第90話 寡兵・5
第九十話 寡兵・5
「了解ボルツ君! 各種データ、あとで纏めとくデスよ!」
再びホワイトスワンの艦橋。
先生はホワイトスワンの舵をしっかりと握ってその瞬間を見計らっていた。もうすぐ重武装の理力甲冑らの射程圏内なので少しでも遅れてしまえば一巻の終わりだ。
「リディア、他に敵は居ないデスか?!」
「大丈夫、周囲と街中には反応無し!」
「よっし、それじゃあレオ、引き金を預けるデス!」
「分かりました。いつでも大丈夫です」
「総員、揺れに注意デス!」
先生が無線に向かって叫んだ直後、総舵輪を思い切り回転させる。当然、ホワイトスワンは無理な方向転換によって船体自体が横向きになるが、ホバークラフトのように宙へと浮いているのでそのまま横滑りの状態となってしまった。それと同時に、両舷の格納庫へと通じるハッチが片方開き、例のパラボラアンテナが敵部隊へと指向する。
「レオ、今デス! 理力砲発射デス!」
「発射!」
レオは横滑りの加速度へ抵抗しつつ、画面に映る照準と敵部隊が一致する瞬間を待つ。そして機銃とは別に設けられた引き金を引き絞るとあの機械が低い唸りを上げだした。一層理力エンジンの音が高くなったかと思うと、アンテナの先の空間が僅かに歪んだように見え、一瞬だが紫色の放電現象が引き起こされた。
放電は極短時間のみで、すぐに大型理力エンジンの回転も収まりだす。その向こうではアルヴァリス・ノヴァのノヴァ・モードも終了し、光の粒子は次第に拡散していった。
「リディア! 敵の反応はどうデス?!」
「……やった! 敵部隊の反応、消失!」
彼女の言う通り、理力
「フッフッフ、これぞ私の開発した理力砲の威力デス! 敵は死ぬ! デス!」
「いや、死んではないでしょ?!」
先生が開発したという理力砲。その先にいた重武装のステッドランド部隊は力なく全機倒れ込んでしまっていた。
「そもそも、理力というのは光や電磁波と同じく空間を媒質にしていると考えられているデス。そこで私が考え付いたのが、指向性の電磁波に大量の理力を乗せてやれば効率よく遠く離れた場所にも理力を届けられるのではないか、という事デス。とある論文によると理力は電磁波と同じく波の性質を備えているという研究結果があってデスね、私はそれをヒントに電磁波の周波数と理力の固有周波数を同調させることで、その電磁波に理力を伝播させることが出来るのではないかという仮説を立てたんデス。ただ問題なのはその大量の理力をどこから用意するか、そしてその固有周波数の解析に大きな手間が掛かるという事だったんデスが、前者の方は理力エンジンによる理力の増幅という手段で一応の解決に至ったデス。ぶっちゃけ真空管みたいなもんデスね。そして後者の周波数の件デスが、なんとこれも理力エンジンがらみというか偶然の産物というか、アルヴァリスのノヴァ・モード発動時、実は理力エンジンの回転数とこの周波数に密接な関係性を見つけ出したんデスよ。なんという事デスか、理力エンジンもアルヴァリスもこの私の開発したもの! つまり私ってば超天才! ヒャッホウ! それでこの理力砲は大量の理力を敵の理力甲冑にぶつけることで……」
「先生、長い! もっと短く!」
「つまり、相手の理力甲冑は理力の洪水で溺れるというわけデス! あと私は超天才!」
「分かったような、分からないような! あと天才なのはみんな知ってる!」
自らの仮説が見事実証されたことで
それがこの理力砲であり、本来受け取るべき操縦士からの理力よりもさらに大きな理力に晒された人工筋肉は
つまり、中にいる操縦士は傷つけず(ひどい頭痛や吐き気はするかもしれないが)理力甲冑のみを破壊するというなんとも人道的な兵器なのだ。
「改良点はまだまだあるデスけどね! 例えば射程や収束率、エネルギー効率なんかも改善の余地があるデスし、コンデンサ代わりにスワンの理力エンジンを何度も使ってたら装置が保たないデス」
「そういう技術的なことはいいから、操艦に集中してよ!」
「合点承知の助デスよ!」
そうこうしているうちに、ホワイトスワンは帝都イースディアの入り口へと差し掛かっていた。死屍累々といった様相の敵ステッドランドの周りでは、なんとか操縦席から這い出た操縦士や、彼らを支援するはずだった歩兵部隊が右往左往している。だが、凄まじい速度で接近するホワイトスワンに対して彼らが出来るのはその場から逃げるか、もしくは吹き飛ばされないようにしゃがみ込むしかなかった。
「総員! ホワイトスワンはイースディアへの侵入を果たしたデス! デスが、これからが本番といっても過言ではないデス。相手は帝国の中枢、そこを守る敵も厄介なのが揃っているはずデス。オマエら、ここが正念場デスよ!」
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