冗長なシアン

韮崎旭

冗長なシアン

『伝奇集』。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作。読み終えるどころか読み始める前から暗鬱な空がカーペットに蔓延し、空気感染するように吸い込んだ肺は歓喜で充たされ、さながら鉱山の附属病院の様であった。その鉱区では坑道が作られるような方式で採掘がなされていた。いずれにせよ、粉塵で肺などが傷むことが知られる。


 という経緯で僕はその廃ビルに行きました。廃ビルだとはまさか思いませんでした。だから僕が行ったのは、ビルだったのです。ビルに行ったつもりがプールサイドには雑草が繁茂しておりガラスが割れている。初めて知るわけです。皆死んだ。

だから僕は安い酒を買うことにしました。再び知るわけです。皆死んだ。なぜ? 

きっとコタール症候なのだ。実は生きていて、真に受けた人間に埋葬されたのだ。てんかんの症状なのだ。だろうか。重積発作だったのだ。知らない言葉の列の向こうには、非常に俯瞰的なマクロコスモスが広がっているはずだと思い込んでいる。


『パラケルススの薔薇』は読みましたか。5時から僕は、『シャッフル航法』を読み始めて、その公園についたのは、午前2時でした。その公園が雨で充たされる頃には、皆死んだ。ギター演奏をすることもなかった。オムライスも出兵も必要がなかった。眼球の這いまわる石の上にて、軽薄さが裁定を騙る。まさか、3年の内にここまでの廃ビルが出来上がるとは思いませんから。附属病院にはまだ古い結核患者のカルテがありました。そうして時がないことを知るのです。時間は資本主義の発明だと知るのです。カール・マルクス通りは全ての県にあったけれど、僕はカール・マルクスを読まなかった。言葉を知らないから仕方ない。でもレーニン像はもう撤去されてしまった。ソフホーズは閉鎖され、鉱区は適切な手続きもないまま、体制転換にまつわるごたごたの中で置き忘れられた。多くの私企業が政治エリートとの密接な結びつきの中で生育し、ひまわり畑にキノコ雲が多く咲いた。それはさながら、『メトロ2033』の世界観。

 だけれども梯子を忘れられた衛星は少女漫画。出会いはできれば大切にしたいけど、許されないよ、この手が重積発作とともにヤコブの梯子に触れる日は来ないから。それはさながら、核実験場の午睡、現代のマクベス、絶えない血の跡、子供の幽霊の予言、首の皮一枚。

 僕はその臣下を短剣で刺殺したが、後悔はしていない。長剣を血で汚さなかったからだ。

 それはあたかも預言者であるかのように振る舞い、事実上表記の不統一から様々な問題が生じていた。でも、傘を忘れて雨が降る予兆を見ながら、辻占のように悲観を述べると『イザヤ書』をゆっくりと閉じる、ここは閉館した図書館。だから『メトロ2033』の世界観。空の列車が目撃された夜にも、バッドエンドと人は口にする。


 最後にゴーレムを始末する。

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