第3話 真実

 なぜ電話を切ったのか咲太にも分からなかった。


 強いて言えば、なんとなく。流れ作業のように、電話を取る、話を聞く、電話を切る。いや、話の途中だった。


 ふと、思い出す。


 あいつは何を言おうとしたんだろう。思春期症候群が――



 世界が回った。


 何かを叫ぶ声をよそに倒れこむ。


 わずかに開いたまぶた隙間すきまからは床しか見えなかった。



   〇        〇        〇



 「・・・・・・太」


 ほっぺたが引っ張られてじんじんする。


 「咲太、何寝てるの。オムライスできたわよ」


 重いまぶたを開けた咲太が目にしたのは自分の寝室だった。


 「さっさと着替えてリビングに来なさい」


 何を言っているんだ。

 

 それよりも僕は倒れた後はどうなったんですか、と訊こうとした咲太の視界に映ったのは、制服を着たままの自分の腕だった。


 おかしい。家に帰ってリビングに行ってそのあとに着替えたはずだ。


 薄暗くて重い雲のような違和感いわかんが咲太の頭の中に広がったあと、それは直ぐに小さくなった。


 夢か。




 

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