第46話 開戦・3

第四十六話 開戦・3


 しかし息をつく暇もなく、すぐにその場から飛び退る。もう一機の敵が再び銃撃してきたのだ。


 敵の操縦士は銃では当たらないと察したのか、小銃を捨てて腰から剣を抜き構える。ユウもそれに合わせるかのように手斧を構えた。右手の小銃はそのままだ。


 じりじりと敵機が間合いを詰める。ユウのステッドランドは微動だにしない。ただ、敵の動きを静かに観察しているだけだ。


 ……両者の距離がまさに一足一刀になる。しかし、どちらも仕掛けない。


「くそっ、なんてだ……!」


 帝国軍の操縦士はボソリと愚痴る。眼前の敵機ユウからは凄まじい圧力を感じ、思わず目を背けていまいそうになるほどだ。


 先ほどまでの戦闘の様子から、敵の実力が桁違いなのは嫌というほどに実感する。しかし、ここで逃げるわけにはいかない。実力差が天地ほどあったとしても、誇り高き帝国軍人として敵に背を向けるわけにはいかない。それに、捨て身でかかれば一矢くらいは報いることが出来るかもしれない。


 その操縦士は普段よりも早く脈打つ心臓を鎮めるため、静かに、まるで敵に気取られないかのように深呼吸をする。そして心を決めたのか、真っすぐに敵を見据える。


 操縦桿を握る手に力を込めると、ステッドランドがその意思に呼応して動き出した。最小限の動作で鋭い突きを繰り出す。それと同時に敵機ユウへと倒れ込むほどの勢いで地面を蹴った。まさに相討ち覚悟の一撃だ。






 両者が交差したその一瞬で勝敗は決した。





 立っていたのはユウのステッドランドだった。ユウは敵の剣先が自身の機体に触れるかどうかといったギリギリまで引き付け、すぐさま手斧で相手の右腕を斬り飛ばしてしまった。その直後、右手に持っていた小銃を頭部に一発。崩れ落ちる敵機の脇をすり抜けると同時に次弾を装填、そのまま振り返る事もせずに背後に向けてもう一発撃った。頭部と右腕、そして最後に右膝を破壊された敵のステッドランドは完全に沈黙する。


「あっ、ユウさん! ちょっと! 俺の分も残しておいて下さいよ!」


 ようやく砦の門を破壊して入ってきたヨハンのステッドランドから無線が入る。しかし、もはや残った無事な機体に敵の操縦士が乗り込むことはなさそうだ。










 瞬く間に砦内の理力甲冑を制圧したユウ達とグレイブ王国の操縦士達は砦の周囲を警戒する。いくら理力甲冑を全て撃破したからといっても、砦には敵の歩兵がまだ立て籠っている。完全に制圧するためには後続の歩兵部隊の到着を待つしかない。念のため通信用のアンテナは真っ先に破壊したため、帝国の援軍が到着するのはまだ先のはずだが、油断は出来ない。


「ユウさん、また強くなってません?」


「ん? そうかな?」


 砦の内側で破壊されずに残った敵機を自身のステッドランドで中央に移動させながらヨハンは言う。巨大な人型である理力甲冑は同じ理力甲冑でしかまともに運搬出来ない。この無傷な機体はグレイブに持ち帰り、鹵獲機体として運用するか技術解析の為としてバラバラに分解されるかだ。


「そうっスよ。ステッドランドであんな高さまで跳べるのなんて、ユウさんくらいっスよ」


 ヨハンの乗るステッドランドが砦の壁を指さす。その高さはやはり理力甲冑の攻撃を想定しているのか、優にその全長の倍はあるだろう。その壁をユウの乗るステッドランドは軽々と飛び越える勢いで跳躍して見せた。


「いや、アルヴァリスだったらもっと高く跳べるよ」


「そういうことじゃなくって! そもそもあんな高さを跳べるユウさんが異常なんです!」


 ヨハンは思わず叫んでしまう。しかし、それも無理はない。見た目以上に重い理力甲冑で自身の倍近い高さまで跳躍するのは明らかに性能以上オーバースペックだ。それを可能にするほど強大なユウの理力。一体どれくらいの理力を有しているのだろうか。


「そんなことを言われてもな……」


 ヨハンの理不尽な怒りに困惑するユウ。出来てしまうものは仕方ないとヨハンに言うが、だから異常なんですと言い返されてしまった。


「ちょっと! ユウ、ヨハン!」


 クレアの声が無線から聞こえる。彼女はずっと砦の上空を旋回しつつ周囲を警戒していた。慌てた様子という事は。


「クレア、敵の増援が来たの?!」


「違うわ! やられた! こんなに早いなんて……!」


「姐さん、一体どうしたんスか!」


「帝国軍が! !」













 その侵攻はまさに稲妻の如く。帝国軍の部隊は恐るべき速さで連合軍の陣地を突破していく。まるで敵陣を喰い破る雷のように。


 その戦闘で用いられた作戦理論は後にと呼ばれるようになった。









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