第4条 ステルスモード勉強道具があったらいいのに

 図書館内部は快適そのもの。空調もばっちり、人も少ない。これで寝椅子とドリンクバーがあったらいいなといつも思う。先日、図書館の利用者アンケートにその要望を書いて提出したけれど、いまだにお返事なし。ほかの要望は、どんなに理不尽だと思う内容でも、掲示板に貼りだしてあるのに。「口をきいていない父親のにおいがして、父親といっしょに勉強しているみたいで不快」というえげつないコメントのおかげで、「男脂臭」を漂わせている年配の係員さんが、最新流行のデオドラント剤の香りをむんむんにさせているというのに。……お気の毒様。


 私は、いつもの本棚の陰に隠れてゆっくり突っ伏して寝ることのできる席を無事に確保した。もちろん、カモフラージュのために勉強道具一式は開いている。ステルス技術を使ったカモフラージュ用勉強道具セットとかあったら迷わず買うのに。いつか工学部の友達に頼もう。卒業研究で作ってくれないかな。そして、寝ているのが見えないように、そこそこ厚い判例百選を目の前に立てる。横にいくつもの憲法やら民事訴訟法やらのテキストを重ねて置く。色とりどりにしたのは今日の気分だ。うお座のラッキーカラーは青だったので、とりあえず青に近いネイビーの法律辞典を手元に置いた。


 あ、そうそう、さっき拾った紙を見てから一炊の夢に入ろう。これどっかで聞いたけれど、ごはん作ってもらう間は寝て待てということかな。果報は寝て待て、夕飯も。今夜はカレーだといい。


 さきほどの紙切れは、少し独特の手触りだった。たとえて言うなら、選挙の時の投票用紙?いや、最近投票権得て行使したばかりだから、なんだけど。だってほら、折ってからバッグに放り込んでいたのに、もう自然に開いてる。


 そのとき、頭の中でかすかな声がした。懐かしい感じの声。夏にふと漂ってきた、蚊取り線香のにおいみたいな。

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