第2問「まずは復習からやりましょう」

 昨日は大きなクイズ大会だった。

 帰り道、後輩に「悔しくないんですか?」と聞かれ。壇上でクイズがしたくないのか、と聞かれ。

 「無理だ」と答えたはずなのに。

 結局、なぜか丸め込まれて、一緒にペーパー対策の勉強をすることになったのだ。


 とはいえ。今日は夏休み期間で、しかも日曜日。

 平日なら部活名義で学校の教室が使えるのだけれど、それも無理だ。

 どうやるのかなあ、と思っていたら。


【後輩】:せんぱーい

【後輩】:やりますよ


 昼頃、LINEが飛んできた。


【先輩】:何を?

【後輩】:しらばっくれないでください

【後輩】:クイズやりますよ

【後輩】:お電話してもよろしいでしょうか?

【先輩】:はいよ


 クイズ界には「スカクイ」だったり「ディスクイ」だったり「長屋クイズ」みたいな文化が浸透しているので、ネット通話に抵抗がないというか、すんなり通話する人が多いと思う。


「はい、こんにちは」


「どうも」


「ところで、まずは復習からやりましょう。ワールドカップの優勝トロフィー、覚えてますか?」


 あー。それはね。ちゃんと覚えたんだ。寝る前に覚えてないことに気付いて、ググり直したから。語呂合わせも作ったんだぞ。


「ワールドカップはWダブリュー杯って書くじゃん? Wワットじゃん? ワットときたらジュールじゃん? ジュール熱……じゃなくて、『ジュール・リメ杯』。ほら覚えた」


「うわあ……」


 電話口の向こうでドン引きされた。


「ついでにワットが発明したのは蒸気機関車で、蒸気機関車はレールの上を走るから、デザインしたのはラフレール。何か?」


「いえ、なんでも。理系ですねえ」


「まあそりゃ」


「では次、現在の日本代表監督は?」


「科オリの日本代表ならツイッターでフォローしてる」


「はい。話を逸らさないでください。ほんとに覚えてないんですか?」


「おうよ」


「威張ることじゃあないでしょう……森保一もりやすはじめですよ、しっかりしてください」


「あー、そんなやついたね」


 一度聞いただけじゃさすがに忘れるからなあ。


「ところで、そっちこそ覚えたの? 日本語では『待降節』とか」


「アーベント、です!」


「それドイツ語の『晩』とか『夜』だからな……」


「え?」


「アベント。しっかり覚えろ」


「あ、そうでした……先輩、語呂作ってくださいよ、ジュールみたいに」


「自分で作らないと覚えないぞ? いやこれはマジで」


「なるほど……うーん……」


 しばらく、沈黙があって。


「覚えました。待降節で食べるシュトーレンにはアーモンドがきっと入ってるのでアーモンドお弁当です。略して『アドベントー』です!」


 なんかもうよくわからんけど。


「わかったならよろしい」


「ほんとにわかりました?」


「俺は覚えてるからいいの」


「まったく……これだから先輩は……」


 * * *


「はい。今日はこの問題ですね」


 <4. 思いがけない幸運が舞い込むことを、「棚から『何』」というでしょう?>


「まあ、ぼたもちだよな」


「ですね」


「ぼたもちとおはぎの違いって知ってる?」


「えー、なんですか?」


「諸説あるから短文クイズには出ないぞ」


「あ、はい……」


 春と秋とか、つぶあんとこしあんとか、な。


「んーあとはなんだろな。『棚から牡丹餅』と同じ意味のことわざ、とか?」


「そんなのあります?」


「瓢箪から駒……はちょっと違うか」


 とりあえずネット検索。


「なんか色々あるなあ……『開いた口へ牡丹餅』とか『寝ていて餅』はバリエーションだからいいにしても、『いわし網でくじら捕る」とか、あー、鯛もあるのか、『鰯網へ鯛がかかる』とかも言うらしい」


