第46話 開戦・1
第四十六話 開戦・1
「と、いうーわけで! これからホワイトスワンの大改修を行うデス!」
先生の大声が辺りに響きわたる。朝も早くから、広場には多くの人が集まっており、その中心で先生は適当な木箱の上から叫んでいた。その隣には厚着をして着ぶくれたボルツもいる。大きく叫ぶ先生の口からは白い息が漏れており、すっかり冬の寒さが到来したようだ。
その少し離れた所には損傷してボロボロなホワイトスワンが駐機しており、その周囲を鉄パイプで組まれた足場が。そしてさらにその回りには大量の資材や工具、何かの機械が置かれていた。
「改修内容は事前に説明した通りデス! 破損部分の修理と
先生に促されて、すぐ近くに立っていた大柄な男性が一歩前に出る。
「こんな大掛かりな作業は久しぶりだ! お前ら、安全第一で作業を進めろ! 全工程は約一週間! 突貫工事だが手は抜けねぇ! 連合の奴等に最高の職人業を魅せてやれ!」
親方のダミ声に呼応して気合いの叫びがそこかしこで上がる。
「気合いは十分だな!? それじゃあ、今日も一日安全に!」
「「「アンゼンにー!!」」」
雄叫びのような掛け声と共に、作業員たちはそれぞれの班に別れて打ち合わせに入る。彼らの熱気を感じながら先生は満足そうな顔で一人頷く。
「よし、それじゃあ先生さんよ。俺も作業に入らせてもらわぁ。何かあったら遠慮なく言ってくれよな」
ゴツい顔に似合わず、親方は人好きのする笑顔でホワイトスワンの方へと歩いていった。彼は現場の全工程を管理する立場だが、自身も作業に携わる予定だ。
「私も理力エンジンの方に行ってきます」
「そっちはヨロシク頼むデス、ボルツ君」
先生はボルツを見送ると足場にした木箱からピョンと飛び降り、ホワイトスワンから少し離れたところに走っていく。そこにはユウ達、スワンのメンバーが立っていた。
「うう寒い……」
「あら、ユウは寒いのニガテ?」
白い息を吐きながらユウは手をこすり合わせている。防寒着として厚手のコートを着ているが、早朝ということもあってまだまだ気温は上がらない。
「苦手ってほどじゃないけど、ここ最近は特に寒くない? というか、クレアはそれで平気なの?」
ユウの視線はクレアの足元へと下がる。すらりと伸びた足は暗めの色をしたストッキングと膝下まであるブーツに覆われており、動きやすそうなホットパンツと合わせてあまり暖かそうには見えない。上着は軍で支給されている厚手のジャケットを羽織り、首元はマフラーを巻いている。
「……あんまりジロジロ見るのはセクハラよ?」
「えっ! あっ、ご! ごめん!」
とっさに視線をずらすユウ。
「その割には、嫌な様子じゃないよね。ユウならもっと見てもいいっていう事じゃない?」
「んなっ?! そ、そんな事はないわよ!」
リディアの指摘にクレアの顔は赤くなる。その横ではヨハンが姐さん、分かりやすいっスという顔をしていた。
「オメーラ、何をイチャコラしてるデスか。ぶっ飛ばすデスよ」
何故か少々気が立っている先生が近づいてくる。
「まぁ、なんにしてもホワイトスワンの改修が始まったデス。アルヴァリスやヨハンのステッドも王国の工房を貸してもらって 大 ☆ 改 ☆ 造 の真っ最中! どっちも突貫デスけど、間に合うはずデス」
「にしても、突然過ぎるっスよ。急に叩き起こされたと思ったら、いきなり改装工事するから出ていけって」
「ああ、そりゃすまんデス。みんなに伝えるの忘れてたデス。忘れてたついでにユウとヨハン、クレアはこれから特別任務があるからヨロシクデス」
「……は?」
クレアが絶句する。ユウも一体何のことか分からない。
「おっと、先に謝っておくデス。オマエら三人はグレイブ王国軍と協力して帝国の前線基地の一つを叩く作戦に参加してもらうデス。そろそろ作戦前のミーティングが始まるから急いだほうが良いデスよ?」
誰かが深いため息をつく。いや、ひょっとすると先生を除いた全員のため息だったのかもしれない。
「ああ、もう! そういうことは早く言ってください! っていうか、いつの間に決まったんですか?! ユウとヨハンの機体は?! どっちも改修中でしょ?!」
クレアは一気呵成にまくし立てる。先生に振り回されるのはいつもの事だが、相変わらず慣れない。
「まあまあ、作戦自体は少し前から考えられてたそうデスよ。でもスワンやアルヴァリスの改修にかかるお金と資材が王国からの支援を
「ええっと、事情は分かったんですけど、僕たちの機体はどうすれば……?」
「そこは問題ないデス。王国軍のステッドランドを二機貸してもらう予定デス。クレアはいつも通りレフィオーネで出撃してください」
先生の手際が良いのか悪いのか、その辺りの考察は後にしてユウ達三人は走りだす。
「あ、作戦ミーティングは第三基地デス! 遅れちゃ駄目デスよ!」
走っていく後ろ姿を眺めつつ、リディアはご愁傷様、と一言つぶやく。
「ところでオマエはこれからどうするんデス? というかレオはこんな朝早くからどこ行ったデスか」
「レオはレジスタンスに連絡を取りに行ったよ。昼過ぎまでは戻らないって。私はどうしよっかな、これといって予定はないし」
「ふむ、それなら一つ、リディアにも特別な任務を与えてやるデスかね。ちょっとついて来るデス」
「あ、ちょっと、どこ行くのさ!」
ズンズン進んでいく先生を追うリディア。しばらく歩くと、その向かう先には白く大きな建物があった。ここは理力甲冑の研究をしている施設だとかなんとか先生から説明を受ける。そんな場所になんの用があるのか、リディアにはさっぱり分からない。
「あの、先生。アタシはここで何を?」
「簡単に言うと理力エンジンのデータ収集デスね。ほれ、この前アルヴァリスを起動したはずデス。あれと同じ事をここでやってもらうデス」
「え?! 理力甲冑に乗れるの?!」
「乗れるっていうか、乗っているだけというか……まぁ、これも操縦の訓練になる筈デス」
降ってわいた行幸に思わずガッツポーズをとるリディア。やはり理力甲冑に乗れることは彼女にとって大きな意味を持つのだろう。
(ま、理力エンジンはリディアみたいな理力が少ない人間でも機体を操縦できるようにするのが目的の一つデスからね。データは大いに越したことはないデス)
要するに先生は、生まれつき理力の少ない人間でも理力甲冑を動かせるようにしたいのだが、その下限やエンジンの変換効率を調べたいだけなのだ。これまではユウの
(本人は喜んでるみたいだし、たぶん、おそらく、きっと操縦訓練にも繋がる筈デス。嘘は言ってないからここは黙っておくデス)
真意を知らないニコニコ顔のリディアに合わせるように、先生もニコニコ顔で調子を合わせる。知らないということは幸せということだ。
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