第3話 魔人
唯の初陣から2週間が経ち、その間にも数回の戦闘をこなして適合者として成長していた。もともと適合者としての素質はあったようで、東山も驚くほど早く実力を伸ばしていく。
「遅いよっ!」
唯は刀を振るい人型魔物を切り捨てる。
今日もまた魔物が出現し、裏世界で彩奈と共に戦っていた。魔力で強化された体の使い方にも慣れたようで、彩奈ほどではないが素早い動きで魔物を翻弄していた。
「これで終わりよ」
彩奈が最後の一体を倒し辺りに静けさが戻る。その静けさは裏世界特有の不気味なものであり、これには慣れそうにもないなと唯は額の汗を拭う。
「いやぁ、今日も彩奈には助けられたよ。ありがと」
「お礼なんていいわ。私だって唯が一緒に戦ってくれるから心強いのよ」
この短期間の間で二人はお互いにとって大切なパートナーとなっていた。
「それにしても最近は魔物の数も増えてきて困るわ」
この数か月、魔物の出現の頻度と一度に現れる数が増えており、シャドウズの上層部も困惑していた。ベテランの適合者を各地に派遣するなどして対処しているが絶対数が足りていないのが現状である。唯達のエリアは元々魔物の出現が少ない地域であったが今ではそれなりの数の魔物が現れるようになっていて、長いこと適合者として戦っている彩奈でも厳しいと感じていた。
「いつもこのくらいの時間に現れてくれるといいんだけどねぇ」
今回は放課後の訓練している時に現れたため迅速な対応ができたが、困るのは授業中等に現れる場合である。まさか魔物討伐に向かいますなんて言って他人に理解される訳がないし、どうしても抜け出せない時はあるのだ。その時は近隣エリアの適合者で動ける者が対処してくれるが、裏世界とはいえ近くに魔物がいるわけで気が気でない。
「唯もそのうち他のエリアのヘルプに駆り出されるようになるわ」
「その時は役に立てるように頑張るよ!」
その二人の元に加奈達がやってきた。別の場所で戦闘していた彼女達も無事に勝利したようだ。
「おっ、こっちも片付いたみたいだな」
「お二人ともお疲れ様ですわ」
加奈と舞は疲れを感じさせない爽やかさで唯と彩奈を労う。特に加奈はベテランの域にある適合者で、その強さには唯も憧れを持っていた。
「唯もすっかり一人前だな」
「まだまだだよ。もっとスムーズに倒せるようにならないと」
唯は実力がついてきたとはいえ、まだ三人には及ばないからもっと頑張らないとと思っている。だから褒められるのは嬉しいけれど、うぬぼれたりはしない。
「焦りは禁物よ唯。少しづつ強くなっていけばいいのよ」
頑張る唯を近くで見ている彩奈は優しい声で言う。その様子を微笑ましそうに見ていた舞が口を開く。
「それより、近日中にシャドウズ幹部の神宮司真央さんがこのエリアの視察にいらっしゃるそうですわよ」
「神宮司さん?」
唯はシャドウズに加入したが組織の人間とはあまり面識がない。彩奈達の他に近隣エリアの適合者数人と会ったことはあるが上層部の人間とはまだ会う機会がなかった。
「神宮司さんはシャドウズの中でも実力のある方で、どうやら最近の魔物の増加を受けて調査をされているそうです」
「唯を紹介するのに丁度いいな。新しい装備も手配してくれるよう頼みたいし」
その日はそのまま解散し、数日後の休日に神宮司が到着したと連絡を受けた唯は舞の家に呼び出された。
「ここが舞の家か・・・」
唯はメッセージアプリに送られてきた住所にやってきて驚いた。舞の家は和風でかなり大きく、もはや屋敷である。どれほど稼げばこんなところに住めるのか訊きたいくらいだ。
「いらっしゃいませ、高山さん」
屋敷内に通され、使用人に案内された部屋に行くと私服の舞と見知らぬ人物が待っていた。その人物は凛々しさの塊とも言うべきで、意思の強そうな瞳が唯を真っすぐに見据えている。
「こちらが先日話した神宮司さん」
「初めまして。シャドウズの神宮司真央だ。君が高山だな?」
舞の紹介を受けて神宮司が自己紹介して手を差し出す。
「はい、高山唯です。宜しくお願いします」
二人は握手を交わし、その際神宮司は唯から強い魔力を感じ取った。
「なるほど。新田の言う通り、君はとても強い魔力を持っているようだ。将来有望だな」
「良かったですわね。神宮司さんはなかなか人を褒めたり、称賛される方ではないんですのよ」
「舞は神宮司さんとお知り合いなの?」
