第5話 訓練・2
第五話 訓練・2
「ユウ、お前が負けたのはな、体がまだ理力に慣れていないからだ。それで理力がガス欠したんだ」
オバディアは矢倉の前で三人に説明する。すでに日は傾いており、辺りは赤に染まりつつある。
「お前はこっちの世界に来て初めて理力という物を知った。だから理力の制御が出来ていない。そりゃそうだ、今まで使ったことが無いんだからな。さしずめ、初めて陸地へ上がった両生類みたいなもんだな。陸地で呼吸しなきゃいけないが肺なんて使わなかったから、ちょっとずつ慣れてかなきゃいけねぇ」
「なるほど、だから最初は動きが良かったのが少しずつ鈍くなっていったんスね」
とヨハンが納得する。
「そうだ。ユウ、お前は確かに強いかもしれん。だがな、このまま戦場に出るとすぐに死ぬぞ。今回は一対二で互角以上に戦ってみせたが、戦場では通用せん。敵は二人がかりで敵わなけりゃ、三人がかりで来る。それで負けそうになったら四人がかりだ。包囲してお前が消耗するのを待てばいいからな」
「……」
予想外に苦戦し、結果的に負けてしまったユウは悔しさを飲み込み。オバディアの言う事は最もだ。この前の魔猪はたまたま運が良く、短期決戦で片が付いただけなのだ。
「ま、良かったな。早々に長所と短所が分かってよ。これからはお前の長所を伸ばして短所を直してくぞ」
「あの、ユウの長所って……? やはり細かい操縦が上手い事ですか?」
クレアは聞きながら考えてみる。初めて搭乗したときから理力甲冑の動きが滑らかで繊細な動きを難なくこなしている。
「そうだな、ユウは理力甲冑を自分の手足のように扱えている。剣一つ振るうにしても銃で狙うにしても、針に糸を通すような精密さは強みになるぞ。それに模擬戦でも見せていたが、機体を自在に操れるからだろうな、回避が上手い。今後はこういった所を意識して戦え」
「短所は……やっぱりスタミナ不足ですか?」
「それもある。が、一番の短所は戦闘中に熱くなりすぎる事だ。お前、途中から攻めきれないからって苛ついてただろ」
ユウは思わずドキリとする。
「熱くなると回りが見えなくなるぞ。時にはいいが、良い兵士ってのは常に冷静沈着でいるもんだ。最後まで生き残るのは冷静に状況を分析出来る奴さ。こればっかりはもって生まれた性分があるからな、ま、ボチボチ鍛えてやるよ」
「それで……どうやったら理力の制御が出来るようになるんですか?」
「それが一筋縄じゃいかねぇ。元々、人間は理力を上手く扱えない種族らしいが、そのせいか理力を感覚的に感じるのが難しい」
「じゃ、どうすれば!」
「理力を使うっていうのはな、とどのつまり、体を動かすのと同じなんだよ。毎日走り込めばその分、体力が付くしペース配分が出来て長く速く走れるだろ? だから理力甲冑に乗って動けば動くほど、体が効率の良い理力の使い方を覚えるんだよ」
「……そういうものなんですか?」
「そういうもんだ。理力甲冑を使った特訓は明日からだ。……さて、と」
オバディアは今までの真面目な顔つきうって変わってからニタリと笑みを浮かべる。
「ユウ、お前、
ユウは何の事か分からないというふうだ。
「朝に言っただろうが。お前の舐めた態度を正してやる。とりあえずここを走ってこい!」
「え? あの……ここを?」
ユウは訓練場を見渡す。理力甲冑が暴れまわる為にかなりの広さを持つ訓練場だ。一周はかなりの距離になる。
「いつからこの俺に意見できるほど偉くなったんだ? あぁ?! いいから走れ! 俺がいいと言うまでだ!!」
「ハ、はい! 教官!」
ユウは言うが早いかかけ出していった。その様子を見てクレアとヨハンは心の中で御愁傷様と両手を合わせた。
「おい、何してんだ? お前らも走るんだよ」
「え゛っ」
「それとも他の特別メニューがいいか?」
「いえ! 教官! 私たちも走らせてもらいます!」
このままだと、もっと過酷なメニューをやらされる。その事を身をもって知っている二人は急いでユウの後を追うように走っていく。
翌朝。今日も矢倉の下でユウたちは訓練に励んでいる。が……。
「なんでロボットで筋トレしなきゃいけないんだよ!!」
「ユウッ! ペース落ちてるぞ! それに昨日も言っただろうが! 理力甲冑を動かせば動かすほど体が慣れるんだよ!」
「はい! 教官!」
「あと千回くらいやったら次はスクワットだからな!」
「はいっ! 教官っ!」
「その後はランニングだ!」
「……はいっ! ! ……教官っ! !」
最後には悲鳴のような返事になっている。その横でクレアとヨハンは余計な事を言うとさらにノルマを課せられる事を知っているため、黙々と腕立て伏せを行っている。
今日も訓練場にはユウの悲鳴が聞こえる。ユウは訓練内容に毒づきながらもオバディアの(わりと無茶な)訓練をこなしていく。
――――数日後、はるか西のオーバルディア帝国ではとある事件が起きるのだが、理力甲冑で筋トレをしているユウ達がそれを知るのはもう少し先になる。
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