第68話 理力・1
第六十八話 理力・1
「お前達の事は分かった。しかし、それが私達の状況とどう繋がる? 何故、私とユウはこんな遠く離れた場所にやってきてしまったんだ?」
クリスはもっともな質問をする。
ユウとクリスはアムリア大陸南部のケラートの街で戦闘を繰り広げていた。それが突然、光の奔流に呑み込まれ、気が付けばこの島に居たのだった。
謎の巨人アムレアスの長・ソブと、その使いであるアムカの話を総合すると、この島は大陸の北東部に位置するが公式な地図には載っていないという。そしてアムレアスと人類の間に生じた小さな軋轢から次第に修復不可能な関係に陥り、結果として彼らの存在と共に歴史から厳重に隠されてきた。
「ふむ。貴方達が遠くケラートからここへやって来た事を説明するには理力と、その現象について話さなければなりませんな」
「理力? 現象?」
ユウにはソブの言わんとしている事が分からない。
「古来より、理力には不可思議な力があるとされてきた。あの機械人形を動かすための力もそうじゃし、魔物も本能的に理力を利用しておる。そして、他にも、
ユウは思わずソブの顔をまじまじと見つめてしまう。
「それは……その漂流、いや、お前たちの召喚によってここへ呼ばれたのか?」
「ううむ、半分はそうと言えるし、半分は違うのう」
「じれったいな。さっさと核心を話してくれないか」
クリスは憮然とした表情を作り、それを見たアムカはさらに頬を膨らませる。
「ほほ、落ち着きも時には必要じゃよ。お若いの。……確かに我々は漂流の行きつく先をこの島へと誘導したんじゃが……その現象自体は引き起こしてはおらん。今回の漂流現象は貴方達二人の膨大な理力が呼び水となったんじゃよ」
「……それは一体、どういう事なんですか? あなた達……アムレアスが僕たちを召喚したんじゃ?」
「それは違うんじゃよ。……漂流についてはっきりと分かっていることは少ない。じゃが、その発生には理力が深く関係していると考えておる。この世界ともう一つの世界、二つの世界の理力の均衡のズレ、もしくは理力の乱れ……恐らく現象の根本的な原因はそんな所じゃろう。とにかく、漂流が起きる時はある程度予測できるが、その規模と場所は分からんのじゃ」
「でも、それなら話がおかしいですよ。召喚……漂流をコントロールできないのなら、どうやって僕らをここへ? そもそも、僕は呼ばれてこの世界にやって来たって聞きましたよ?」
「……」
ユウは気付いていないが、その横顔をじっとクリスは見る。ユウの過去を覗き見た際に、ユウがこことは別の世界からやって来た事と見当を付けていたのだが、ここに来てようやくその確信が得られた。
(俄かには信じられないが……事ここに至っては信じるしかあるまい。別の世界の存在とやらを)
「そう、本来、漂流とは事故、あるいは災害のようなもの。それ自体を制御することは不可能とされておる。じゃが、我々アムレアスはその理力にある程度の
「方向性……ですか?」
「そう、漂流自体の発生や制御は出来んが、
「っていう事は、僕が召喚された時も……?」
「……今から一年ほど前になるかの。アムリア大陸のとある都市国家から我々にある取引が来たんじゃ。
その人間はこれから大きな戦争が始まる、帝国とやらの狙いはアムリア大陸の武力による統一と言っておった。本来ならば人間同士のいざこざに我々が関与する道理はないのじゃが、その人間が言うには帝国が勝利すればこの島にも戦火が及ぶだろう、そう脅してきたのじゃよ。
実際、ムアカ達に調べてもらった結果、そうなる予兆は確かにあった。そこで、我々は人間との取引に応じたのじゃ」
「その取引って、もしかして僕やシンさん、スバルさんを召喚したことですか?」
「うむ。その人間はアムレアスがこことは異なる世界から戦士を召喚できると思っておったようじゃが……正確には違う。さっきも言った通り、我々は漂流に伴う理力の流れに方向性を与えるだけじゃ。任意の時、場所、人間を呼ぶことは出来ん」
「え……? でも僕は実際、この世界にこうしてやって来たじゃないですか」
確かにユウと他の二人は召喚によって
「そもそも、漂流してくる人間とはどのような者たちなのか。それを考えたことはおありかな?」
「どのような……?」
「我々の祖先は漂流してきた人間達と接するうちに、とある仮説にたどり着いたそうじゃ。漂流してきた人間に共通する事柄……それは
思い当たる節はある。
召喚される直前、ユウは父親と口論になり今の生活や境遇から逃げ出したいと考えていた。いや、
(母さんが死んで……父さんとの関係が悪くなって……あの頃はバイクに乗ってる間だけ、別の世界にいる気がしてたんだっけ)
エンジンの音とその身に吹き付ける風。それを感じている間だけは無味乾燥な毎日を忘れられた。
(他の二人も僕と同じなのかな?)
ソブの話を信じれば、ユウ以外の二人も元の世界から逃げ出したいという気持ちが強かったということになる。しかしそのような事は聞いた覚えがなかったし、素振りすら見せなかった。
(そりゃ、簡単に話せることじゃないよな……)
ユウはシンとスバル、二人と長い間を共に過ごしてきた訳ではないが、それでも同じ境遇の異邦人としてそれなりに打ち解けていた。だが、三人は出自や自らの過去について触れようとしなかった。少なくとも、ユウはその話題を避けていた。
「そういえば……クレア……こっちの世界の人に、召喚には元の世界へと戻る方法があるって聞いたんですけど……どうして昔の人達は元の世界に戻ろうとしなかったんですか?」
ひょっとしたら、あまり元の世界に戻りたい人間はいなかったのかもしれない。例え方法があっても、元の世界に戻りたくない理由がある者ほど、こちらに呼ばれた可能性は十分にある。
「……そんな事を言った者がおるのか……」
ソブは少し、困ったような表情をする。どこか説明に窮しているようだ。
「言いにくいことなんじゃが……漂流は
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