「えぇ。神宮司さんはわたくしの師匠ともいうべきお方ですわ。まだわたくしが適合者になりたての頃に知り合って、訓練につきあっていただいたの。魔術も近接戦闘も、どちらもシャドウズの中でトップクラスの強さをおもちですのよ」
舞がそう言うのならよほど強い人なんだろう。唯はそんな神宮司の戦いを見てみたいと思う。
「あら、お二人もいらしたのね」
唯達が話している間に彩奈と加奈が到着し部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、二木、東山」
「こんちわっす」
「・・・どうも」
全員が揃ったところで神宮司は本題を話し始める。
「皆も知っての通り、ここ最近は魔物の出現回数が多くなっている。実はそれだけではなく魔人の目撃例も増えていてな。用心してほしいんだ」
「魔人?」
「そうか、君はまだ知らなかったか。では三人の復習もかねて説明しよう」
唯にとっては聞きなれない単語だが、魔人と聞いて彩奈達三人の表情は真剣でどこか暗いものとなっていた。どうやら魔人と少なからず因縁があるらしい。
「魔人とは魔物達の中でも高位の存在だ。奴らは人間のような見た目をしており、知能や感情もある。戦闘力も高い上、下級の魔物を使役している厄介な敵だ。ここ数年はあまり見かけなかったのだが魔人達もその数を増やしているのか戦場で会敵、交戦する回数が増えて被害もでている。普通の魔物以上に警戒しなければならない相手だ」
今まで戦ってきた魔物も唯にとっては強敵だったが、それ以上の敵がいるとなればより緊張感をもって戦場に向かわなければならない。
「魔物の増加はおそらく魔人のせいだろうな。このエリアでも再び出現する可能性がある。その時は無理をせず、退くことも必要だ」
その後も神宮司からシャドウズの近況等が伝えられ、舞達もここ最近の交戦状況を話して情報交換をおこなった。
しばらくの間話し合いは続き、昼頃集まったのだがいつの間にか夕方になっている。
「もうこんな時間ですわね。皆さん、夕食を召し上がっていきませんか?」
「そうするー! 舞の家の料理は美味しいんだぜ」
予定があると神宮司は帰ってしまったので、唯はもうちょっとシャドウズや魔物について聞きたかったと残念に思ったが、とりあえず舞の家では一体どんな料理が出てくるのか楽しみにすることにした。
準備に時間がかかるとのことで、その間加奈は大きな庭で薙刀の訓練を、唯と彩奈は縁側に腰かけて話して時間を潰す。
「唯に話しておきたいことがあるの・・・三宅雪奈という適合者のことなんだけど・・・」
彩奈が話を切り出した。神宮寺の話を聞いている頃から神妙な面持ちだったが、三宅という人物の名前を口にして更に深刻そうに眉をひそめる。
「以前、このエリアには三宅雪奈という適合者がいたの。彼女は唯のように明るい人だった。思いやりもあってこんな私にも普通に接してくれていた」
「彩奈がそういうならきっと素敵な人なんだね」
彩奈は小さく頷く。
「でも・・・彼女は戦いの中で・・・死んだわ」
悲しみの感情が伝わってくるほどの小さな声だった。唯も何と言っていいか分からず黙って聞くしかない。
「あれはとても大規模な戦闘だった。近くのエリアの適合者と共に魔物の大群と戦ったわ。そのさなかに彼女は魔人に殺されたの」
だから神宮司から魔人の話が出た時に三人とも暗かったのかと察する。大切な仲間を殺した相手の話が議題に上がれば嫌でもその時のことを思い出してしまうのだ。
「魔人はとても手強いわ。だから唯、もし魔人が現れても無理して倒そうなんて考えないで、まずは自分の命を守ることを優先して」
彩奈は必死な感じで唯にそう言う。彼女にとってその出来事はかなりのトラウマとなっているようだった。
「彩奈・・・でも、それほど危険な存在なら倒さないといずれ表世界にも悪い影響がでるかもしれないし・・・」
唯が話している途中で彩奈は唯の腕を掴む。まるで赤子が母親にすがるような必死さを感じさせ、唯は彩奈を落ち着かせるためにその手に自らの手を重ねた。
「彼女も・・・三宅さんもそう言って戦って死んだの! 私はあなたまで失いたくないの・・・」
今にも泣きそうな声で、普段のクールさは微塵も感じられない。
「彩奈、落ち着いて」
唯は優しく彩奈の頭を撫で、その心地良さと安心感で我に返ったようだ。ヒートアップしていたことを恥ずかしそうにしながらも唯の腕を掴む手は放さない。
