第61話 白百合の煌めき

 ラグナレクの特攻によって大破したターミナートル。爆煙を上げながら高度を下げ、その巨体は富嶽付近へと落下するコースを取っている。


「神宮司お姉様、計算したところ間もなく地面に落着します! 退避、及び対衝撃行動を!」


「了解した」


 神宮司やハウンド小隊員の活躍もあって魔道機兵ヴィムス達は撃滅されたが、ビューリカなどの搭乗員自体を仕留めることはできなかった。これでは生命の樹の危機は取り除けていないし、早急に捜索したいのだが今はそうも言っていられない状況である。


「高山と東山もどうなったのか・・・・・・」


 彩奈からの報告では唯は洗脳されて敵対状態にあるらしいが二人の様子を窺うこともできない。

 神宮司は歯がゆい思いをしながら近場にあるフェンスへと掴まり、ターミナートルと地面との激突に備えるのであった。






「警備は薄いな。この程度で・・・・・・」


 ビューリカはフラフラになりながらも富嶽まで辿り着くことができた。周囲には魔道保安庁や国防軍が展開しているが空戦可能な戦力はなく、上空から滑空して生命の樹の上部へと降り立ちエルデ魔結晶を取り出す。


「ふっ・・・ようやく」


 エルデ魔結晶を幹へと押し当て、自身と生命の樹をリンクさせる。それによって生命の樹から魔力が流れ込み、傷口が修復されて元通りの姿となった。

 後は生命の樹をコントロールして野望を叶えるだけだ。


「間もなくだ。全ては我が手に」


 この生命の樹さえ手に入れれば後は何も必要ではない。ビューリカの天下は、すぐそこまで近づいていた。






「皆、大丈夫か?」


 ビューリカが生命の樹にタッチダウンするのと時を同じくしてターミナートルも富嶽付近へと落着していた。加奈は自分の身を案ずるよりも先に舞達のことを心配して駆け寄る。


「わたくしは大丈夫ですわ。春菜さん達も怪我はないようです」


「それは良かった。だが味方に被害が出ているな」


 少し離れた場所で戦っていた味方の適合者達の中には負傷して倒れている者もいる。


「二木、お前達は先行して東山の援護と逃げた敵を追え。私は味方の救助と魔道保安庁との連絡を試みる」


「了解っす」


 加奈達は頷いてターミナートルの外へと出る。周囲には多数の破片が散乱してさながら戦場そのもので、それらに足をとられないよう気を付けながら艦の前方へと進む。

 そのまま彩奈の援護に向かおうとしたのだが、


「チッ! 敵はまだいるのかよ」


 魔道機兵ヴィムスの残存戦力が艦から飛び出し、加奈達ハウンド小隊の行く手を阻んだ。


「春菜! 麗! ここはあたしと舞に任せろ! 後で追いつくから先に彩奈の元へ!」


「は、はい!」


 加奈は派手に交戦してヴィムスの気を引き、その隙に春菜と麗が先行する。

 物量差では負けているが加奈と舞は気合で覆し、一歩も退かずにヴィムスを撃破していく。


「舞、あたしが前に出るから援護を頼む」


「分かりましたわ」


 敵部隊の中へと加奈が突撃して舞がそれを後方から魔力光弾で援護するといういつものスタイルで戦い、このままなら勝てると思ったがそう上手くはいかない。


「あらあらぁ。害虫はまだ生きていたのねぇ」


 軽傷を負っているもののピンピンしているメイムが艦から舞を見下ろしながら両刃刀を装備して飛び降りる。

 舞の頭上から迫るが、メイムの気配を察知した舞はハッとしてその場から後退して身構えた。


「痛くないように一撃で殺してあげようと思ったのにぃ。まあいいわぁ。次で仕留めてあげるからぁ」


「そんな簡単にはやられません!」


 飄々としているメイムに杖を向けて魔力光弾を撃ち出すが、強力な弾を難なく回避してメイムは舞との距離を詰めて両刃刀の素早い斬撃を放ち、近接戦の苦手な舞は圧倒されてしまう。


