第28話 急転

第二十八話 急転


 エンシェントオーガとの死闘から数日後。ユウたちがいる場所からはるか西方――



 工業国家シナイトスの首都、シンス。首都とは言うが、他の街と比べて雑然とした印象を与える街並みは薄汚れた空気にいつも覆われている。工業国家と呼ばれるだけあり、多くの工房や鍛冶場が民家と共に入り組んで建っている。普段は高い煙突からは年中煙が絶えず、街のあちこちからは鎚を振るう音や金属を削る音が聞こえてくる。しかし。


 帝国との戦争によりシナイトスは疲弊しきっていた。十分な軍備増強を進めていた帝国と、技術力はあるものの規模はそれほど大きくないシナイトス軍。それらが真正面からぶつかるとどうなるか。


 いたずらに消費される兵士と理力甲冑。次々と寸断される補給線。次第に後退する戦線。


 シナイトスの国力を総動員しても、強大な帝国には太刀打ち出来なかった。質で上回る理力甲冑により局所的な勝利は得られても、戦略的な敗北を覆せるほどではない。今や国土の三分の一を帝国に奪われ、主要な街と街道を抑えられたシナイトスにはもはや戦闘を継続するだけの戦力、備蓄が底をついてしまった。


 煤ですっかり黒っぽくなっている、元は赤いレンガ造りの家々からも活気が感じられない。多くの人で賑わうはずの目抜通りは野良犬が残飯を漁っているだけだ。


 国の内外で流通が滞り、男手は戦争に駆り出されてしまった現状では無理もない。食料はなんとか確保できているといった程度で、それもいつまで保つかは分からない。


 街のほぼ中央部、他の建物より大きく、飾り気があまりないレンガ造りの建物。ここはシナイトスの政治を司る議会場だ。シナイトスは工房、商会、鍛冶のそれぞれギルドから代表二人ずつ、計六人の代表会議で政治を行っている。その代表らがいま、沈痛な面持ちで話し合っていた。


「戦線は完全に崩壊……か……」


「こうまでやられるとはな。もう少し粘れると思ったんじゃが」


 発言したのは工房ギルド代表の二人。理力甲冑の開発、製造は工房ギルドが取り仕切っているので、彼らとしては自分たちの作った理力甲冑に自信があった。


「いくらうちの理力甲冑が強くてものう。相手が悪すぎたな」


 どこか他人事のように言うのは鍛冶ギルド代表の一人。製鉄や武器・鎧の製造を行っている鍛冶ギルドは古くから街の発展に寄与してきた。それだけに今回の件には堪えているようだ。


「まったく、莫大な赤字よ。もう少しなんとかならなかったのかしら」


 今度は商会ギルド。この場にいるなかでは比較的若く、生き馬の目を抜くような商会ギルドで異例の出世を果たした女傑だ。発言の内容別からも分かるように金勘定に厳しい。


「しかし、あのまま帝国の要求を飲むわけにもいかんかったじゃろ」


「我が国から輸出される鉄鋼の価格を半分に……か。それに」


「それに、うちの技術者を寄越せ、よ。技術料と賃貸料を提示してくれればまだ交渉の余地はあったのに、無償よ?! 無償!! そんなタダで国の技術をくれてやるわけないじゃない!」


 興奮して声が大きくなるが、他の者は慣れているのか特に気にしていないようだ。彼女が落ち着いたところで今まで静観していた人物がゆっくりと口を開く。


「しかし、それももうおしまいだな。我が国はこの戦争に負けた。数日のうちに調印式が行われるだろう。まずはその事について、そして我々も今後の身の振り方を考えねばな」


 話題を元に戻したのは商会ギルドのもう一人だ。


 そう、工業国家シナイトスはオーバルディア帝国との戦争に


 今から数日前、起死回生を賭けた作戦を実行するため、シナイトス軍は残った戦力の集結と補充を行っていた。しかし作戦決行の前に帝国の攻撃を受けてしまい、全戦力のうち主力を三割も失ってしまった。これでまともに動かせる戦力は無いに等しくなった。


