を頭に巻きつけている。
制服のシャツの上に、ニットのパーカーを羽織り、首に大判のストール。胸元には色とりどりの硝子の破片を、一つに合わせた、小さなステンドグラスのような、筒状の飾りがついたペンダントを下げている。母親の形見だと言っていた。
シノは黙っていればそれなりに男前に見えるのだろうが、いかんせん、行動、言動、思考が幼い。
良く言えば純粋。根っからの善人。
歪んだどす黒い内面を自覚しているジウから見れば、羨ましくもある存在だった。
だが今のジウは、その純粋さに苛立ちを覚えた。「出兵」はジウにとって禁句なのだ。
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