スクラッチ抵抗性

現夢いつき

スクラッチ抵抗性

彼女と一緒に買ったスマートホンのケースは、表面硬度が9Hと高く、鋭利なもので引っかかれても傷一つつかないらしい。


しかし、いくらスクラッチ抵抗性が高くても、衝撃に対しては無意味であったらしい。

私は目の前で粉々になってしまったスマホを見てそう思った。こうなってしまった原因は私にある。

可愛さ余って憎さ百倍とはよく言うけれど、私の憎悪は彼女にぶつけられることはなく、代わりにすぐ手元にあったスマホが犠牲になった。


数年前から、少しずつ煮えてきた感情が今になって爆発したのだ。

まるでこれが最期の輝きであると言わんばかりに、その破片はキラキラと美しく照明の光を反射していた。


どこで私たちは間違ってしまったのだろう。喧嘩してもただの小突き合いだと思っていたが、いつから私たちは殴り合っていたのだろう。私たちのスクラッチ抵抗性はどこで耐えられなくなったのだろう。

そんなことを考えても、全ては手遅れで無意味でしかないことを私は理解している。だが、この考えを止めることはできない。できていたら、どれだけ楽になっていただろうか。


あの日々はもう帰ってこない。そんなことが私をひどく苛立たせる。右手が不自然に震えた。スマホだけでは到底受け止められなかった怒りをぶつけるべく、今度は家具に当たった。


お世辞にも綺麗とは言えなかったこの部屋だけど、過去にここまで酷くなったことは流石になかった。

泥棒が荒らした家の方がまだ綺麗であるというものだ。


だけど、どうしてか彼女からもらった物だけは壊せなかった。今もなお、棚の中で整然と揃っている。

私の焦点は合ってないながらも、視線は棚一点にのみ注がれていた。


どうしてこれを壊すことができない!


私は頭を荒々しく掻きむしった。まるでこれがこの苦しみから逃れる唯一の方法だと言わんばかりの形相であったに違いない。


でも結局、私は彼女に関する全てのものを壊すことができなかった。しばらくして、私は未だ彼女に執着していることに気がついた。

頭を冷やすために、スマホの残骸を片付けよう。そう思った私だったが、それを手に取ると思わず笑いが漏れた。

壊れてしまったと思っていたケースは無傷だったのだ。飛び散った破片は全てスマホ本体のものであった。


思わず彼女に電話をかけたいという衝動に駆られたけれど、かけようにもご覧の通り私のスマホは使い物にはならないのであった。


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スクラッチ抵抗性 現夢いつき @utsushiyume

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