第2条 キソクさん

 ICカード代わりの学生証を機械にかざすと、赤いランプがともった。


「あれ、壊れた?」

「……磁気を近づけたのでは?」


困ってカードを見つめる私の手元を、図書館の司書さんが覗き込む。


ああ、美人。メガネとったらもっときれいだろうな。女の私が変な気になる、美人の司書さんだ。実はファンも多いとかなんとか。うちの大学の地下組織、正法大フェチ研の部誌巻頭盗撮グラビアを飾ったとかなんとかで、問答無用の当局告発で、組織は壊滅したとか。ま、うわさはうわさを呼ぶわけで、それほどの美人といううわさが立つと、なぜか入り口だけ人が多くて、図書館の内部はガラガラという異常事態が発生している。今まさに。


「どうでしょう……再発行できますか?」

「……教務に行っていただかないと。規則です」

「今すぐ勉強したくて」


嘘も方便。教授の言葉だってあるし。司書さんは少し眉をしかめた。


「それでは、臨時の利用証を出しましょう。所定の用紙に記入をお願いします。規則です」


司書さんは、「規則です」が口癖らしい。今日からひそかに、彼女を「キソクさん」と呼ぶことにした。

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