2015-05-05

双子、というわけでもない。どこにでもいる、ありきたりな、普通の姉弟。すこし家が古くて、本家分家と区別をされてはいたけれど。子供心にそんな垣根はないも同然だった。気にしているのは大人ばかり。本家の娘と分家の息子は、いつも庭先を駆けずり回って、裏山へ探検に出かけて、泥だらけになって、傷だらけになって笑っていた。互いにとって、互いが半身であるような。大人たちに叱られて得たものは、そんな優しくて暖かい繋がりだった。


 ある日、本家の娘は気づいた。

 分家の息子の身体に、たくさんの痣や傷があることに。

 

まったくの偶然だった。彼が裏山で足を滑らせて、服を枝に引っかけてしまったという、それだけの。体勢を立て直してひょいと跳び上がった彼に新しい傷はつかなかったが、彼女は彼のその身体が、気が気ではなかった。


「ねえ、お母様。つるちゃんは、どうしてたくさんけがをしているの?」

手のひらの擦り傷にしみる消毒液。ふわふわした綿みたいなもので優しくそれを拭いてくれていた母に、何の気なしに聞いた彼女は、それまでの満ち足りた生の中で、はじめて背筋を凍らせる。

「すず。」

母れ以上、何も言いはしなかった。「いたいよ、お母様。」押し当てられたふわふわが、消毒液と、血と、傷口の汚れとを吸って重くなって、じくじくと痛くなるまで。母は何も言わずに、ただじっと、彼女を見つめるだけだった。




うたた寝から目覚めた彼女の気分は、最悪だった。

さわやかな、肌寒さを感じる風に吹かれているにも関わらず、厭な汗をかいている気がした。

幼いころから、自分の代わりに殺され続けていた半身のことを考える。


「私の弟なんです。この子を見ませんでしたか。どんな些細な記憶でも構いません。お願いします。」

唯一残っていた彼の写真、幼いころの、彼女が大切に大切に持っていたそれをカラーコピーしたものを載せたビラ。

手製のそれを、今日も変わらず配りながら。

お願いします、お願いしますと繰り返す彼女の手から、何とはなしに、受け取った一人の中性的な人。


「……僕、この子、見たことあるよ?」




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