「その程度で私に勝てるとでもぉ?」


「くっ・・・! なら!」


 舞は杖を放棄して薙刀を装備した。これは加奈から譲ってもらった予備の物であり、こういう緊急時のために持っていたのだ。しかし近接戦のトレーニングを受けているとはいえ日が浅く、ある程度は扱えるが自衛が精一杯であった。


「残念だけどぉ、これで終わりねぇ」


 薙刀が弾かれて地面に落ちた。これでは完全に無防備となって対抗手段はない。


「加奈さん・・・!」


 咄嗟に口にしたのは他の誰でもない加奈の名前だ。だが加奈は複数のヴィムスと交戦中でとても助けは期待できない状況なはずだ。

 舞はメイムの両刃刀を止められないと死を直感する。しかし、


「舞に手ぇ出してんじゃねぇ・・・!!」


 両刃刀の剣先は舞には届かなかった。いつの間にか駆け付けた加奈がその刀身を義手の左手で握って止めたのだ。


「そ、そんな・・・!」


 あまりの予想外の出来事にメイムは驚きの表情を隠せない。


「舞は・・・あたしが守る!!」


 両刃刀を握り潰し、加奈は薙刀を振るってメイムの腹を裂いた。致命的ではないものの血が噴き出してメイムはよろめく。


「鬱陶しいヤツねぇ・・・!」


 このまま負けるわけにはいかないとメイムは杖を装備、魔力光弾を連射した。


「義手は、こういう使い方もできる!」


 加奈は義手に薙刀を握らせて高速回転させる。それによって上下に刃のついた薙刀はまるでプロペラのように加奈の前面に展開し、簡易的なシールドとして機能した。

 刃が魔力光弾を防ぎ、爆煙が巻き上がる。


「小賢しいわぁ・・・・・・」


 両刃刀もない現状では勝てないと判断したメイムは翼を生やして飛び上がり、ビューリカや唯を目指して飛び去っていった。


「加奈さん、ありがとうございます。でもあの状況下で間に合うなんて」


「俊足の猟犬の名はダテじゃないってね。それに言ったろ?すぐに駆けつけて死んででも守ってみせるからってさ。舞のピンチを見過ごすなんてことはしないし、あたしを呼ぶ声は確かに聞こえてたから」


 そう言って軽くウインクする加奈を、舞はただ見惚れていた。


「さて、敵さんの残りはすくねぇな。このまま突き進むからあたしに付いてこい」


「はい。どこまでもあなたに付いていきますわ」


 ひたすらに追いかけていく。加奈の、その背中を。






「そろそろ限界か・・・・・・」


 彩奈はターミナートルの墜落を目にしつつ、Sドライヴの稼働限界が近いことを悟って唯との決着を急ぐ。

 もう、迷っている時間はなかった。

 

「やるしかない・・・!」


 二人の刀が打ち合い、彩奈は刃を返して唯の刀を叩き落とした。しかし唯は次の攻撃に移ろうとした彩奈に蹴りを放って姿勢を崩し、彩奈の刀を蹴り落とす。

 これで両者ともに魔具を失った。魔法陣を展開すれば予備の魔具はあるのだが、そんな余裕はない。


「終わらせる・・・・・・」


 二人はまるで取っ組み合うように絡み合う。


「コロス・・・!」


 唯のパンチを躱して懐に潜り込んだ彩奈の右ストレートが飛ぶ。

 その彩奈の瞳には、涙が溢れていた。


「ゴメンね、唯」


 拳が唯の顔面を捉え、顔を覆っていた仮面を粉砕した。粉々になって仮面は霧散し、唯は殴られた勢いのまま落下していく。


「唯・・・・・・」


 彩奈は地に足を付け、倒れた唯に跨った。

 そして首へと手を伸ばして締めようとする。


「さようなら、唯・・・私もすぐに後を追うから・・・・・・」


 力を徐々に籠めようとした、その時、


「ま、待って彩奈!」


 唯が聞きなれたいつも声色で必死に訴えてきた。


「・・・えっ・・・?」


「正気だから、本当だから!」


 彩奈は手から力を抜き、唯の瞳を凝視する。先ほどまで変色して濁り切っていたが、今は澄み切った茶色の綺麗な瞳になっていた。


「本当に・・・元に戻ったの?」


「彩奈があの仮面を壊してくれたから戻ることができたんだ。仮面に心を支配されて・・・僅かに残っていた意識で対抗しようとしたんだけど、できなくて・・・彩奈と戦っている時も傍観することしかできなかった・・・・・・」