「ごめんね。彩奈」
「いえ・・・私こそごめんなさい」
「彩奈のいう通り無茶はしないよ。でも逃げてばかりもいられない。だからね、一緒に戦おう。魔人は強いかもしれないけど、私達だって強くなってる。で、もしヤバくなったら全力で逃げよ」
「えぇ、そうね・・・」
今はただ、魔人がこのエリアに再び現れないことを祈るしかなかった。
「皆さん、準備ができましたわ」
舞に案内された部屋にはとても豪華な料理が用意されていた。ここは高級料亭かと見紛うレベルであり庶民の唯が目にする機会のないほどの量がある。
「お~これは凄いですな」
唯は今まで見たことない料理の数々に興味津々だ。中には食材なのか疑わしい形状の物もあり、どのように食べるのか見当もつかない。
「さぁ、遠慮なくどうぞ」
「よっしゃー!」
加奈は誰より早く食事にありつき、ものすごいペースで食べている。普段あまり量を食べない唯からしたらどうやったらあんなに食べられるのか不思議だった。
「あらあら、そんなに急いだら体に悪いですわよ」
「大丈夫! あたしは丈夫なんだ!」
唯はこんな平和が続けばいいのにと思ったが・・・・・・
そんな唯の願いはあっけなく砕ける。
舞の家に集まった日の5日後の深夜、再び魔物が出現した。
「やれやれ。こんな時間にこなくてもいいでしょうに」
まだ少し眠そうな加奈は魔具である薙刀を準備しながらそう呟く。
「二木さん、気合入れないと死ぬわよ」
そんな加奈に彩奈が注意する。こんな真夜中でも凛々しく真剣な顔つきだ。
「大丈夫。あいつらが視界に入った瞬間、殺意マックスになって目も覚めるぜ」
唯も刀を装備し、魔物がいる方向を睨む。その視線の先には多数の魔物が蠢いておりとても気味の悪い光景が広がっている。
「見えましたわ。結構な数がいますわね」
「よし、今回は四人で隊列を組んで離れないように戦おう。敵の数が多い時に孤立するのは死に直結するからな」
加奈の言うことに三人は頷き魔物達の方へ駆け出していく。
四人は次々と魔物を撃破するが数が多く、その上一体一体の魔物がこれまでより強いように感じた。
「ちっ、やるじゃねぇか」
加奈の斬撃を回避した飛行型魔物は魔力光弾で反撃してきた。加奈もまたその攻撃を避けて再び薙刀を振り、今度こそ魔物を切断する。
「唯、気を付けて。奴らの動きがやけに素早いわ」
「うん! よく相手の動きを見ないとね」
彩奈もまた素早い動きで敵を切り裂くが、唯は苦戦しているようだ。今までと違い、敵の動きも速いので対応しきれてない。
「今はまだこちらが優勢ですわね・・・」
舞は杖から魔力光弾を飛ばして魔物を打ち倒す。他の三人に比べてまだ余裕のある舞は冷静に戦場全体の状況を観察していた。魔物が強いとはいえ、まだ四人に大きな怪我はなく順調に敵の数を減らしていたが・・・・・・
「ほう・・・やるな人間ども・・・」
戦場を観察する者がもう一人いた。人間のようにも見えるが背中には黒い翼を生やし、その歯は尖っている。その正体は魔物達の中でも位の高い者、魔人だ。
ビルの上から人間と魔物の戦いを眺めていたが、彼女が強化した魔物達が次々と倒される様子を見て苛立っているようだった。
「ふん、いよいよ私の出番か・・・」
翼を広げてビルから飛び降り戦場めがけて滑空していく。
「あれはっ!」
視界の端に飛行する大きな魔物を捉えた加奈は後ろに跳躍して魔物達と距離をとり、その飛行する物体を注視する。
「まさか、マジで来やがったのか・・・!」
「皆さん! 一旦後退してください!」
舞も魔人を発見したようで三人に下がるよう指示を飛ばし、唯達は魔物との交戦を止めて舞の元に集まる。
「来てしまいましたわね・・・・・・」
「あれが魔人・・・・・・」
唯は初めて見る魔人から威圧感を感じていた。通常の魔物とは比較にならないほどの強いプレッシャーを放っており、そのせいで唯は動きを鈍らせている。
「逃げるか?」
「それがベストですわね。ですが、どのような敵か知りたいので少し交戦して様子を見てから撤退しましょう」
魔人は魔物達の前に降り立ち四人と向かい合う。
「初めまして、愚かな人間共。我が名はノエル」
不敵な笑みを浮かべながら魔人ノエルが名乗る。よほどの自信家なのか、自分が優位な立場にいることを確信するような態度だ。
「お前達の相手はこの私だっ!」
魔人は漆黒の大剣を装備して突進してきた。他の魔物とは比較にならないスピードで、唯はその魔人の動きを目で追いきれない。