「陸上だと『兎の罠に狐がかかる』とか『がん捕る罠に鶴』とかあるんですね」


「いっぱいあるもんだなあ……」


「ですねー」


「なんかもう疲れたんだけど」


「いやさすがにもう少し頑張りましょう?」


 <5. その形から「金字塔」ともいわれる、エジプトなどで建造された、四角錐の形状に石を積み上げた墳墓を何というでしょう?>


「まあピラミッドが『金字塔』はベタだからいいとしてだな」


「私、今回初めて知ったんですけど」


「覚えましょう」


「はあい」


「ピラミッドといえば……なんだろなあ」


「はいはーい。クフ王だけ知ってます!」


「あとはカフラー王とメンカウラー王な。ギザの三大ピラミッド」


 いつか行ってみたい。


「あとあれか。ラムセウム・ティンティリス光輝の大複合神殿


「? なんですかそれ?」


「……ゲームのネタだから、覚えなくてよろしい」


「むー。気になります」


 彼女は自室でぷくーっとしてるんだろうか。顔を思い浮かべて、ちょっとにやっとしてしまった。


「ほら、オタクどもがやってるFGOってゲームの宝具でな、オジマンディアスってサーヴァントのな、」


「おじさん……?」


「いや、不敬だぞ……一般的にはラムセス2世って呼ぶ方が有名か。あのほら、カデシュの戦いに勝ったとか、アブシンベル神殿もそうだっけ?」


「かでしゅ……?」


「カデシュってなんだっけ」


 ググった。


「あ、そうそう。世界で初めて平和条約結んだやつだ。紀元前1286年、ムワタリ2世率いるヒッタイトと戦った」


「先輩、ペース早いです……」


「ごめんごめん」


「お詫びに一緒に語呂考えてください」


「語呂かあ……」


 うーん……

 なかなか難しい。


「カデシュってですか?」


「それ言うなら『カデス』だろ」


 あ。


「ピース・オア・デス、で、『平和カデシュ』でどうよ」


「もうそれでいいです」


 ムワタリ2世、覚えにくいなあ……どうしよう。

 明日までに考えればいいか。メモった。


「なんかピラミッドっていっぱい種類ありませんでした?」


「屈折とかだっけ」


 まんが世界の歴史で見た記憶だけはある。


「その前に『階段ピラミッド』があるみたいですよ? 最初はジェセル王のピラミッドらしいです」


「ジェセルかー」


「はい?」


「いや、覚えにくいなあと思って」


「そうですね、覚えにくいです」


「そうですねじゃなくて。語呂考えよって言ってんの!」


「はーい」


 頭をひねる。


「あ、整いました」


「階段って怪談じゃないですか。夏じゃないですか。夏といえば冷たいものじゃないですか。ジェラートとかいいじゃないですか。ジェラートがセル、つまり売られてるので『ジェセル』です」


「天才」


「もっとほめてもいいんですよ?」


「大会で俺上回ったら、な」


「あ、言いましたね? 約束ですよ?」


「はいはい」


 負けられない理由が増えてしまった。


「で、初めて屈折ピラミッドとか真正ピラミッド、赤いピラミッドって呼ばれてるらしいですけど……これを作ったのがクフ王のひとり前の王様、スネフェルさんだそうです」


「あ、なんか聞いたことあるな。世界史で聞いたわ」


「今世界史の話ですから!」


「そりゃそうか」


「スネレン指標は視力の指標でしょ、視力が悪い人は屈折率を調整するためにメガネをかけるから、屈折ピラミッドはスネレンさん……じゃなかった、スネフェルだ」


 体感、最初の数文字を思い出せるようにしておけば大丈夫。大丈夫な、はず。


「まずスネレン指標を知らないんですけど、わたし」


「なんかアルファベットでやるやつ。ランドルト環じゃなかったからこれだよ、だいたい」


「へー」


 * * *


「っと、だいぶ話しちゃいましたね。それじゃあ、明日は部活で! ありがとうございました!」


 テテトン、と音が鳴って、通話が切れる。

 明日もやるのかあ。大変だけど、でも、こうやって調べながらクイズ会話するの、ちょっと楽しくなってきたぞ。

 がんばろう。






※この章のクイズ(<>でくくった部分)は、2018年8月18日開催・STU XX 1R 100問ペーパークイズ(http://www.stu-vwx-union.com/pages/1831454/page_201804122011)より引用しました。



【今日のまとめ】

・棚からぼたもちと同じ意味のことわざ

 開いた口へ牡丹餅

 寝ていて餅

 いわし網でくじら捕る/に鯛がかかる

 兎の罠に狐がかかる

 がん捕る罠に鶴

・三大ピラミッド→クフ王、カフラー王、メンカウラー王

・紀元前1286年、世界初の平和条約→カデシュの戦い

・世界初の(階段)ピラミッド→ジェセル王

・世界初の屈折ピラミッド/真正ピラミッド(赤いピラミッド)→スネフェル王

・視力検査、アルファベットを用いる→スネレン指標

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