 もう唯から邪気は感じない。どうやら仮面を砕いたことで支配から解き放たれ、正気に戻ることができたらしい。


「唯・・・唯!」


 彩奈は思わず唯に抱き着いた。何よりも、誰よりも大切な唯を救うことができたという安堵から、ここが戦場だという認識など遥か彼方にすっ飛んでいる。


「ゴメン・・・私、迷惑ばかりかけて・・・・・・」


「ううん。唯のせいなんかじゃない。絶対に唯のせいなんかじゃ」


 もしかしたら彩奈にとって今が最高に幸せな瞬間なのかもしれない。このまま時が止まってもいいとさえ思えた。

 しかし、事態は止まってなどくれない。

 富嶽山頂が閃光に包まれ、不気味な魔力が放出され始めたのだ。


「一体、何が・・・?」


「ビューリカってヤツの仕業だ。アイツは生命の樹を使って世界を創りなおそうとしている」


「そんな・・・・・・」


 せっかく唯を取り戻せたのに、これ以上の敵の横暴を許すわけにはいかない。


「彩奈先輩! 唯先輩!」


 立ち上がった二人を背後から呼ぶ声がする。加奈達に先んじて春菜と麗が駆け付けたのだ。


「唯先輩、無事なんですね!?」


「うん、彩奈のおかげでね。春菜ちゃんと麗ちゃんにも迷惑をかけちゃって、本当に何とお詫びしたら・・・・・・」


「いえ、迷惑をかけたのは敵なんですから、唯先輩は気にしないでください」


 なんて良い後輩に恵まれたのだろうと唯は心から嬉しくなる。春菜も麗も、微塵も唯を責めることはなかった。


「ですが、どうやって敵を止めましょう? ここからじゃ生命の樹まで遠いですし・・・・・・」


「私がSドライヴを使って飛ぶよ。クールタイムの解除までもう少しかかるけど、それが終わったらビューリカは私が倒す」


「でも高山先輩だって体が限界のはずです。無理をしたら・・・・・・」


「ケリをつけないとだから、私がやらないと」


 そう決意を固める唯を狙う者がいた。それは加奈から逃走したメイムだ。


「ユイちゃん、見つけたわよぉ・・・!」


「アイツは!?」


 唯はメイムにトラウマを覚え、迫るメイムを見て怯えるように後ずさる。


「あの敵、唯を洗脳したヤツ!」


 彩奈はというと、メイムに対して激怒と憎悪の感情を抱いていた。唯を傷つけて洗脳した相手なのだから到底許せるものではない。


「ユイちゃんは私のよぉ、返してもらうわぁ」


「唯は私のよ! もう唯に触れさせはしない!」


 滑空してきたメイムは鞭を振るった。が、その程度では適合者を倒すことはできないし、メイム自身も加奈の一撃で負傷していたために満足に動くことさえできなかった。


「邪魔をしないで!」


 春菜と麗もメイムへの怒りに燃え、互いに魔具で攻撃してメイムを切り裂く。

 そして、


「私が直々にトドメを刺してあげる」


 彩奈は唯の聖剣を取り出し、メイムの心臓を貫く。これで完全にメイムは絶命し、大地に伏した。


「こんなヤツ!」


 彩奈はメイムの屍を切り刻んでやろうかと思ったが、今度は別の接近する物体に気がついて足を止める。


「アレは・・・・・・」


 戦火を反射する金属のシャトルは富嶽の山頂に現れた機体と同一のものだ。新手の敵が来たのかと適合者達が構えるが、着陸したシャトルから降りてきたのはひ弱そうな一人の少女だった。


