理力甲冑について・2 ※2019年1月20日挿入
理力甲冑について・2
「さて、次は人工筋肉についてデスね。これは理力甲冑よりも少し歴史が古いデス。この世界には理力という今の技術をしても一部が解析不能なエネルギーが存在するデス。多くの動植物はこの理力を扱えると言われているデスが、何故か我々人間には扱うことが出来ないデス。その辺の研究はぶっちゃけ全然進んでいないらしいデスのでここでは割愛します。とりあえず、人間が理力を扱う唯一の方法、それが人工筋肉なんデス」
と、先生は黒板を消し、新たな絵を描きだした。今度は……人の腕と筋肉だろうか。
「人工筋肉とは、その名の通り、人類が作り出したアクチュエータの一種デス。原料は魔物の筋肉を利用していて、特殊な薬液による加工と防腐処理をすることで作られているデス。ではなぜ魔物の筋肉を利用するのデスか? はい、ヨハン!」
「うぇっ!? え、えっと、理力を使う……から?」
「まぁその解答で良しとしましょう。そうデス。原料となる魔物、ネマトーデという種類の魔物なんですが、コイツは単純な体構造をしている線虫の一種デス。ですが、脳や神経、生殖器もついていてなかなか面白い生態系を確立している魔物デス。その特徴はなんといっても、他者の理力を食べるという点にあるデス」
「えっ? 理力って食べられるものなんスか?」
「普通は無理デスね。どうもこのネマトーデは太古の昔から理力を食べるという機能を受け継いできたらしいデス。それこそこの世界に微生物しか存在しなかった頃からかもしれないデスが、まぁ、そこまでは研究が及んでいないデス。とにかく、ネマテーデは他者から理力を奪い、自らの栄養とする機能を持っている、そこまでは良いデスね?」
クイっと眼鏡を持ち上げる先生の仕草はまるで教師そのものだ。
「世の中には変な生き物もいるんだなぁ。普通にご飯食べればいいんじゃないんですかね?」
「いや、ある意味では合理的な手段デスよ。捕食するための口蓋や消化器官もいらないし、恐ろしく高効率な変換機能デス。それは置いといて」
先生は空中で何かを横に置く動きをする。
「この魔物の特徴はもう一つあるデス。ネマトーデの筋肉は理力によって伸縮するんデス。恐らく、進化の過程で我々の持つ筋肉とは別の機能を獲得していったんでしょう。その辺は先ほどの理力を食べるという機能と密接に関係していると思いますが、それはそれで専門の研究者に
「その理力で伸び縮みする性質を利用して人工筋肉は作られているんですね?」
「ま、そういう事デス。この事はかなり昔から知られていたようで、ネマトーデの死骸を使った簡易的なクレーンや機械的装置に利用されていたのは歴史的にも古くから残っているデス。それに何といっても、この理力で動くという点は他の機械に比べて大きな利点があったんデス。ヨハン……いや、ユウはそれが分かりますか?」
「えっ? 誰でも使える……事?」
「うーん、ちょっと惜しいデスね。オマエも理力甲冑を操縦するなら分かると思うんデスが……。じゃあ、アルヴァリスに乗った時、右手を上げるにはいつもどうしているデスか?」
「そうですね……頭の中で、機体の右手を上げるイメージを浮かべます」
「そうデス。基本的に理力甲冑の操縦とは、操縦士のイメージによって制御されるデス。つまり、人工筋肉の制御は扱う人間の思考によって操作が可能で、つまり動きさえイメージ出来れば子供だろうが老人だろうが関係ないデス。それが誰にでも使える理由なんデス」
「そういえば、機体を操縦するときは常に機体の動きや姿勢を意識していたなぁ。それじゃあ、そのイメージが正確なほど、操縦が上手くて優秀な操縦士って事っスか?」
「おお、ヨハンにしては鋭いデスね。まさにその通りデス。もちろん、理力の多寡も強さの指標にはなるんデスけど、それだけじゃあ機体のパワーが強いだけデス。真の意味で操縦が上手いというのは、自身のイメージと実際の機体の動きにどれだけ
「えっ……それじゃあ僕はただ理力がたくさんあるだけ……?」
ユウは衝撃のあまり、口がポカンと開いている。何故なら、ユウがこの異世界に召喚された理由が、理力が
「ああ、安心するデスよ、ユウ。オマエは十分に操縦も上手いデスよ。たぶん、平均を大きく上回っている筈デス。ただ、こういうのは簡単に数値化出来ないから私の主観デスけど」
「いや、ユウさんは操縦上手いですよ! 俺、模擬戦でなかなか勝てないっスもん」
(全体の成績ではそうかもしれないけど、接近戦ではヨハンに負け越してるんだけどなぁ……)
ヨハンは謙遜して言ってるつもりなのだろうが、彼の近接格闘戦は天才的な強さを誇る。恐ろしく動きにキレがあり、かつ機体の性能を十二分に引き出す操縦はユウをしても敵わない。しかしその半面、射撃に関しては中の中くらいの成績となっているのと、突撃好きな性格と相まって総合的な戦闘力ではユウの方が上になる。
「おっと、人工筋肉の扱いは誰にでも出来るって話でしたね。理力甲冑も慣れると各部位の人工筋肉に必要な理力が送られるデスし、もっと単純な機構の機械なら力を込めるだけで動くものもあるデスね。とまぁ、割と便利な代物なんデスけど、ただ、この人工筋肉にも弱点があるんデス」
「今の話を聞いてると、誰にでも使えて便利そうですけどね」
「今の特徴だけを聞くとデスけどね。まず、弱点の一つに理力が少ない人間には扱えないという点デス。当たり前っちゃあ当たり前なんデスけど、大きな出力を得るには大きな理力が必要なんデス。まぁ、ユウみたいに規格外なのは置いといて、この世界の人間でも理力の多い少ないがありますからね。人によっては全然動かせない場合もあるデス」
「ああ、理力甲冑でも乗れる人とそうでない人がいるって、そういう事だったんですね」
「俺や
「そうデスね、ヨハンの言う通りデス。基本的に使用されている人工筋肉と必要な理力はだいたい比例する事が分かってるデス。なので人工筋肉の塊である理力甲冑はそれなりに必要な理力も多いんデス」
「へぇ。あ、そういえば、理力甲冑に乗りたての頃、理力切れになったことがあったけど、あれもそういう事?」
「慣れてない新米の操縦士はよくバテるというアレデスね。要は持久走と同じで、理力もずっと使っているとスタミナ切れを起こすんデス。その辺は訓練でバテにくくなるし、適切な量の理力を使うことを体が覚えるからある程度改善されるんデスが」
「だからあんな訓練……あれは辛かった」
ユウの脳裏にはオバディアから受けた
「まぁ、そんな問題もあって実は理力甲冑に乗れる人間は意外と少ないんデス。なので戦争が激化すると、操縦士が不足することが目に見えているんデスが、今まではこれといった解決方法がありませんでした。そう、今までは!」
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