2016-03-15
ホワイトデー。
カレンダーを眺めて、金髪金目の男は大きく息を吐く。眼鏡をはずし、眉間をもむようにマッサージをしながらまた大きく溜息。隣では茶髪に緑とピンクのメッシュの入った男が小さく笑った。
「まぁた兄っこは~!幸せ逃げるべ??眉間にクッキーだべ???」
誰のせいだ、という言葉を飲みこんで眼鏡をかけ、ぐっと結び目に指をかけてネクタイを緩め、金髪の男、クッキーは“弟”を無視するように天を仰いだ。
「来年までに、お前はネクタイの結び方を覚えろ。」
クッキーとカラメラ、金髪と茶髪の二人は、巷でホワイトデー兄弟と呼ばれていた。バレンタインのテディと合わせて、バレホワ兄弟と呼ばれることもある。
その所以のひとつに、こうして毎年、二人はホワイトデーに、テディはバレンタインに、盛大にチョコレートやクッキーを配り歩いていることがあった。クッキーなどは平素から街頭で(堅物然とした容姿には似ても似つかない)手作りのアイシングクッキーなどを配っているものの、ホワイトデーにはまた凝り方の格が違う、というのか。いっそう手の込んだものを作って配る。今年は、白のタキシードを着た男性と花束、ウエディングドレスを着た女性のクッキーをワンセットで。
それを知ってか知らずか“弟”テディの用意した白のスーツを着ているホワイトデー二人。
服装の効果か、それともカラメラと二人であったからか、はたまた今日がホワイトデーであったからか、クッキーのストックは見る間になくなり、まだ昼も過ぎた辺りだというのに二人はすっかり暇になったわけだったが、クッキーの表情はいつもと変わらない。
「腹が減ったな。」
「昼飯まだだもんな~」
表情は変わらなくても、伝わるらしい。返ってきた“弟”の言葉はわずかに笑みを含んで、柔らかかった。だからどう、と思うほどクッキーは感慨深くなかったが。
腹が減った、と言いながら動かない二人。誰を、何を、待つというわけではなかったがぼんやりしていたところ、「おっつかれ~~~!」という底抜けに明るい声と同時に、クッキーの右肩に、カラメラの左肩に腕が回り、引き寄せられて、その二人の間に入る褐色の肌。
「頑張った弟たちに~!お兄ちゃんがご飯をご馳走してあげよう!!!」
平素は互いに兄だと主張し合う三人だったためにこうなると「兄は私だ(べよ)」と訂正を入れる半ばコントのようなやりとりが始まるのだったが、クッキーとカラメラは一度目配せをして(クッキーは溜息混じりに、カラメラはしめたとばかりに口元に笑みを浮かべて)、頭上にはてなを飛ばすテディを見た。
「そんじゃあ、“兄っこ”に腹いっぱい食べさせてもらおうかなあ、兄弟?」
「……そうだな。たまには“兄”らしいことをしてもらうのも悪くない。」
このあとめちゃくちゃご飯食べた。
「あっ、兄っこそれ俺ん!!」
「食べたいなら頼めばいいだろう、“兄”の奢りなんだから。」
「そーだけどーー!」
「お前もさっきから私のをくすねているじゃないか。」
「……バレた?」
「バレるも何も目の前でされていればな。」
「うえ~~、……あっ、スイマセーン!」
「こっちのパエリアと~、あとこっちのマリネと、あ、このグラタンもひとつ!」
「カタラーナとティラミスもひとつずつ、追加で。」
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