第9条 リートとの出会い~コロッポウは鳩じゃない
バステトの猫をゆっくり抱き上げてほほ笑みかけてくれたのは、私より少し年上くらいのイケメンお兄さんだった。銀色の髪にチョコレート色の瞳。メガネのよく似合う知的な男性だ。ちょっと変わっているのは、サラつやのミディアムヘアを、赤い石がきれいな女物の髪留めで留めていること。似合うのだけど、それがまた妙に色っぽい。きちんと手入れされた無精ひげに女物の小物。なんともいえない大人っぽさだ。
「コロー、失礼はありませんでしたか」
「俺様だぞ、安心しろ」
「あなただから安心できないんですよ」
聖猫(バステト)のコローは不満そうにあくびをする。
「あなたは、旅人ですか?見慣れない格好ですね」
「えーと、まあ、世界を救いに来たんですけど」
ノリでぽろっと言っちゃったあ――!!!!コローはまた私に威嚇してくる。今度はイカ耳つきだ!!
「おい、リート……こいつ怪しすぎるぞ。外典もどっから盗んできたかわかったもんじゃねえ。こいつをとっつかまえて、王に引き渡す代わりに俺様たちの目的を達成するか?」
「こらこら、コローは血の気が多くていけませんね。少し頭から血を抜いていただきましょうか……」
「やめろ!あのロボットミーもどきの手術だけは!!」
「ロボトミー、でしょ」
私が思わずツッコむと、また「外典」のページがさらさらと開いて、唐草模様の草書体が現れた。その様子を、じっと「リート」と呼ばれたイケメンが見ている。
「ふむ……あなたは間違いなく、救世主かもしれません。少なくとも、伝説の『愚かな賢者』であることは間違いないでしょう」
「……」
「ぶわっはははは!!愚か!愚かな賢者かよ!!よかったな、お前!伝説の救世主、愚かな……」
私はコローのひげをぐいと引っ張った。ひげをぶち切られると思ったか、コローはおとなしくなった。猫のひげは大事なものだものね。賢明です。
「あなたのお名前は」
リートがやさしく聞く。私は素直に答えた。
「白洲七瀬です」
「うん、ではナナと呼びましょう。いいですか?僕はリートです。リート・レーゲル」
「俺様はコローだ。正式名はコロッポウだがな」
なんなの、その鳩の鳴き声みたいな名前は……私はすでに笑いをこらえるのに必死だ。
「なにがおかしいのですか?コロッポウというのは、この世界で歴史ある名前なのですよ」
「歴史……?」
「そうです。僕が携えている『六法全書』という古シュトラ語の辞書の小型版です」
「あのさ」
「はい」
「たぶん、コロッポウって……『しょうろっぽう(小六法)』の間違いなんじゃないかな……」
そのときコローがリートにとびかかった。
「てめー!!由緒ある名前だと思っていたのに!こんなやつに……『外典』の盗っ人に笑われる名前なんかつけやがって、チクショウ!」
「コロー、頭から血を抜きますか?」
「ごめんなさい」
リートの「血を抜く」発言は、よほどコローにとってトラウマのようだ。なにがあったんだろう。
コロッポウの名は無事に外典に記された。リートはふっと空を見上げた。
「一雨来そうですね。ナナ、行きますよ」
「え、どこへ……」
「僕たちと一緒に旅をしてください。僕たちの使命に、あなたの能力が必要です。この不法に満ちた世界……シュトラを救ってください。それに、外典を持っている限りあなたは外典の盗人として追われることになります。追われるもの同士、助け合って旅をしましょう」
「あなたたちはどうして追われているの……?」
リートは、ぽつぽつと小雨の降りだしてきた曇天を遠い目で見つめた。
「血のために。王の名のために。そして、復讐のために。僕たちは、王を倒すために旅をしているのです」
(9 終わり)
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