第43話 ラケーテンファウスト

 自宅で招集を受けた唯と彩奈は第7支部にて加奈達と合流し、大型輸送ヘリにて現場に向かう。そのヘリの中で、楽しみを妨害された彩奈はふんぞり返って魔物への呪詛の言葉をつぶやいていた。


「前回準魔人を含む魔族が出現した地点の近く、そこで三体の魔人が現れたそうですわ。臨時拠点に配備されていた魔道保安庁の適合者によって撃退されましたが、死傷者も出ていますの」


「魔人が三体か・・・」


「あの準魔人を統括していた魔人かもしれませんわ。再びの襲撃があるかはわかりませんが、近くに魔人の拠点が存在する可能性がありますから、わたくし達で捜索を手伝うことになりますわ」


 これまでに交戦報告がほとんどなかった警戒の緩い地点で急に魔人タイプが複数体現れたとなれば、最近になってその付近に敵の拠点が築かれた可能性がある。魔人達は勢力を広げるために拠点を増やして人類を追い詰めようとしているわけで、そうであるなら発見して叩き潰すしかない。


「時雨とかいう研究者もいたことだし、準魔人の生産施設とかもあるかも」


 唯は広報課が偶然に撮影した時雨の姿を思い返しつつ、その人類の裏切り者こそが準魔人精製の手助けをしたのではと睨んでいる。


「あり得ますわ。ともかく、被害が増える前に手を打たねばなりません。敵の数が増えれば対応は困難になりますし」


 頷く舞は危機感を強く感じていた。時雨はミヤビという魔人の手下であり、その一派が戻ってきたのならば再び何かしらの混乱をまき散らすのは目に見えているからだ。唯という切り札があるとはいえ全ての敵に対処できるわけではないので、だからこそ重大な事が起きる前に敵を始末したいと思っている。





 ヘリでの移動の後、裏世界へとシフトして臨時拠点の友軍と合流。そこで状況の説明を受けてから待機室にて次の指示を待つ。


「これは?」


 待機室のテーブルの上に二つの大きなケースが置かれていた。何やら物騒な物でも入っているのか、開錠のためにパスコードが必要なようだ。


「その中には試作兵器が入っているらしいですわ。少々お待ちくださいね」


 舞が部屋に備え付けられているモニターを調整し、隣接する機械にUSBを挿し込んだ。すると少しの間ローディング画面が表示され、モニターが一瞬暗転して椅子に座る佐倉の姿が写しだされた。


「やぁやぁ。ちゃんと写っているかな?」


 唯が何度か訪れている佐倉の研究室は相変わらずの雑多ぶりで、モニター越しにもそれがよく分かる。


「これを見ているということは、キミ達の目の前に例の武器が用意されていることだろう。あぁ、その前にコードを入力して取り出す必要があるね。そのコードだが・・・」


 佐倉の言う通りにパスコードを入力すると、カタッという音とともに二つのケースの蓋が開く。その中に入っていたのはパンツァーファウストに酷似したロケットランチャーだった。


「それはRF-Mark.Ⅱラケーテンファウスト。かつての大戦で使用された対戦車用のパンツァーファウストをベースにした火器だ。無反動砲式の原型とは異なり、ソイツはロケット推進式の弾頭で射程距離も伸びている」


「でも、こんな通常兵器じゃあ魔物には効果がないんじゃねぇの?」


「安心してくれ。その弾頭には魔結晶を改造して制作した爆弾が内蔵されている。着弾と同時にそれが魔力による爆発を引き起こすことで魔物に対しても有効なダメージを与えることができるんだ。この弾頭を我々はS弾頭と呼んでいる」


「えっ、聞こえてんの? これってビデオメッセージだよな?」


 加奈の疑問が想定内だったとばかりに、まるで返答をするように解説する佐倉。


「データ収集もかねて実戦テストをしてほしいんだ。これが量産の暁には一般兵士であっても魔物に対抗できるようになるし、適合者の戦術にも幅がでる。人類の延命に貢献できる武器になるはずだ」