「来なっ! 化け物っ!」
加奈が前に出て魔人ノエルと対峙する。こういう場面で先頭に立てるのが加奈であり、それは仲間が傷つくのを見たくないという気持ちからだ。
「唯! 私の近くから離れないで!」
「うん!」
唯は彩奈と共に魔人に接近し攻撃のチャンスをうかがう。
「わたくしは後方に残った魔物達の相手をしますわ!」
「了解! 頼んだ!」
舞は魔術を使って遠隔攻撃を行い、他の魔物達を牽制する。一人で多数の敵を相手にするのは難しいが、近接タイプの三人が魔人に集中できるようにするためには誰かが魔物を引きつけておかねばならない。
「くらえっ!」
加奈は魔人に向かって薙刀を振るうがその攻撃は簡単に弾かれてしまった。
「ふんっ。その程度か?」
「まだまだぁ!」
今度はフェイントをまじえつつ攻撃を繰り出すが、その動きを魔人は見切って対処してくる。
その間に唯と彩奈も接近し攻撃を行う。
「甘いわっ!」
掌に魔力を凝縮して唯に向けて魔力光弾を放つ。それをぎりぎりで避けるが、掠めただけでも普通の魔物が放つ光弾以上の衝撃波を感じる。もし直撃すれば命はないだろう。
その隙に彩奈が刀で斬撃を行うが、魔人は身を翻して軽々と避けて蹴りを放った。
「ぐっ・・・」
彩奈は蹴り飛ばされ地面に転がる。
「彩奈っ!」
「大丈夫よ・・・魔人から目を離さないで!」
加奈が再び魔人に接近して素早く斬り込むも一撃も当てることができない。加奈とて高機動戦闘を得意とする適合者だが、それを上回る動きができるのが魔人なのだ。
「強いけど、でもっ!」
唯は跳躍し、魔人の頭上から魔力を集中させた刀を振りかぶる。魔人は大剣を構えるが、唯のその渾身の一撃を受け止めきれず大剣は粉砕された。それほどのパワーがあるのかと魔人は驚くが事実として武器を破壊されたわけで、人間の中にも強い力を持つ者がいるのだなと舌打ちしながら後退する。
「やるではないか」
さすがの魔人でも武器を破壊された状態で三人を相手にするのは難しい。更に彼女の配下の魔物達も壊滅状態だったため、ここは一度退くことにした。
「また会おう。次こそは貴様達の息の根を止めてやる」
翼を広げて空高く飛翔し闇の中に消えていく。さすがに空中に逃げてしまえば人間では追うことはできないし、これこそ魔人が人間を上回る長所と言えよう。
「ふぅ~皆大丈夫か?」
加奈が仲間の安否確認をおこない、唯達の頷きを見て安堵しているようだった。
「彩奈は怪我はない?」
「えぇ、大丈夫よ。まだ痛みはあるけど問題ないわ」
魔人の襲撃という緊急事態をなんとか切り抜けることができ、四人はひとまず息をつく。特に彩奈は魔人と交戦して皆が生き残れたことにホッとしていた。
「今日のことは神宮司さんにも報告しておきますわ。今後も用心しないといけませんわね」
「唯、今日この後・・・その・・・私の家に泊まらない?」
魔人との戦いの後、帰っている時に彩奈が唯にそう訊く。人を誘うことに慣れていないのか戦闘前より緊張しているらしい。
「えっ、今から?」
「そう。私は一人暮らしなんだけど、なんていうか、今日は一人でいたくないの・・・ダメ?」
恥ずかしそうに小さな声で彩奈は唯に問う。唯は家に帰っても親は仕事の都合でいないし、明日は学校も休みなのでそれもアリだなと思った。それに突然の提案で驚いたとはいえ、イヤだなんて気持ちは一切ない。
「おっけー。じゃあ彩奈の家にいくよ」
彩奈は嬉しそうな顔で頷き、そのまま二人は彩奈の家へと向かっていった。
「ここよ」
町中のマンションにやってきて彩奈は足を止める。少しボロさのある外観で唯は寂しい印象を受けた。
「ここが彩奈のハウスね」
「部屋の中は片付けてないから少し散らかってるわ・・・・・・」
「大丈夫、気にしないよ」
二人は彩奈の部屋に入る。中には家具などの物は置いてあるが年頃の女子の部屋とは思えない無機質さであった。床に落ちてる服等がかろうじて生活感を出している。
「今日は疲れたからもう寝よっか?」
「そうね、先にシャワー使っていいわよ」
彩奈の言葉に甘えて唯は先にシャワーを使わせてもらう。丁寧にも彩奈はバスタオルや着替えを用意してくれているが、唯のほうが背が高いので服の丈が若干足りない。
「彩奈、色々用意してくれてありがとね」
「いいのよ。私が誘ったんだしね」
笑顔で言って唯と入れ替わりに浴室に向かった。