 事実上の敗戦だ。誰もが言いたくはないが、歴史的に見ても類を見ないほど一方的な負け方だった。此度の戦争で何が悪かったのか、それは後世の研究者に任せるとして今は目の前の問題だ。


 幸い、帝国としてはシナイトスの工業力、技術力を欲しているのでそう悪い事にはならないだろう。外交筋からの情報では帝国に従えば国民の安全や食糧の供給を保証すると言っている。実際、帝国は侵略戦争に勝利したあとの敵国を無下に扱うことはない。むしろ積極的に土地開発や産業に援助しており、結果的には戦争以前よりも裕福になっている地域すらある。


 帝国の狙いがただの領土拡大なのかどうかは分からないが、国民にこれ以上の負担が係らないのは為政者として一安心だろう。だが、それゆえにこのような強引な手段を用いるのかが分からない。








 会議は進み、いくつか決定しなかった事項はあるが概ね今後の方策は決まった。帝国との交渉に関してもある程度向こうの要求を飲むしかないだろう。


「ところで、連合国家のほうはどうなっとる?」


 それまでほとんど発言しなかった鍛冶ギルドの老人が突然問いかけた。この老人、鍛冶ギルドの所属ながら工房・商会ギルドの両方にも顔が利くので多くの人間から一目置かれている。話によると国内外に多くのがいるとかなんとか。


「予定通り、理力甲冑に関する技術と工房の人間を秘密裏に送り届けました。それを生かせるかどうかは連合次第、というやつですな」


「連合……ねぇ。本当に大丈夫かしら。ただの烏合の衆で終わらない?」


「まぁ、今のままじゃな……国力だけ見たらなんとかなるかも知れんが」


「問題なのは兵の士気、でしょうな。帝国の兵は今の今まで前線にいて練度も充分。対して連合の兵は小競り合い程度にしか戦闘を経験しとらん。これは大きなハンデとなるな」


「連合に勝利の目があるとすれば……ひたすら防戦に徹して帝国の国力を低下させて軍を撤退させる位か」


「それでは分の悪い博打どころではないな。ただの願望に過ぎん」


「とにかく、この事は帝国に知られぬようにな。今後は帝国内の反乱分子にも連絡を取る」


 シナイトスは帝国に敗北した。しかし彼らは完全に負けた訳ではないようだ。強大な獅子に外からでは勝てずとも、内からなら小さな虫でも命に関わる傷を負わせられる。


 戦乱は次の段階に入っていく。戦火は次々と燃え広がるが、それがいつ消えるかは誰にもわからない。










 再び場所はユウ達のところに戻り。


 三機のステッドランドが根本から折れた木を運んでいる。


 巨大な足跡がいくつも残っている荒れ地のような土地で、そこかしこに倒木が折り重なっている。俄には信じられないが、ここはほんの一週間ほど前は雪に覆われた普通の森だった。


 別のステッドランドが切り株ならぬ、折り株を引っこ抜こうと巻き付けられたロープを引っ張っている。メキメキと大きな音をたてながら地中深くに伸びた根がちぎれていく。そして大きな穴を残して株は宙へと翻った。


 その様子を遠巻きから眺めている人物がいた。考え事をしているのか、その視線は理力甲冑を見ているようで見ていない。表情は険しく、何か思い詰めているようにも見える。


「ユウさん、ここにいたんスか」


 ユウが振り向くと、向こうからヨハンが歩いてくる。ヨハンは防寒着に身を包んでいた。少し前から一気に寒くなってきたので、ユウも村の人から融通してもらった防寒着を着ている。


