第3問「指が勝手に反応した」

「おはようございまーす」


 夏休みだというのに、10時に集合してクイズをしている。

 まあ、集合時間ぴったりに来るのは、全体の半分くらいなんだけど。


 今日は誰かが企画を打つわけでもなく、通常活動である。

 通常活動ということは、ひたすら問題集を読むわけで。

 ひたすら問題集を読むということは、まあ当然飽きてくるわけで。


「じゃあ次、10マル20×バツなー」


 10回正解したら勝ち、20回間違えたら失格みたいな、そんなトチ狂ったルールでクイズをやり始めてしまうわけだ。


「問題。自然数を/」


「どうせ3つに分けるんだろ? 1!」


 ピコピコーン。

 こんなんでも正解が出るあたり、すごいと思う。


「問題。日本の都道府県で、/」


 いや、それはさすがに無理だろ。47択だぞ。


「えー……長野県」


 ブー。


「正解は富山県でした」


「惜っし……」


 惜しくもなんともねえよ。確かに近いけどさ。


「問題。紀元前1286年/」


 あまり積極的に押すつもりはなかったのに、自然と指が反応していた。手元が光る。

 昨日の彼女が、こちらをぐぐっと振り向いた。ああ、そうか。そんな話したわ。


「カデシュの戦い」


 ピコーン。


「年号押しつよーい」


「たまたま昨日見たからだって」


「それで覚えてんの強くね、さすがじゃん」


「そうでもねえよ」


 * * *


「先輩、よかったですね」


 帰りの電車でふたりになると、彼女はこちらを向いて言った。


「何の話だ?」


「『カデシュの戦い』ですよ。私だって、押してたのに」


 ああ。


「指が勝手に反応してさ」


「なんですかそれ」


 まあ、まだわかんないよなあ、たぶん。


「そのうちわかるよ」


「あーその余裕の笑みずるーい。見ててくださいよ、今にぎゃふんと言わせるんですからね!」


「そいつは楽しみだ」


「ほらまたー」


「ほら、ペーパーのやつやるんだろ」


「その前に復習からですよ?」


 ああ、そうだった。


「カデシュでラムセス2世と戦ったのは?」


「ムワタリ2世、だろ」


 結局ごり押しで覚えることにした。


「世界初の階段ピラミッド」


「ジェセルさんです。屈折はスネフェルです」


 お互い、意外に優秀だったので、すぐにペーパーの続きをやることになった。


 <6. 埼玉県加須市かぞしが生産量日本一を誇る、こどもの日に庭先などに立てる、ある魚を模したのぼりは何でしょう?>


「こいのぼり、だよな」


「ですね」


「そもそも、これで『かぞし』って読むんだな」


「初耳ですね、どのあたりにあるんでしょう?」


 あ、これもしかしてあれか? かそり貝塚の「かそ」と一緒?

 ……「加曽利貝塚」か。全然違うじゃん。


「北東のあたりですね、行田とからへんです」


「全然イメージつかねえ……」


 地図を見せてもらっても、イメージはつかめなかった。


「全長100mくらいの『ジャンボこいのぼり』を保有してるそうですよ?」


「100mってすごくない?」


「すごいから言ったんですよ」


「はいはいすごいね」


 まあ、でも、これは覚えやすいか。


「こいのぼりは家族かぞくで一セットだから『かぞし』な、覚えた」


「あ、いいですねそれ」


 だろ。


「あと、なんだっけ。東京タワーであげてる変なやつ」


「東京タワー、ですか?」


 調べた。


「あ、これだ。『さんまのぼり』」


「もはやこいの原型を留めてない……」


「なんでも、東北の復興を願って、大船渡市の名産をモチーフにしてるんだそうな」


 それにしても。


「まんまさんまだな」


「……うまいこと言ったつもりですか?」


「別に?」


「ほんとはそのつもりでしょう?」


「まあ、ちょっとは」


「全然うまくないですよ」


「わざわざ言い切らなくたってよくない? ねえ?」


「はい、次行きましょう」


 ひどいなあ、もう。


 <7. 次回地球に最接近するのは2061年7月28日と予測されている、およそ76年周期で地球に接近する周期彗星を、軌道計算をしたイギリスの天文学者から「何彗星」というでしょう?>


「彗星なんてハレーくらいしか知らないよな」


「まあ」


「発見したのって誰なんですか?」


「ハレー……は計算しただけか。誰なんだろな?」


 Wikipediaに「不明」と書いてあった。そりゃそうか。だいぶ明るいらしいもんな。


「ハレーの予言を証明したのはドイツのパリッチュさんらしいですよ」


「ドイツなのにパリなのか」


「え、反応するのそこなんですか」


「覚えることを考えてるんだよ」


「まあ、それはそうですけど」


「というかもうこれで覚えられた気がする」


「すごいですね」


「一切感情がこもってないのやめろ」


 棒読みちゃんかと思ったぞ。


「あとはなんだろ、クイズでよく聞くのはマーク・トウェインとか?」


「と……とうえ?」


「何年だか忘れたけど、ハレー彗星が来た年に生まれて、次に来た年だから、76年後? に亡くなってるの。なんか自分でもそうなるだろうって予言してたんだったかな」


「へー」


「一応言っておくと、『トム・ソーヤーの冒険』の人な」


「あ! あれ書いたのトウェインさんって人だったんですね!」


 あとは『ハックルベリー・フィンの冒険』もか。

 他なんかあったっけ?

 こういう時にはWikipediaが便利だ。


「親戚にジーン・ウェブスターがいるそうですね」


「あ、なんか聞いたことあるぞそれ」


「あれ、先輩、知らないんですかー?」


「こら、煽るな」


「『あしながおじさん』の人ですよ」


「あ、それがそれなんだ」


 知らなかったというか、覚えられてなかった。覚えよ。


「じゃ、先輩。今日はこのへんですね」


 気が付くと、電車は彼女の最寄り駅に着いていた。


「明日もよろしくお願いします!」


 はあ。まずは今日の分定着させないと。がんばらないとな。






※この章のクイズ(<>でくくった部分)は、2018年8月18日開催・STU XX 1R 100問ペーパークイズ(http://www.stu-vwx-union.com/pages/1831454/page_201804122011)より引用しました。




【今日のまとめ】

・こいのぼり生産量日本一→埼玉県加須市かぞし

・さんまのぼり→東京タワーのイベントであげられる。大船渡市の名産をPR。

・彗星に関するハレーの予言を証明→パリッチュ

・『ハックルベリー・フィンの冒険』『トム・ソーヤーの冒険』→マーク・トウェイン

・『あしながおじさん』→ジーン・ウェブスター

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る