「待って、あのコは私の怪我を治してくれたサリアちゃんていうコなの。敵じゃないよ」


「唯がそう言うのなら・・・・・・」


 彩奈は唯に聖剣を渡しつつもサリアへの警戒は怠らない。


「ユイさん、すみません。私、見ていることしかできなくて・・・でも、もうビューリカ達に従うのは終わりにしたんです。こんな私だけど、せめて皆さんの役に立てたらって」


「そっか。その気持ちだけでも嬉しいよ」


「そこでこれを持ってきたんです」


 サリアが差し出したのは白百合の形をしたシールド、リスブロンシールドだ。


「盾?」


「リスブロンシールドって言うんです。心を通わせた二人の少女が使えば奇蹟を起こせると言い伝えられている伝説の魔具なんですよ。ユイさんにはかけがえのないアヤナさんっていう大切な人がいると聞いたので、もしかしたらその方とユイさんが使えば何かが起きるかもと思いまして」


 彩奈は唯がそんな事を言っていたのかと赤面する。いつだって二人は想い合っているわけで、例え離れ離れになっても気持ちは変わらないのだ。


「なるほど。つまり私達なら奇蹟だって起こせるかもってことだよ、彩奈」


 唯は受け取ったリスブロンシールドを彩奈に見せつける。


「アナタがアヤナさんなんですね」


「ええ。高山唯の最高最良のパートナーとはこの東山彩奈のことよ」


 ドヤ顔で胸を張り、サリアに自分こそ彩奈であると主張する。どうやら彩奈の気迫にサリアは押されているようだが、ともかくこの二人ならビューリカを倒せるかもしれないという希望が湧いてきた。


「おーい!」


「加奈! 舞!」


 ヴィムスを殲滅した加奈と舞も追いつき、ついにハウンド小隊員が揃う。皆ボロボロではあるが、闘志はまだ消えてはいない。


「おかえりなさい、唯さん」


「ただいま、舞」


 メイムを倒し、ターミナートルも撃沈した。後はビューリカさえ討てば全て解決できる。


「Sドライヴが使えるようになった・・・皆、私行ってくる」


「私も行くわよ」


「てか彩奈も飛んでいたけど、どうやって?」


「事情は後で説明するわ。今はとにかく敵の元へ」


「分かった。一緒に行こう」


 二人は手を繋ぎ、同時にSドライヴを起動する。

 天使族の魔力が増幅されて純白の美しい翼が二人の背中から生え、淡い燐光が周囲を照らした。

 

「あなたとなら、どこまでも飛べる気がする」


「私も。彩奈となら永遠に、もっと高く飛べそう」


 加奈達が見守る中、一対の天使が大空へと舞い上がる。

 心を重ね、遥か天空へ。






 富嶽の頂上ももうすぐという時、更なる超常現象が唯と彩奈の前で起きた。なんと生命の樹と融合したビューリカが巨大な花の中央部から姿を現し、まるで巨神のように立ちはだかったのである。


「なんて大きさなの・・・・・・」


 木そのものから生じたように見えるビューリカは新たな生命となり、もはやヒトを超越した存在だ。そんな敵に対抗できるのか不安になる唯であったが、彩奈がギュっと手を握ってきて勇気づけられた。


「勝てる。私と唯なら。そう信じてる」


「うん。私達の未来のためにも」


 ビューリカの掌が向けられ、そこから魔力光弾が迸る。ビームにも似た光の弾は衝撃波を伴いながら迫るが唯と彩奈はギリギリで躱して接近をかける。


「フッ、もはや貴様達に私を倒すことなど不可能だ。神にも等しい力の前に消えるがいい」


 今度は目から魔力光弾を撃ち出す。掌の魔力光弾よりも強力で、回避すら間に合わない一撃だ。


「彩奈っ!」


 唯は彩奈を抱き寄せ、リスブロンシールドを突き出して防御体勢をとる。これで防げるかは分からないが、最後の悪あがきくらいはしたかった。

 彩奈もまたリスブロンシールドのグリップを握り魔力を流す。もう他にできることもない。


「防げるか・・・・・・何!?」


 視界を魔力光弾の光が埋め尽くすが、二人の体が焼かれることはなかった。リスブロンシールドからも閃光が迸り、ビューリカの魔力光弾を打ち消したのだ。


「なんだろう、この温もりは・・・・・・」


 シールドからの光は更に広がって二人の体を覆い、どんどん大きくなっていく。ビューリカさえ何事かと驚く中、ついに光は収束し、そこには巨大な白百合の花が形成されていた。

