疑わしきは信じよ

猫野みずき

第1章 異世界への旅立ち

第1条 「欲しがりません、優までは」

 その日はよく晴れた昼下がり。私は講義をさぼるために図書館に行った。


 さぼるため、というのは、いちばん苦手な刑法の講義だったから。特に総則。総則というのは、たとえば刑法の理論のようなもの。これは私の理解。各論、というともっと実践的な内容になって、法をどう適用するかが問題になってきて、まだ具体的なのだけれど、総則は……眠くなる。


 眠くなったら、図書館へ。これは教授が公言しているらしい。図書館は誰も勉強していなくて人が少ないし、予算の関係で人が増えた方がいいらしい。けれど、法学部の全体授業は大講義室で行われて暑苦しいし、人が増えると試験の採点が大変だから、眠い人はこなくてよろしい、とか。


 その教授は、撃墜王のあだ名を持つ。今度試験の時には、私は書くことがないので、その教授がはまっている地下アイドルグループの賛辞を書くか、「欲しがりません、優までは」と書くことにしている。固いことばかりじゃ、世の中回っていかない。それに、なにか書けば点数がもらえる可能性は皆無に限りなく近い、「なきにしもあらず」だけど、白紙で出せば無だ。宇宙は無から生まれたらしいと教養の理系科目で聴いたけれど、法律は宇宙じゃないので、無から有は生み出せない。これ、文系の論理。各人の能力に従って、単位は分配される。これ、どっかで聴いた言葉のもじり。


 

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