 ラケーテンファウストは使用者の魔力に依存する武器ではないため、これを使えば一般人であっても魔物を攻撃できる。つまり国防軍のような適合者の少ない組織でも戦闘に参加できるようになるのだ。


「では宜しく頼むよ。ちなみにこのメッセージは終了五秒後に機器ごと爆発して消去されるのであしからず」


「お、おい! 舞、なんとかしてくれ」


「てのは嘘なんだけどね! いやぁー、一回でいいからこのセリフを言ってみたかったんだよねー」


「人騒がせな!」


 本気にした加奈は焦って損したとため息をつく。その様子がおかしかったのか、彩奈が腹を抱えて笑っていた。


「ふふふっ・・・恥ずかしい反応しちゃって・・・」


「わ、笑うなよ」


 唯はそんな会話をしり目に早速二本のラケーテンファウストを手に取ってみた。


「これはなんですかね」


 春菜が指で指し示したのはケースの隣に置いてあった金属製のベルトだ。特撮変身ヒロインが着けていそうなデザインである。


「分かった。これはラケーテンファウスト用のマウントラックだね。これを腰に巻いて、と・・・」


 唯のウエストのサイズにピッタリと合っており、骨盤の上で固定される。


「で、背中側にあるホルダーに差し込むんだ」


 ラケーテンファウストは細長い筒の先端に弾頭が装着されている武器で、弾頭を上にしつつ、筒を斜めにホルダーに差し込む。そして固定用のスイッチを押すことで安定してマウントすることができるのだ。


「唯先輩、カッコいいです」


「そう?」


 腰の左右に飛び出す二つの弾頭によって唯のシルエットはいかつく見える。


「はい。歩く武器庫って感じですね」


「その呼び名、いいな」


 二つ名を欲しがっていた唯は歩く武器庫ってのも強そうでアリだなと頷く。


「でもさ、そんなんで撃つよりも近接戦のほうがやりやすいと思うんだよな」


「いやいや、火力は正義だよ加奈。なんならジャイアントバズーカとか、ビームバズーカとかを抱えて戦場に行きたいくらいだね」


 よほどラケーテンファウストが気に入ったのか優しく弾頭部を撫でている。本来なら遠距離戦を主体にしている舞あたりが装備したほうがいいのだろうが。


「唯はゲームでも爆発系の武器を愛用するタイプなのよ」


「あぁ~、納得」

 

