幕間・8 水着回ですよ、水着回!

幕間・8


『水着回ですよ、水着回!』


 異世界ルナシス。ここにもユウのいた世界と同じく四季があり、それぞれの季節と一年の進行はほぼ同じである。


「つまり、この暑い夏に海に来たってなんの問題もないわ」


 燦々と照りつける太陽、真っ白な砂浜、どこまでも青い海。ここはケラートの街からさほど遠くない海岸。平時には近隣の街から海水浴客が訪れる、一種のリゾート地だ。今は戦時ということもあるのか、ホワイトスワンのメンバー以外は誰もいなかった。


 サングラスをくいっと持ち上げたクレアは眩しそうに目を細める。彼女は淡い水色を基調としたパレオタイプの水着だ。パレオ部は南国風の花の意匠が施され、涼しげながらも明るい印象を与える。そして女性にしては長身でスラッと手足の長いクレアがそれを着ると、まるで高名な芸術作品か何かのような美しさとなる。


「んー、暑いね! でも水は冷たくて気持ち良さそう!」


 続いてリディアがホワイトスワンから飛び出してくる。彼女は泳ぐ気まんまんなのか、早速準備体操を始めている。


 リディアはスポーツタイプの機能性と着心地を重視した水着だ。濃いめの藍色はリディアの白い肌と相まって、その対照的な色合いはよりいっそう魅力的に見える。また、前面はそうでもないが、背中側が大きく空いているためそのギャップの威力は計り知れない。


「まぁ、日差しが強いですわね。これは帝都でも人気の日焼け止めを塗らなくっちゃ」


 日焼けが気になるネーナは大きめの日除け傘を差して出てくる。しかしその割には、鮮烈な赤色をしたビキニタイプの水着を完璧に着こなしている。リディアよりも出るとこは出ていながら、全身に無駄な脂肪は付いていない。まさに男性の視線を釘付けにしてしまうようなプロポーションだ。




「うーん、やっぱりリディアがダントツ過ぎて、他が見劣りしてしまうな……」


 女性陣がキャッキャッと騒いでるなか、ヨハンは多くの荷物を持ちながら彼女らのを凝視している。


「おいヨハン、なにボーッとしてるのさ」


「……はぁ、ユウさんはこれを前にしてなんでそんなに落ち着いてられるんスかねぇ……」


「???」


 ユウにはなんのことか分からず、そのままビーチパラソルや冷えた飲み物が入った大きめの水筒を運びにいってしまった。


「ユウは以外とお子ちゃまデスからねぇー仕方ないデス」


 ヨハンが振り替えると、そこには普段通りの格好をした先生が。


「あんま期待してなかったスけど、先生は水着を着ないんスか?」


「期待してないとか失礼なやつデス! まぁ、私みたいな頭脳労働者は水着でキャッキャッウフフなんて事はしないのデス」


「さいですか……ま、俺は水着の女性とキャッキャッウフフしたいので向こうに行ってきます!」


 重い荷物もなんのその、ヨハンは足取り軽くみんなの元へと走っていった。


「……ハァ」


「先生、近くの町で自分に合う大きさの水着が子供用のしか無かったからって落ち込まないでくださいね」


「んなッ?! ボルツ君いつからそこに?!」


「ユウは以外と~の辺りからですね」


「最初からじゃないデスか! 全く、油断も隙もないやつデス!」


「まあまあ、そんなに怒らなくても。そんな先生に朗報です。今、ケラートの街までレオさんが先生の水着を探しに行ってくれてます」


「はぁ?! い、いや別にいいデスよ!」


「とはいっても、もう出発して結構経ってますからね……そろそろ帰ってきてもいい頃なんですが」


「なっなっなっ?!」


「先生にぴったりなのを着て、ユウ君と遊んできてください。せっかくの機会なんですから、ここでグッと距離を縮めるんです」


「ボルツ君はお節介デス!」


 真夏の太陽のように顔を真っ赤にしながら先生は両腕をブンブンと振り回す。しかしボルツはまるで子供を相手にするかのように気にしていない。







「……一体、どれにしたらいいんだ?」


 一方、ボルツから先生用の水着を買いにはるばるケラートまでやって来たレオは困り果てていた。日用品の買い付けなどもあったため、水着を買うくらい……と判断したのだったが。


「なんでこんなに種類があるのだろう……」


 レオが立ち寄った服飾店にはところ狭しと女性用水着が並べてあった。たしかにこれならば先生(の体型)に合う水着もあるだろうが、レオにとってはまさに未知の領域だったのだ。


(ま、適当でいいか……)





「ということで、コレを買ってきたんですが……」


 つい先ほど帰ってきたレオは買ってきた水着を先生に手渡す。包みを開いてまじまじと眺めた先生は一言。


「……ちょっと子供っぽすぎやしないデスか?」


 先生が広げた水着は全体的に薄目のピンク色をしたワンピースタイプの水着だ。ところどころ、フリルがついていて可愛らしい印象を与える一着だ。


「うーん、これは確かに……いやでも……」


「あの…ひょっとして駄目でしたか……?」


「駄目ってわけじゃないデスけど……」


 三人は揃って困ったようなうめき声をあげる。悪くはない。悪くはないのだが、先生の体型ではよりいっそうに幼く見えてしまうのでは? 他の女性陣と肩を並べた時に、ユウの視線を惹き付けられるのだろうか? そういう懸念がありありと感じられるのだ。


「あれ、みんな何やってんですか?」


 と、急にユウがやって来た。


「な、なんでもないデスよ?」


「と、ところでユウ君はどうしたんです? みんなと遊んだいたのでは?」


「ああ、スイカ割り用のスイカを持ってきてなくて……」


「そ、そうデスか、私たちも後でスイカ食べにいくデスよ」


 ヒーチサンダルをペタペタさせながらユウはホワイトスワンの中に入っていく。


「あ、先生!」


 食堂のほうに行ったと思ったユウがひょっこり顔を出す。


「な、なんデスかっ?!」


「早くその水着着て一緒に行きましょうよ! それ、先生によく似合いそうですし!」


 それだけ言うとユウは今度こそ食堂の方へと走っていった。


「……結果は上々、でしょうか?」


「あーうん、レオ、お前はよくやったデス」


 先生は後ろ手に隠していた水着をもう一度、まじまじと見つめる。


「はぁ、それじゃ着替えてくるデスかね」


「ですね、それじゃあ私たちはユウ君の代わりに昼食の用意でもしましょうか」


「そうしましょうか。折角ですし、屋外で食べられるようにしましょう」


 ボルツとレオが何にするか相談してる間に先生は自室へと戻っていた。


「私に似合う……デスか。そう言われたら着るしかないデスね……全く、仕方がないってやつデス」


 一人、微笑む先生。もちろん、そのあと先生もみんなと夏の海を堪能したのは言うまでもない。







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