「ふぅ~」
床に座って一息つく。彩奈の家には初めてきたが不思議と落ち着く。見渡しても物が少なく、特徴といえばパソコンラックの隣にある本棚で、びっしりと本が敷き詰められていることぐらいだ。それでも安心感があるのはこの部屋から彩奈の香りを感じるからだろうか。これまで会った人間からは感じたことのない感覚に唯が浸っているうちに彩奈が戻ってきた。
「ふふ、眠そうね」
「いやぁ、リラックスしたもんで」
「あっ・・・そういえば、布団が一つしかなかったわ・・・」
彩奈は普段人を部屋に招くことなんてしないし、まして他人が泊まるなんてこれまで経験してなかったこともあってうっかり忘れていた。
「じゃあ二人で一緒に寝ようか?」
「!!」
唯の提案に彩奈は顔を赤らめて驚く。
「勿論、彩奈が嫌じゃなければだけど・・・」
嫌な訳がない。
「嫌じゃないわ! そうしましょう」
というわけで襖を開けて隣の部屋に行き、敷かれていた布団に二人で入る。さすがに一人用の布団では狭くはあったが、むしろそれが心地よくもあった。
「えへへ、やっぱりちょっと狭いね」
「も、もうちょっと近くに・・・」
彩奈は唯に更に近づく。部屋は暗いがこれだけ近ければ顔も見えるし、唯の体温もより感じる。
「今日は来てくれてありがとう」
彩奈は顔が赤いまま唯に感謝を伝える。
「いえいえ。私こそありがとだよ。きっと家に一人でいたら魔人のことを思いだして怖くなってただろうから」
戦闘時はアドレナリンの効果か恐怖を感じにくくなって、高ぶった感情のまま魔人とも戦った。しかし、あの恐ろしい姿を冷静になった後に思い出したらきっと恐怖を感じて震えてしまうかもしれない。だからこそこうして人と一緒にいれば恐怖を感じない気がするし、その相手が彩奈なら尚更だ。
互いの温もりを肌で感じながら二人はその後すぐに眠りについた。
まだ日は昇ってない夜中だが、ふと彩奈は目が覚めた。時計を見て朝までまだ少し時間があるのを確認し、再び眠ろうとするが隣で寝息をたてる唯に目がいく。
「唯・・・」
唯は熟睡しているようだ。そんな唯の頬に手を伸ばして軽く撫でる。柔らかく、なめらかな肌の感覚が手から伝わってくる。
眠る前、唯は一人だと怖くなってたと言っていたがそれは彩奈も同じだ。いつもクールで冷静な彼女だって人間なのだ。人並みに感情もあるし、魔人や魔物に対する恐怖だってある。だからこそ一人になるのが不安で唯を家に招いたのだ。それに彩奈は親と離れて暮らしており、他の人のように甘えることのできる相手が身近にいないことから、包容力のある唯に甘えたくなるのも仕方がない。
彩奈は更に唯に近づき、唯の大きな胸に顔を埋めながらその柔らかさに包まれて再び眠りについた。
「んっ・・・」
朝になり唯が目を覚ますと彩奈が自分に密着していることに気が付いた。
「おやおや」
普段とは違い、幼さを感じさせる彩奈の寝顔に愛らしさを感じる。
「ん~・・・」
「あっ、起きた?」
まだ寝ぼけているようで彩奈は更に唯にきつく抱き着いていて、そんな彩奈の頭を優しく撫でる。
「あっ」
目が覚めた彩奈は、唯がにやにやしながら見ていることに気が付き慌てて離れた。朝方、唯の胸に密着して寝たことを思い出して顔を真っ赤にする。
「ご、ごめんなさい」
「いやぁ、かわいかったなぁ」
彩奈は反対側に向いてしまった。
「ごめん、怒った?」
「い、いえ怒ってはないわ」
恥ずかしさのあまり顔を合わせづらかったのだ。
「ねぇ、今日は休みだしどこかに出かけようか」
「そうね、どこにいく?」
「私に任せておいて!」
起きてから少し経って二人は街へと出かけて行った。
彩奈のマンションからほど近い場所にある大型デパートへと二人はやってきた。彩奈はこうして誰かと来るのは初めてで少しドギマギしている。
「私が思うに彩奈はオシャレすればもっと可愛くなるはず」
「か、可愛く!?」
「うん! というわけで今日は彩奈のコーデをします」
まずは洋服店に寄り唯が服を見繕う。
「これなんかいいんじゃないかな」
普段彩奈が着ないような可愛らしい服を選んだ。唯の持つ服を見て女子高生とはこういう派手なモノを着るのかとカルチャーショックを受けている。
「これ!? こんなの私には合わないわよ」
「まぁまぁ、とりあえず試着してみて」
唯に言われるがまま彩奈は試着室に入って着替えた。先ほどまでの暗い女子から雰囲気が変わって明るい感じに見える。
