第79話 選択・3
第七十九話 選択・3
「しかし、どうします? この包囲を抜けるのはかなり難しそうですよ」
ユウは帝国に行かずドウェインとの対決することを決めたのだが、どうにも旗色は悪い。
先生がチラリとハッチの向こうを見ると、僅かに覗いた敵の理力甲冑がこちらへと銃を突き付けていた。
「確かに……スワンの目の前には
「前には帝国屈指の操縦士、後ろは岩で塞がれてる……さらに頭上と周囲には多数の理力甲冑……どうする?」
リディアは事前に理力
「……それなら」
と、ここでクレアが口を開く。何かいい案が閃いたらしい。
「あのデカブツには退いて貰いましょう」
「いや、それが出来たら苦労はしないっスよ……」
「まず、ホワイトスワンが抱えている一番の問題は何?」
「そりゃ、両脇を崖に囲まれて、後ろにも前にも進めないこと?」
「そう、ユウの言う通りだわ。スワン後方の岩は簡単にはどけられない。それなら前方の理力甲冑を退けるしかないわ」
「とは言ってもデス。相手はあのドウェインとその部下たちデスよ? そう簡単に倒せるデスか?」
「うーん、前回は何とか勝てたって感じですけど……今回はスワンが人質に取られてるようなもんですからね……」
「という事はドウェインとゴールスタは余所で叩けば脱出は可能ね。作戦はこうよ……」
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クレアはメンバーの顔を順番に見る。この不利な状況にありながらも、その顔は一様に諦めていない表情をしていた。
「皆……何としてでもここを切り抜けるわよ」
「うん。僕たちはこんな所で立ち止まってられないしね」
「何より、ようやくユウさんが姐さんに告った大事な日っスからね。ちゃちゃっと片付けてお祝いしましょう!」
「ちょっ! ヨハン!」
「何言ってんの、クレア。それくらいしないと今まで
「リディアまで!」
「クレアさん、あとでたっぷりとお二人の馴れ初めを話して頂きますわ」
「ネーナ!」
「ま、諦めるデスよクレア」
「あはは……」
僅かな間だが、普段の和やかな雰囲気を取り戻したユウ達。誰もが気負わず、自分のすべきことに向き合っている。
「ハァ……それじゃあ、皆、無事にここを脱出するわよ!」
ホワイトスワンの艦首で仁王立ちしていたゴールスタ・ロックの操縦席、ドウェイン・ウォーが静かに目を見開いた。
「答えは決まったか? ……その様子では、聞くまでもなさそうだが」
ハッチから出てきたアルヴァリス・ノヴァは右手に片手剣、左手には専用ライフルを携えており、背部の理力エンジンからは独特の吸排気音が響いてくる。
「ええ、ドウェインさん。僕は帝国へは行きません。だから、ここで退いてください」
先ほどとは異なり、毅然とした口調のユウ。ドウェインはその言葉に彼の覚悟を感じ取る。
「ふむ、なんとなくこうなるような気はしていた……そして、私もそれを望んでいたのかもしれん」
ゴールスタ・ロックは大振りな戦槌を両手で構えながらホワイトスワンからゆっくり離れる。恐らく、アルヴァリス・ノヴァとの一騎打ちを誘っているのだろう。
「ならば、ここで貴方を倒します!」
「やってみせろ、若造!」
次の瞬間、アルヴァリス・ノヴァは左腕の盾を前面に構えたまま大地を蹴り、一気にゴールスタ・ロックへと距離を詰めた。その全身からは輝く粒子が溢れだし、特徴的な甲高い回転音が渓谷内を木霊する。しかし突進を予想していたドウェインは戦槌の柄でしっかりと受け止めてしまった……が。
「ぬおぉ?!」
アルヴァリスの突進を受け止めたと思ったドウェインは圧倒的な力に驚く。それもそのはず、アルヴァリスの倍近い重量のゴールスタが簡単に押されているのだ。両足をしっかりと地につけ踏ん張るが、それでも二条の線を引くばかり。対するアルヴァリス・ノヴァは、まさに重機関車とでも言わんばかりの力をノヴァ・モードから引き出していく。
「ドウェイン隊長!」
「狼狽えるな! 各機はそのまま白鳥を包囲していろ!」
部下は彼の意図を即座に理解し、ドウェインの命令通り銃口をホワイトスワンへと向けたままにした。ドウェインほどの操縦士が二度も負けるはずがない。その信頼があるため、周囲の理力甲冑たちは微動だにしなかった。
「ふふふ、少し驚いたが、まだ足りん!」