「ああ、ゴメン。そろそろお昼の用意をしなきゃな」


「あと、ついでに先生が呼んでます」


 おそらく、先生の呼び出しのほうが本命のはずだ。ついでと知ったら怒るぞ。


 ユウはヨハンと一緒にホワイトスワンへと歩く。二人とも無言だったが、ユウが口を開く。


「僕が何をしていたのか、聞かないのか?」


「ん? 聞いてほしいんスか?」


「いや、別にそういう訳じゃ……」


 ユウは調子が狂うなと心のなかで呟く。


「ユウさんが」


 ヨハンは前を見ながら続ける。


「ユウさんが言いたくないなら俺は聞かないっス。悩んでることがあるのはなんとなく分かりますけど、そういうのは無理に言わない方が良いと思うんスよ」


 ヨハンは淡々と言う。恐らく本気で気にしていないようだ。


「……そうか。じゃあ、僕が誰かに聞いて欲しくなったらヨハンは聞いてくれるか?」


「良いっスけど、あんまり面倒なのはパスします」


 ヨハンはそう言っていきなり走り出す。


「あ! こら、待て!」


 ユウの表情は幾分か和らいだようだ。ヨハンは顔には出さなかったが、ここ数日はユウの様子がおかしい事を心配していた。ヨハンだけでなく、クレアと先生も、こういう事には無関心そうなボルツもユウの異変に気付いていた。しかし、クレアからそれとなく話題にしないよう釘を刺されていた。


「多分、家族の事……なのよ」


 これまでユウは元いた世界の事を色々と教えてくれたが、自分の家族や生い立ちといった事に関しては一切喋らなかった。ヨハンはそれを気にもしなかったが、言われてみれば少しおかしい。


(まぁ、家族の事はなぁ……俺以外の人に相談して欲しいけど……)









「ユウ! どこほっつき歩いていたデスか! ヨハンも時間が掛かりすぎデス!」


 ホワイトスワンの前にはムスっとした顔の先生が仁王立ちしていた。そんなに待っていたのだろうか。


「すいません、急ぎの用事ですか?」


 ユウとヨハンは先生の下へと駆け寄る。少し息が上がってしまったが、先生は落ち着くまで待ってくれている。


「早速デスけど、良いニュースと悪いニュースがあるデス。どっちから聞きたいデスか?」


 まるで洋画のような聞き方をするので、ユウは外国人がするように大きく肩を竦めてみせた。


「それじゃあ良いニュースから?」


「レフィオーネの修理に目処がつきました! アルヴァリスもパーツが届き次第、すぐに完了するデス!」


 思ったより早い修理だな、とユウは思う。先の戦闘でかなりの損傷になったはずだが。


「確かに機体はボロクソになったように見えますけど、ほとんどパーツ交換で済むような壊れ方デス。特にレフィオーネの方はクラッシャブルストラクチャーが上手く作用したみたいデスね」


「くらっ……何スか? それ」


 聞き慣れない言葉にヨハンは首を傾げる。ユウもよく分からないので先生の説明を待つ。


「要するにデスね、あらかじめ構造の中に壊れやすい部分をわざと作っておくんデス。そして今回のように強い衝撃を受けた時にはそこが一番に破壊されるじゃないデスか? すると衝撃の運動エネルギーはそこで消費されちゃって他の大事な部分は壊れないようになるんデス」


 そういえば自動車か何かはそういう構造になっているという話をユウは思い出した。


「んー? つまり? 壊れにくい部分と壊れやすい部分を作っておけば、壊れにくい部分はより壊れにくいって事スかね?」


「とりあえずその認識でいいデス。レフィオーネは空中の飛行が前提デスからね、万が一の墜落に備えてデスよ」


 ヨハンは勉強は嫌いだが、こういうことは飲み込みが早そうだ。


「それで、先生。悪いニュースは?」


「おっと、そうデス。シナイトスが帝国に。あんまりノンビリしてると帝国がこっちに攻め込んでくるデス」


「……は?」


 ユウは話に思考が追い付かない。確か、シナイトスっていうのは現在、帝国と戦争してた国だったよな?


