第6条 ヨモツヒラサカへ~司書さんは薬売りではない
そこには、うっすらきれいな微笑みを浮かべたキソクさんがいた。
「何者……なの?司書さん……?」
「ただの司書ですよ。さあ、ご案内します。規則ですから」
私は、あまりのことにただぼうぜんとキソクさんの後ろからついていく。
「ここです。その異境への扉を開いて、行くのです」
かっこよく言われても、あの……ここ、男子トイレなんですけど。しかも、掃除道具入れの入った個室。
「誰も人がいなくてよかった。さあ……行くのです」
「いや、トイレなんですが」
「何か問題でも?」
あるよね――!そりゃあるよね――!開かないし。
「開きません」
「問題ありません」
キソクさんは、冷めた顔で、どこからともなくラバーカップを取り出し、開かないドアの鍵のごとくかざした。よかった……それでドアノブをバキュームするのかと思った。絶対触りたくない。
でも音はした。すぽっと。ドアが開く音じゃない……。
ドアの中は、掃除道具なんて入っていない。真っ暗な通路だった。少し岩肌の露出したごつごつした洞窟のような道だ。
「なにこれ……」
「すべては、ここを通って、岩戸を開けばわかります。行きなさい。そして、救ってください。世界を……」
「世界を救うなんて、そんな……」
「法学部の授業に出なくてよくなりますよ」
「行きます」
私は即答して、こわごわ足を踏み出した。その前に、キソクさんに聞く。
「あなたは、いったい……?」
「ただの司書ですよ。ごく普通の、どこにでもいる、つまらない女です」
扉は閉まった……男子トイレ掃除道具入れの。
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