「ど、どうかしら。少し胸のところがキツイけど・・・」
胸部の形がハッキリ分かるほど服が密着しており、そこが気になってるらしい。
「いいじゃん!可愛いよ!」
彩奈は恥ずかしかったが唯に褒められて嬉しくなる。
「彩奈は顔も整ってるし、スタイルもいいから何でも似合いそう」
「そんなことないわよ」
その後唯と一緒に服を選んだり、他の店も見て回った。普段はこんな風に他人と休日を過ごすことのない彩奈はかなり幸せそうで、それは相手が唯であることも大いに関係している。
「いやぁ普段見れない彩奈が見れて私は満足です」
「つ、疲れた・・・」
こんなに他人としゃべるのは久しぶりで、楽しいのだがさすがの彩奈も疲れを隠せない。これを日常としているイマドキ女子達のエネルギーは一体どこからくるのだろうと考えたほどだ。
「でも楽しかったでしょ?」
唯の問いかけに頷く。
「そうだ。何かお揃いの物を買わない?せっかく来たんだしさ」
「えぇ。いいわよ」
二人はアクセサリーショップに寄る。照明に照らされて輝くアクセサリーは彩奈には眩しく感じた。
「これなんかどうかな」
唯は月の飾りが付いたネックレスを選ぶ。
「唯がそれがいいなら」
二人でそのネックレスを買い、お互いに付けあう。安物だが彩奈にとっては宝物にも等しい価値がある。
「似合ってるよ、彩奈」
「唯も」
夕方になり二人は帰ることにした。楽しい時間は一瞬で終わってしまうものだ。
「それじゃあここでお別れだね。また学校で。・・・裏世界の可能性もあるか」
「なるべくならこちらの世界で会いたいわね」
二人は笑顔でそう言いあった。願わくば、魔物と関係なく二人で会えることを祈る。
「また彩奈の部屋に泊まりに行ってもいい?」
「勿論よ。いつでも」
手を振って別れ、彩奈は帰っていく唯の背中を見えなくなるまで見送る。寂しさが彩奈の胸にこみ上げてくるが、ネックレスの月の飾りを撫でて、自分は孤独ではないという温かい気持ちが寂しさを塗り替えていった。
「また会ったね」
その日の夜、魔物が出現したため唯達は裏世界へとやってきた。そのタイミングの悪さに苦笑いするしかない。
「まったく魔物は空気の読めないヤツね」
幸せな気持ちに浸っていた彩奈はその気持ちを台無しにした魔物に対して憤っている。
間もなくして舞と加奈も合流した。
「おまたせしましたわ」
舞は何やら荷物を色々持ってきているようで、重たそうに抱えていたバッグを地面に降ろす。
「あれ? 二人してお揃いのネックレス付けてる! ズルい! あたしにも買っといてくれよ~」
目ざとく唯達のネックレスを見つけた加奈が喚く。そんな加奈に彩奈は自慢げに胸元の月の飾りを見せつけた。
「くぅ~胸が大きい事も暗に自慢しているな!?」
「そんなことないわよ」
かなり余裕そうな表情である。
「まぁまぁ、皆さん、こちらをご覧になって」
舞が荷物を広げ、そこには見慣れないアイテムが数点転がる。
「これは?」
「これらはシャドウズから届いた支援物資ですわ。皆さんにお配りしますわね。まずはこれを」
唯達は水晶体の取り付けられたブレスレットを受け取った。
「このブレスレットは仲間の位置を教えてくれる魔具ですわ。この水晶に登録された者の方角を示してくれますの」
通常、水晶は魔物の探知に使用しているがそれと用途が違うようだ。
「この四人ぶんの物にはそれぞれが登録されていますから、高山さん、試しに東山さんをサーチしてみてくださいな。魔力を流して相手を思い浮かべればできますわ」
言われた通り唯はブレスレットを付けて彩奈を思い浮かべる。すると取り付けられた水晶から緑色の光が彩奈に向かって伸びた。
「なるほどこれはいいね。裏世界では連絡手段が乏しいから仲間とはぐれても安心だね」
そして舞は別の物を配る。見覚えのある結晶体は魔結晶と呼ばれる物だ。
「こちらは魔結晶ですわ。普通のものより高濃度の魔力が込められていますの。ここぞというタイミングで使ってください」
「よし!じゃあ魔物討伐に向かいますか!」
物資を受け取り、魔物達のもとへと向かう。
「きたな。待っていたぞ」
魔物達の群れに接近すると、先日交戦した魔人ノエルが待ち構えていた。更に多数の魔物が融合した大型魔物もそばに控えている。
「へっ! 今度こそ倒す!」
加奈が啖呵を切る。勝気な加奈は恐れを表には出さない。