「あの、それって凄く悪いニュースじゃないんスかね?」


 ヨハンは恐る恐る聞いてみる。


「まぁこんなに早くシナイトスが降伏するなんて、帝国も予想してなかったんじゃないデスか? とにかく、我々にはもうあまり時間が残されていないデス。クレアが軍のお偉いさんと話をしてますが、多分すぐに出発するみたいデス」


「そんな、アルヴァリスはまだ完全に修理終わってないんでしょ?! 大丈夫なんですか?」


 アルヴァリスとレフィオーネはホワイトスワンの格納庫でほとんどオーバーホール状態だ。このままでは戦闘なんて出来やしない。


「いや、ユウさん。帝国が本格的に侵攻するのは一ヶ月か二ヶ月くらいは先の話ですよ、きっと。向こうで戦いが終わったとしても、帝国の大部隊がこっちに来るまでに時間が掛かるし、それに全軍の再編もあるだろうし」


「それに戦勝国として、シナイトスの方で色々とやらなくちゃいけない事がありますからね。一段落付くまでちょっかいを出す余裕なんて無いはずデス」


 先生がヨハンの後を引き継いで喋る。なるほど、そういうわけか。


「あれ? でも僕たちがこうやって旅をしてるのは理力エンジンを量産品させるため、ナントカ王国に向かっているんですよね?」


「グレイブ王国デス」


「そう、そのグレイブで理力エンジンを量産させなきゃいけないのに、一月くらいで量産出来るんですか?」


 ユウの質問に先生は宙を見つめ考える。


「ん~? 多分無理デスね」


「ええっ! それじゃあ、どうするんですか!?」


「大丈夫デス。その辺もちゃーんと考えているデス。それでも時間に猶予がないのは変わらないデスけどね。だからこれからすぐにでもスワンで出発しなきゃいけないんデス」


 腕をパタパタと上下に振り、早くと促す。ユウとヨハンは急かされるようにホワイトスワン艦内へと入っていった。









 既に補給を済ませていたホワイトスワンは昼過ぎに村を出発した。結局一週間近くは滞在していたのだが、殆ど村へは立ち入ることが無かったので村長はその事を気にやんでいたという。


「補給に寄っただけの村だったんだけどね」


 食堂兼会議室ではクレアと先生が今後の予定を説明していた。ボルツはブリッジでホワイトスワンの操縦を行っているので、残るユウとヨハンを合わせた四人が机を囲んでいる。


 オーバルディア帝国が工業国家シナイトスとの戦争に勝利したという情報はアルトスのバルドーからだったという。一体、どういう情報網を持っているのか分からないが、連合の中では最も早くその情報を把握していたらしい。


「とにかく、状況は待ってはくれないわ。そこで当初のルートを変更してグレイブ王国までの行程を短縮するわ」


 机の上に広げられた地図を指差す。そこには元々のルートが赤いインクで示されていた。


「最初のルートは帝国との国境沿い近くを北上し、海岸まで出たらそのまま西に向かう予定だった。これを海岸まで出る道のりを短縮して、一直線にグレイブまで進むわ」


 クレアは現在、地図上でホワイトスワンがいる付近からグレイブ王国まで一気にペンで線を引いた。


「あの、質問いいですか?」


 ユウがおずおずと手を挙げる。


「はいそこ。何かしら?」


 ペン先をピッとユウに向ける。まるで先生と生徒だ。


「前も言ったけど、それだと帝国の領地を突っ切ってるよね? 大丈夫なの?」


「そうね、確かに帝国の領地に侵入することなるわ。でも実はそこまで危険というほどでもないの」


 ユウは首を傾げる。どういう事だ? 敵対する国に侵入したら普通は軍から攻撃を受けると思うのだが。


「帝国の北部は比較的最近併合された、元は別の国々だったんデス。立場も弱かった小国はかなり無茶苦茶な交渉の末、無理に併合吸収されたといいます。そんな訳で北部には帝国に反感を抱いている人たちが多く、レジスタンスが色々と暗躍しているとの噂もあるくらいデス」


 つまり帝国の領地ではあるが、この状況下では連合に対して強く敵対する理由が無い地域を進むという事だ。この戦争で帝国が負ける、あるいは国力が低下すれば無理やり併合された地域は再び独立する機会を得る。そうとあれば軍の部隊に直接見つかりさえしなければ、無闇に戦闘を行わなくてもいいという事か。