 空中に浮かぶ美しい白百合は神々しささえ持ち合わせ、邪気を伴い顕現したビューリカと対を成す存在と言えるものだ。


「バカな! そんな力が出来損ないの貴様達にあるというのか!?」


 ビューリカは生命の樹から魔力を吸い上げて渾身の魔力光弾を照射し、太陽光のような灼熱が富嶽の表層を削りながら白百合に向かう。

 

「なんとっ!?」


 が、その一撃さえ白百合は防いでみせた。傷もなく、ただひたすらに輝いている。




「す、すげぇ・・・あんな魔力光弾も効かないなんて」


「当然ですわ。純潔の白百合は決して穢すことのできない希望の象徴。戦場に咲いたあの白百合こそ、魔を祓う世界の導き手なのですわ」


「お、おう・・・?」


 加奈は相変わらず舞のポエムを理解できてはいなかったが、それでも唯と彩奈が奇蹟を起こしたという事実だけは間違いないことだと理解していた。




「そんなことがあり得るのか!? 生命の樹を、私は取り込んだのだぞ!」


 全く攻撃の通用しない白百合にビューリカは恐怖していた。しかもその白百合が至近距離まで詰め、後少しで手が届きそうなほど肉薄してきたのだ。


「あの人間共が・・・・・・」


 花弁とめしべに囲われた花の中央部は大きな窪みとなって半透明の魔力障壁に守られていた。そこに唯と彩奈の姿があり、互いの手を握りながらビューリカを睨みつけている。

 

「こんな小娘が私を上回るなど・・・!」


 次弾を撃とうにも魔力が足りなかった。ビューリカはただ茫然と白百合を見つめる。


「彩奈」


「唯」


 二人の少女は互いを抱き寄せ、片手をビューリカに向けた。すると白百合のめしべが発光し、唯達の正面に光の塊を作り出す。

 

「美しいな・・・・・・」


 それがビューリカの最期の言葉であった。白百合から放たれた光の奔流がビューリカを包み、生命の樹を巻き込みながら飽和していく。

 やがて光は収まり、富嶽の山頂に静けさが戻った。


 もう、白百合も生命の樹も消えていた。






 富嶽での決戦から一夜明け、魔道保安庁も政府も大慌てであった。電波障害で一切の情報が遮断された中、人類の起源種との一大決戦が行われていたのだからそうもなろう。

 ちなみに日本上空に滞空していたノルド級魔道巡洋艦は連携を取り戻した国防空軍によって撃沈され、これでビューリカ麾下の戦力は完全に沈黙した。


「今日一日は事情聴取で忙しそうね」


 魔道保安庁本部へと移送されたハウンド小隊は昨日の戦闘についての報告を求められ、神宮司ともども軟禁状態にあった。ようやっと僅かな休憩時間を得られて唯と彩奈は屋上へと足を運び、澄み切った青空のもとで深く深呼吸する。


「唯、どうしたの?」


 深刻そうな表情を浮かべる唯の顔を覗き込み、彩奈は心配そうに声をかけた。


「私ね、彩奈にすっごく感謝してるの。こうして無事に帰ってくることができたのも彩奈のおかげだし、勿論加奈や皆のおかげでもあるんだけど、自分の体を疑似天使族に改造してまでも迎えにきてくれた彩奈には何と言って感謝すればいいのか分からないくらい」


「唯のためだもの、これくらいのことはするわよ。しかも唯に近い存在になれて私自身も嬉しいの」


 そんな彩奈の言葉を受けても尚、唯は罪悪感を抱いて俯いてしまう。


「私は・・・彩奈に嫌われても仕方ない事をしてしまった・・・洗脳をどうすることもできず、あまつさえ武器を向けるなんて・・・・・・」


「言ったでしょう? それは唯のせいじゃないって。それにどうして嫌われると思ったの? もし逆の立場になったとして、唯は私のことを嫌いになった?」


「そんなこと絶対にない! 私にとって彩奈こそが全てで・・・・・・」


「なら答えは出てる。私も同じよ。今だって、そしてこれからもずっと・・・」


 彩奈は唯に背を向けて少し歩み、これまでの事を思い出しつつ、そして最高の笑顔でくるっと振り向いた。


「大好き!!」



           -次章に続く-

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