ドウェインは大きく息を吸い込むと、両の手を操縦桿に食い込ませる。瞬間、押し切られていたゴールスタ・ロックは腰を落としながらアルヴァリスの突進を完全に止めてしまった。こうなってはもともとの重量差、膂力の差が如実に影響してくるのだ。
「くそっ、なんて重さだよ!」
ユウは思わず愚痴をこぼしてしまう。実際、操縦桿から伝わってくる感覚はとてもじゃないが同じ理力甲冑を相手にしているとは思えないものだった。まるで地中深くまで埋まっている鉄骨か、見上げるような大木にでも体当たりしているような錯覚を覚えてしまう。
「ユウ、お待たせ!」
と、突如ゴールスタ・ロックののしかかってくる重量が軽くなった。ユウがアルヴァリスごしに上空を見上げると、そこにはレフィオーネがいた。
「さぁ、大物を一本釣りよ!」
レフィオーネの両手には太い鉄線が握られており、その先端は鉤爪が括りつけられている。これは格納庫の
そのワイヤーがゴールスタ・ロックの装甲の一部に絡み、上空のレフィオーネに牽引されている。腰部のスラスターからは大量の圧縮空気が噴き出し、背部の理力エンジンは普段よりもさらに甲高い音を奏でていた。
――
――――
――――――
クレアが提案した作戦は至って簡単なものだった。ノヴァ・モードのアルヴァリスとレフィオーネの二機がかりでゴールスタ・ロックを渓谷の外へと引きずりだす。その間にホワイトスワンをステッドランド・ブラストとカレルマインが周囲の敵機から護衛しつつ、渓谷内から脱出させるというものだ。
「なかなか無茶な作戦デスが……これくらいしないとこの窮地は脱せられないというわけデスね」
「ヨハン、ネーナ。二人にスワンを任せるわ。なるべく敵を倒すというよりも攻撃手段を封じるように立ちまわってちょうだい」
「分かりましたわ!
「うっし、スワンには傷一つ付けさせないっスよ!」
――――――
――――
――
「隊長!」
とっさにドウェインの不利を悟った敵機がレフィオーネへ向けて小銃を構える。普段とは違い、ゴールスタ・ロックを引きずっている今は丁度いいマトでしかない。
だが、その引き金が引かれる事は無かった。小銃を構える両腕が肘から斬り落とされてしまったのだ。
敵の殆どがアルヴァリスとレフィオーネに気を取られている隙に、ステッドランド・ブラストとカレルマインの両機は銃撃を加えようとしていた敵機のうち何機かを無力化していたのだ。事前の作戦通り、機体を撃破するよりも武器や腕を優先的に破壊して回っている。
「よし、クレア!」
「一気にいくわよ、ユウ!」
二機の理力エンジンが同調するかのように音程が少しずつ重なり合っていく。渦巻く圧縮空気は渓谷内を暴れまわり、激しい砂煙を巻き上げる。そして巨体の重量はとうとう押し負けてしまい、少しずつホワイトスワンから離れていった。
アルヴァリス・ノヴァの全身に取り付けられたスラスターが煌めく粒子を帯びた圧縮空気を吐き出す。その推力と地を蹴る脚は巨大なゴールスタをさらに押していき、上空のレフィオーネの助けもあってとうとう渓谷を抜けてしまった。そこは起伏に富むものの渓谷内と比べて開けている。なるほど、アルヴァリス・ノヴァの機動力を生かすならばこちらの地形の方が有利だ。
「だからどうしたぁ!」
ドウェインは気勢を上げ、下腹に力を込める。するとゴールスタ・ロックはさらに腰を落とし、両手で持った戦槌を掬い上げるように持ち上げた。その圧倒的膂力で絡みついていたワイヤーは切れてしまい、さらにアルヴァリスを上空高く思い切り投げ飛ばしてしまう。アルヴァリス・ノヴァはしかし、空中で器用に姿勢を立て直し何事もないように着地する。ここまでは作戦通りだ。
「以前は不覚にも遅れを取ったが、このゴールスタ・ロックならばもはや負ける道理はないぞ!」
一目見ただけで分かるほどさらに厚みが増した厳つい装甲、相当の重量があるはずの戦槌を軽々扱う膂力。ドウェインが言う通り、以前のゴールスタよりも更なる強化が施されているようだ。
「だからって、こっちも負けるつもりはありません!」
「二対一で悪いけど、
アルヴァリス・ノヴァは片手剣を構え、レフィオーネは上空から小銃の狙いを敵機にピタリとつける。二人とも強敵を相手に全身の神経を尖らせ、機体に理力を漲らせていく。
それに応えるかのように、ゴールスタ・ロックは完全な戦闘態勢へと移った。
「よかろう、二人まとめてかかってこい!」
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