「その地域の人たちにとって、僕たちの行動は帝国から独立するチャンスになると?」


「大々的に宣伝するわけじゃないけどね。現地のレジスタンスと連絡をとって補給と軍の動向くらいの援助は貰えるはずよ」


「あの、それはいいんですけど、理力エンジンの方は大丈夫なんスか? 時間が無いっていう話だけど」


 ヨハンの質問はユウも聞きたかった。結局、先生はどうするつもりなのか。


「結論から言うと、帝国の本格的な侵攻までに理力エンジンの量産は間に合わないデス。なので間に合う分だけでも量産し、侵攻の激しい地点の部隊に優先的に配備することになりました」


「この計画を立てた時に、こんな状況は想定していたらしいのよ。帝国が連合に攻めてくるといっても国境線全部から一斉に攻め込んでくるわけじゃないし、出鼻を挫ければ理力エンジンもステッドランドも量産が間に合って各地の部隊に配備出来るわ。……本来ならあんまり良い状況じゃないけど」


「ステッドランドの量産?」


 確か、ステッドランドは帝国の機体だったはずだけど。ユウは思い出す。最初に説明してもらった時に帝国から鹵獲したと言っていたはずだ。


「ああ、ユウは知らなかったデスよね。なんか連合内でステッドランドの量産が始まっているそうデスよ」


「いやいや、なんで帝国の機体が連合で量産出来るんですか」


 クレアが曇った表情で答える。


「それがね、どうも帝国の工房と裏で取引してたらしいのよ。本当、いつの間にって感じだけど、連合内でもかなりの機密だったみたいで私もついさっき知ったのよ」


「連合がいくら技術的に遅れてるからって、設計図やら実物やらを供与されたら量産まではこぎつけられるデス。ま、この辺は高度な政治的取引って奴があったんでしょう。私たちが気にしてもしょうがないデス」


 先生はさほど不思議ではないという様子で話す。そういうものなのか。


「それに前から変といえば変だったのよ。敵から鹵獲するっていっても数に限りがあるはずなのに、大きな街だと十機くらいは普通に配備されているんだから。修理用のパーツも多くはないけど供給されるし」


 言われてみればそうかもしれない。詳しい事は分からないが、何らかの方法で連合はステッドランドの量産化に成功していたが、対外的に鹵獲したものという事にしていのだろう。ひょっとしたら帝国に対して連合の戦力を誤認させる作戦の一つなのかもしれない。


「うーん、大人って……」


「ユウ、これは戦争なんだからこのくらいは当たり前デス。条約と人道に反しなければ何してもいいんデス」


 きっぱりと言い切った先生の横でクレアはブンブンと首を振る。


「いや、限度はあるわよ。もちろん。……それにしたってこの件は帝国との間にどんな取引があったのか、色々と勘ぐってしまうけど」


 割り切っている先生に対して、上層部に不信感を抱くクレア。ユウにはどちらも正しいように聞こえてしまう。


「ま、戦力が増えるのは良い事なんじゃないですか? 結局、戦争に負けちゃえばそういう事も言えなくなっちゃうし」


 ヨハンは結果さえ良ければ、という考えのようだ。


「それはそうだけど……」


「ユウ、今は大人の汚さについて議論する時じゃないデス。とにかくグレイブまで一気に突っ切るんデスから、これまで以上に強行軍をしなくちゃいけないんデス」


「……そうね。で、とりあえずなんだけど、修理中のレフィオーネとアルヴァリスの部品を受け取り次第、帝国との国境を越えるわ。ここの町、次はここまで進む」


 クレアは地図の上、連合と帝国の国境線ちかくの町を指さす。現在地からはそう遠くはなさそうだ。


「さっきは比較的安全って言ったけど、それでもこれからは帝国軍と直接戦う事になるわ。今までと違って補給も少なくなるし、援軍なんていやしない。……みんな、誰一人欠けることなくグレイブ王国まで行って、また戻ってくるわよ」


 クレアの檄に三人は強くうなずく。今までも大変だったが、今後はさらに危険が付きまとうだろう。もうすぐ、本格的な帝国軍との戦闘が始まる。


 みんなを守る。ユウは机の下でぐっと拳を握りしめた。






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