 さすが彩奈は唯のことを分かっているようで、舞も唯が喜んでいるならもっと数を寄越すように要請しようとメモに書き留める。


「ではわたくしは指揮所に行ってきますから、皆さんはここで待っていてくださいな」


「あたしも一緒に行くよ」


「ふふっ、では一緒に」


 指示を仰ぎに行った舞達を見送りつつ、唯はこのラケーテンファウストをどういうタイミングで使うか脳内シミュレーションを行っていた。






「どうやら敵に動きがあったようですわ。新たに設置された熱探知センサーに反応があり、動体は前回の交戦ポイントに向けて進行中のようです」


 舞が指揮所に着くと同時に警報が鳴り、敵の接近が告げられた。到着早々お出ましとはおあつらえ向きだなと唯は意気込む。


「これよりハウンド小隊は迎撃のために出撃しますわ。春菜さんと麗さんもよろし?」


 春菜と麗もすっかり場慣れしてきたのか、最初の頃のような不安げな様子もなく力強く頷く。もう立派な戦士と言ってもいいだろう。


「敵には魔人が含まれている可能性が高いですから、いつも以上に緊張感を持って事にあたりましょう」


 臨時拠点を後にした唯達ハウンド小隊の面々は、敵の出現が確認された地域に駆けていく。






「・・・ん? この感じ、敵が来ている・・・」


 魔人ウルスはカンがいいのか、まだ目に見えていない適合者の接近を感じ取ったようだ。


「またこの前の雑魚達でなければいいが」


 唯との戦いを心待ちにしていたウルスであったが、前回刃を交えたのは普通の適合者達で、興が削がれたウルスは戦闘途中で離脱していた。


「貴様、好き勝手暴れるのはいいが少しは人間の数を減らすことを考えたらどうだ?前だって貴様が戦線離脱したせいで、狩りきれなかったんだぞ」


 独断行動をするウルスに不満を隠せないヒュウガが嫌味を言ってきかせた。


「それはそちらの仕事だろう?あの天使族がいないのではやる気もでない」


「まったく・・・面倒なヤツが来たものだ・・・」


 いっそウルスを八つ裂きにしてやろうかとも思ったヒュウガだが、ミヤビの立場を考えると行動に移せなかった。


「今回は準魔人や魔物達を連れてきたからな。アイツが離脱しようとも人間は叩く」


「ミヤビ、ここは私に任せて休んでいたらどうだ?また空振りになるかもしれんし」


「いや、前にも言ったがアイツにあの小娘を盗られるのは避けたい。だからこそ、監視も兼ねて行くのだ」


「難儀だな」


「仕方のないことさ」


 人間を殺すのはストレス発散になるのでミヤビにとっての娯楽と言える。そのため、こうして出撃するのは自分のためでもあるのだ。






「敵の気配・・・! 強いのが、来る!」


 唯はハッとして前方からくるプレッシャーを感じ取る。こういう探知力を持つのはハウンド小隊内では唯だけで、その感覚を皆も頼っている。


「各員戦闘準備を!」

 

 舞の指示で戦列を形成し、前方に加奈、中列に唯と彩奈、後方に舞と春菜と麗がスタンバイする。


「視えた! 十二時の方向、飛行タイプ多数! 魔人も三体いるぞ」


 加奈は視力を最大望遠にして敵の数を瞬時に把握して報告した。


「いつになく敵さんの戦力は充実しているな・・・」


「なに? 加奈、ビビっているの?」


「ハッ!ビビってなんかいねーよ。むしろあたしの戦果がまた増えそうだから、特別ボーナスを支給するように神宮司さんにお願いしようと思っていたところさ。彩奈もあたしに負けたくなかったら頑張ることだぜ?」


「唯にいいところを見せたいもの、加奈に言われなくたってやってやるわよ」


 軽口を叩きつつも、二人の目は真剣だ。いつの戦場だって命掛けだが、魔人が三体もいるのであれば尚更である。


「さてと・・・」


 唯はベルトのスロットホルダーからラケーテンファウスト一本を引き抜く。どうしても使いたくてしかたないらしい。


「それ、直撃させられるかしら」


「魔人相手には難しいかも。普通の魔物なら当てられそうだし、敵の数を減らすために使うよ」


 春菜と麗の負担を減らすためにも通常の魔物を少しでも撃破しておきたいのだ。


「来るぞっ!」


 ミヤビを先頭に魔族が急降下。加奈はそれらの攻撃をいなしつつ、薙刀を振り回して反撃する。


「そこだっ!」


 ラケーテンファウストのセーフティを解除し、唯はバックブラストに巻き込まれないよう腕を伸ばしてからスイッチを押し込む。すると、弾頭はロケット噴射の残光を描きながら高初速で飛び出していく。

 

「よし!」


 真っすぐに飛行した弾頭はガーゴイルにも似た飛行型魔物に直撃。着弾と同時に鮮やかな青色の閃光が瞬き、その爆発に巻き込まれた数体の飛行型魔物が消滅した。


「この威力・・・これで魔物なんか消し炭にしてやる」


 ラケーテンファウストの威力に感嘆しながらも、敵の魔弾を回避した唯は聖剣を構える。そして魔物一体を切り捨て、敵に吶喊していく。


「お前の力、他とは違うとわかった!」


 その唯に気がついたウルスは、その人間こそが特別な力を有する天使族だと直感し、近くに降り立ち睨みをきかせる。

 ついに唯とウルスの戦闘が始まろうとしていた・・・・・・


       -続く-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る