「我々魔族の障害である貴様たちを消し去り、今度こそ世界の覇権を握ってやる!」
魔人ノエルは前回の物より更に大きな大剣を構えて、体中から紫色のオーラを纏う。今度こそは人間を撃滅してやるという決意が表れているようだ。
「もの凄い力を感じますわ。皆さん気を抜かないで」
四人は一気に駆けだし、魔物達との距離を詰めた。
「これくらい・・・!」
魔人と融合型魔物が魔力を凝縮させた魔力光弾を放ってくるが、唯はその攻撃をよく見て回避を行う。戦闘にも順調に慣れてきたようでこの程度なら造作もない。
「そこっ!」
舞の杖から反撃の魔力光弾が放たれる。通常攻撃でも他の適合者より光弾の威力が高く、魔人に対しても有効なダメージを与えられるだろう。しかし魔人も光弾を放ち、舞の光弾を打ち落とす。
「やりますわね」
その間に三人が接近、それぞれの魔具を用いて斬りかかるが、それを魔人は回避し融合型魔物が援護射撃を行う。
「やっかいだな。後ろのデカブツを叩かないと魔人に集中できないな」
加奈は融合型魔物に向き合う。そのサイズ差は圧倒的だが臆することはない。
「唯、彩奈! そいつを頼む! こいつはあたしが潰す!」
「わたくしも援護しますわ!」
舞は二つの相手を狙える位置取りをする。
「ふっ、私の相手は貧弱な貴様たちでは務まらんと思うがな」
「バカにできるのも今のうちよ。唯、あいつを切り刻んでやりましょう」
唯と彩奈は挟撃するように近づき、同時に刀を振るう。
その攻撃を華麗な身のこなしで避けると魔人は唯に向かって大剣を振るった。
「くっ!」
唯はその一撃を刀を使って受け流すが強い衝撃が腕に伝わってくる。まともに受けたら恐らく刀は折れるだろう。
更に魔人は背後に迫る彩奈に対しても振り向きざまに大剣を向けた。
「このくらいっ!」
それを予見した彩奈はぎりぎりではあるが避け、カウンターを放つ。
「ちっ・・・」
その斬撃が魔人の腹部に当たり、血が飛び散る。致命的なダメージではないが魔人の姿勢を崩すことには成功した。
「これで終わりよ!」
彩奈がもう一撃を放つが、
「ふんっ!」
魔人の拳が彩奈の腹部にめりこむ。瞬時に体勢を立て直すのはさすが魔人だ。
「かはっ・・・」
「死ねっ!」
とどめの斬撃が彩奈の頭上に迫る。
「させない!」
唯の攻撃で魔人の腕が切り飛ばされた。こうも簡単に斬られたのは、彼女が人間を見下し慢心しているからでそこに隙があったためだ。基本的に魔人は自分達こそ優等種族で下等生物の人間など恐れる相手ではないと思っている。
「ぬぅっ!」
最初は二人より優勢だったが、数の差は戦いでは大きく作用する。いくら戦闘力の高い者でも単独で複数人を相手にするのは容易ではない。
追い打ちをかけるように舞の魔力光弾が片足を吹き飛ばした。
「くっ・・・しかし!」
魔人は飛翔すると、加奈が戦闘中の融合型魔物に接近する。
「ここで終わるわけにはいかぬ!」
「なにっ!?」
魔人は魔物と一体化し、人型の巨大な魔物へと変化した。そんなことも可能なのかと唯は魔物のポテンシャルにただ驚くばかりだ。
「ここからが本番だっ!」
魔人ノエルは腕の触手で近くにいた加奈を弾き飛ばし、舞に狙いを定めて複数の光弾を放つ。
「なんて威力・・・!」
舞は魔力による防壁を展開するが耐え切れそうもない。すぐさまその場から避難する。
「唯、私が魔結晶の魔力を使って自分にブーストをかけて敵に突っ込むわ。その間に唯は大技を使ってあいつを倒して!」
「なら、これも使って」
舞からもらった魔結晶を彩奈に手渡した。
彩奈は自分の物と唯からもらった魔結晶から魔力を吸収し、唯は魔具に魔力を集中する。
「行ってくるわ」
彩奈はこれまで以上の機動力で魔人に突撃した。これは肉体への負荷が強い方法ではあるが、魔人と戦うには手段を選んでいられない。
「高山さん、無事ですか?」
「舞こそ大丈夫なの?」
舞は先ほど魔人の強力な攻撃を受けていたので心配になる。
「わたくしは問題ありません。それよりあの魔人をどう倒します?」
「彩奈が敵の気を引いてるうちに私が大技を使って仕留めることにしたんだ」
彩奈は加奈と共に魔人と交戦している。一進一退の攻防の均衡はいつ崩れるか分からず、すぐにでも援護しなければと唯は焦っていた。
「なら先にわたくしが大技を使いますわ。それで仕留めきれない時は高山さんに託します」
舞は魔結晶を杖に装着する。杖自体がまばゆく光り周囲を明るく照らす。
