青い鳥の尾の引く

魚倉 温

2015-04-15



 一日、一日が大切になった。

 考えたこともなかった、死ぬってことを。

 あいつと居ると、考えないではいられなくて。

 それはとても辛くて、とても苦しいけれど。

 考えるからこそ、毎日、些細なことが幸せに思えるようにもなった。


<戦場にて>


 前から、人を傷つけるこの仕事は嫌いだった。でも、それしかできなかったからやってきた。生きているからには精一杯でないといけないと思っていたし、そんな生き方が好きだったし、たとえ嫌いで、やめたいと思っていたとしても、たくさんの命を奪って、その屍の上で冷たく生きてる自分には、絶対にやめられない生き方だと思っていた。

 争い事は無益だと思っていた。薙ぎ払わないといけない相手に、その無益さを訴えることは止めなかった。

(だけど、それが自分の傲慢で拡声されてることは、気付きもしなかった。)


 大事な人ができてから、その思いは一層強くなった。

 今日の仕事で、自分は死ぬかもしれないんだと。

 そんな簡単なことに、初めて気付いたように思う。

(だけど、気付かないふりをしていたことには、気付かないふりをした。)


 自分と、その大切な人を護る。そのためになら、国ごと護ってやる。


正直なところ、あいつが生きてさえいれば、オレのことなんてどうだっていい。だけどいつだったかあいつが言った、「貴方が死んだら、私は貴方の後を追いましょう」。それが冗談だと思えなくて。不謹慎だけど、嬉しくて。だから生きていようって、思ったっていうのも少しある。


 「死にたく、ないなあ。」


 戦場でふとこぼれた笑顔と、小さな些細な言葉。何かに惑わされたように足を止める気配と、ほぼ無意識に、踏み出した足。重く、ずっしりと手に馴染む得物を横薙ぎに払い、命を払う。


 ふと思い出したのは、露払い、という言葉。邪魔なものを取り去る、ような意味だった気がするそれ。たしか、どこかでは命のことを、玉、とか、露、なんて喩えたっけ。と。

 帰ったら、手を繋いで、抱きしめて。ただいま、って言って。おかえりなさい、を聞きたい。


 殺してしか生きられなくて、ごめんな。って。たぶん、それはまだ言えないから。

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