「いきますわ!」
杖の先端に光の輪がいくつも生じ、その中心から虹色の閃光が迸った。
「させるかっ!」
魔人は魔力障壁を自身の前方に展開して舞の攻撃を防御しようとする。
直後、閃光が障壁に直撃し爆発した。
「人間風情がこれほどの・・・」
その爆発の中でまだ魔人は生きていた。傷は浅く、すぐに修復される。更に巨大な翼を広げて飛翔しようとしているのが見えた。
「そうはさせない!」
舞の攻撃中に加奈が魔具に魔力を集中させ、逃げようとする魔人の翼に向けて大技を放つ。
光を纏う薙刀の一撃は的確に翼を切断し、魔人は飛べなくなった。
「貴様っ!」
怒った魔人は触手を加奈に向かって伸ばすが、
「今だっ! 唯っ!」
その攻撃をよけながら加奈が叫ぶ。
「いくよっ! 夢幻斬り!」
唯の渾身の一撃が刀から放たれる。閃光が魔人に向かって伸び、その眩い光が周囲を明るく照らした。
「くっ!」
舞の攻撃を防ぐため、魔力のほとんどを使っていた魔人にその大技を防御することはできない。分厚い刀身に似た光が魔人をとらえ、斬るというより頭部から消滅させるようにして振り下ろされた。
「やりましたわね!」
「倒したんだ・・・魔人を」
魔力を使い果たした唯を一気に疲れが襲うが、あの強敵を倒せたという喜びのおかげで倒れずにすんだ。
「さっすが唯さん! もう、うちらのエースですな」
「ううん、私は最後に攻撃しただけ。皆がいなかったら瞬殺されてたよ」
唯は謙遜しているのではなく本気でそう思っている。今回だって皆がチャンスを作ってくれたからこそあの一撃を放つことができたのだ。だからこれは皆の勝利だと。
「お疲れ、唯」
「えへへ、ありがと彩奈。なんだか私達ならきっとどんな敵でも倒せる気がしてきたよ」
慢心は大敵だが、これくらいの自信を持たねば戦場では生き残れない。
「そうとも! あたし達なら魔物の根絶だってできちまうさ!」
「魔人に勝てて嬉しいのは分かりますが、油断は禁物ですわよ」
苦笑いしながら舞がくぎを刺す。今回は上手くいったがまたいつ魔人が現れるか分からないし、次も勝てるという確証はない。
「もちのろん、分かってるさ。それくらいの自信がつくほど今回は凄かったのさ」
「これからも皆で頑張っていこうね!」
唯の言葉に三人は笑顔で頷いた。
「ノエルの奴め、今回は上手くやると思っていたのに・・・」
一人の魔人が愚痴をこぼす。
ここは薄暗く、日の光など届かない地下である。魔人のアジトとなっており多数の魔物も生息していた。
「まったく我が主に報告するのは私なんだぞ・・・」
その魔人は最も下の階層にある大きな扉の前に到着した。すると勝手に扉が開き、中に招き入れられる。
「帰ったか、ヨミ」
奥にいる妖艶な美女が声をかけ、ヨミと呼ばれた魔人が答える。
「ただいま戻りました、サクヤ様」
「して、どうだった?」
ヨミは若干答えずらそうにしたが素直に見てきたことを報告する。
「ノエルは失敗しました。人間どもに敗れて戦死しました」
「で、お前はただ見ていたのか?」
問い詰められたヨミは口ごもることしかできない。
「バカ者! 貴様が奴と確執があるのは知っているが、むざむざ貴重な戦力を失うなど・・・」
サクヤはせき込み、姿勢を崩す。
「サクヤ様!」
「問題ない。ちっ、不完全な復活でなければ・・・魔女の本来の力を取り戻せれば・・・」
サクヤは長年裏世界にて封印されていたが最近になって復活を遂げた。彼女を封印していた魔法陣が完全なものではなかったため、とても長い時間がかかったが魔法陣が崩壊して蘇ることができたのだ。しかし全盛期に比べて力の多くが失われており、本来魔人より力があって高位の存在である魔女だが、今のサクヤは不調だった。
「仕方がない、アリスを呼び戻そう。ヨミ、例のアレの準備はどうなっている?」
「今は順調に進んでいます。しかし、起動するためのキーが足りません。いずれその問題を解決する必要があります」
「そうか・・・私が世界の頂点に君臨するためには必須なものだ。解決策を見つけなければな」
彼女の夢が叶う手前までやってきたのだ。こんなところでつまずくわけにはいかない。
「愚かな人間共よ。私の手で確実に滅ぼしてやるからな」
サクヤの目には憎悪の炎が灯っていた。
-続く-
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