第7話 アルヴァリス・1

第七話 アルヴァリス・1


 ユウは操縦席で操縦桿を握る。何かが高速回転するような甲高い音色が格納庫に響き、理力甲冑が起動する。仰向けに寝ている状態なので体を起こそうとするが、どうも妙だ。いつも頭でイメージする機体の動きと実際の機体の動きにを感じる。


「なんか! 変な感じだ!」


 ユウは無線で格納庫にいる先生少女に向かって叫ぶ。


「それは機体の反応性が高いからデスよ。機体の追従性が高くなって、理論上は自分の体より早く正確に動かせるようになるんデス。とりあえず立ってみるデス!」


 ユウは機体がように気を付けながら立つ。そのまま両手を上げて掌を何度か開いて閉じ、機体の感覚と自身の感覚を擦り合わせた。


「よし! 武器はそこに置いてあるデス! 早くアイツらをやっつけるデス!」


 見るとそこには装飾された剣と近未来的なデザインの自動小銃アサルトライフルのアンバランスな組合せが専用台に置かれている。それをむんずと掴むと外に出る……事は出来なかった。


「?! 出口はどこ?!」


 そう、いまさらだが格納庫には理力甲冑用の大きさの出入口が無かった。


「待ってください! 今ホワイトスワンのハッチを開けますから!」


 ボルツが壁に向かって走る。どうやらあそこがハッチのようだ。しかし、ユウは待ってられないとばかりに走りだす。


「あっ! ちょっと! 何をする気ですか!」


 ボルツが何か叫んだ気がするがユウはお構い無しだ。ハッチまであと少しという時に軽く跳躍する。先生とボルツはユウの行動が読めなかったが、次の瞬間には理解し二人とも頭を抱えて卒倒する。ユウはそのまま。あわれなハッチは激しくひしゃげながら衝撃音と共に見えなくなる。ユウとその機体は勢いそのまま格納庫から飛び出した。


「私のアルヴァリスとホワイトスワンこの母艦を壊すなーデスー!!」








 ―――――瞬く間に六機の敵ステッドランドを倒したユウはごくりと唾を飲み込んだ。自分でも信じられない程の速度と動きだ。まるで自分の体以上に動ける気がする。しかし、油断は禁物だ。まだ敵は六機も残っている。


 ゆっくりと敵の方へ機体を向けると、何故か攻撃されなかった。いや、相手は動けないでいたのだ。なんでもいい、残りの敵を撃破してこの危機を脱しなければならない。みんなが助かるにはそれしか道はなかった。


「なっ?! なっ?! なっ!! なんでが動いて?! いや、それよりも早く攻撃をっ!! 破壊しても構わん!!」


 先ほどから外部拡声器スピーカーで話していた敵の隊長が悲鳴のような金切り声で叫ぶ。その声に触発されて敵のステッドランドが慌てて銃を、剣をアルヴァリスに向かって構える。ユウは一瞬考えて、母艦ホワイトスワンから離れるように横っ飛びに回避する。


「ヨハン! 向こうの剣を持っている二機を押さえてくれ!」


「っ! 了解! でもユウさん、その機体は?!」


「後で話すっ!」


 アルヴァリスがさっきまでいた地面が銃弾で無茶苦茶に耕される。敵は全機、ユウのアルヴァリスを狙っているようだ。先ほどの奇襲のように一方的に攻撃できない以上、敵の注意をこちらに引き付け各個撃破していく作戦だ。これならば、まだ理力甲冑に搭乗していないクレア達への危険は少ないはずだろう。ヨハンも防御に専念すれば二機を相手に少しの間は保つ。それくらいの実力はあるとユウは踏んでいた。


 軽快に敵の銃撃を躱していると、視界の中で長い筒が動いた。向こうの方で敵機が大砲バズーカを肩に担いで構えている。あの爆発は厄介だ。一番に処理しなくては自分以外にも被害が出てしまう。


 敵の砲口がこちらに狙いを定める。敵機の視線が自分を射抜くような気さえしてくるのをユウは気合で跳ね除けた。


「当た……れっ!」


 ユウは横に飛びながらアサルトライフルを連射する。放たれた弾丸が大砲を持ったステッドランドの右腕、右肩、胸をわずかに逸れる。回避しながらの片手持ちでは照準が定まらない。


 ユウは着地する直前に右手の剣を一度、鞘に納めてからライフルを両手でしっかりと構える。再び連射。ダダダッという小気味いい音を立てて手にしたライフルが弾丸を吐き出された。そして、そのうちの一つの弾丸がまるで吸い込まれるように大砲の砲口へ消えていく。





 ――瞬間、大砲が小規模な爆発を起こし、それを飲み込むように大きな爆発が起きる。弾頭の暴発に巻き込まれた敵ステッドランドは右腕と頭部をどこかへ吹き飛ばしてその場に崩れ落ちる。すぐさま、ユウは次の敵へとライフルの照準を合わせた。


 しかし、手にしたライフルはうんともすんとも言わなくなった。引き金をもう一度引くが変わらない。


「?! 弾切れか!」


 ライフルの弾倉は繰り返される連射ですっかり空になっていたのだ。予備の弾倉など持ってきていない。それに持っていたとしても、ユウはこのアサルトライフルの弾倉交換マガジンチェンジなど、やり方をしらないので意味がないのだが。


 仕方ないのでライフルをその場に放り、再び抜刀する。アルヴァリスが銃を捨てたのを見た敵はこれ幸いとばかりに銃撃してくる。


「今だ! 奴は弾切れだぞ!」


「撃て! 撃て!」


 ユウはアルヴァリスを右へ、左へと跳躍させ何とか銃弾を躱す。アルヴァリスは盾を装備していない。この機体がどれほどの装甲かは分からないが、わざわざ実戦でその厚みを試すわけにはいかない。


「くそっ! 回避するのに精一杯だ!」


 何か隙でも出来れば、一気に間合いを詰めることで接近戦に持ち込めるのに。敵はすっかり、さっきまでの動揺から自分を取り戻し、連携してアルヴァリスを追い詰める。彼らが持っているのはクレアのと同じく連射が出来ない半自動小銃だが、三機が交互に撃つことでその短所を補っている。


 敵もユウの回避運動に慣れてきたのか、回避直後のわずかな隙を狙われだした。敵の弾切れが先か、それともハチの巣にされるのが先か。


 そう考えた瞬間、敵の一機がぐらりと姿勢を崩す。よく見ると胸に大穴が空いているではないか。


「待たせたわね! その白い機体はユウなんでしょ?!」


 クレアの声が響く。いつの間にか自身のステッドランドに搭乗したようだ。


 そのままクレアは後方から援護射撃を行う。残った敵の二機は構わずアルヴァリスを狙うが、一機減ったことで銃撃の間隔が開いてしまっていた。このチャンスを生かすべく、ユウは回避と同時に一気に間合いを詰める。機体をやや沈み込ませ、銃の射線の下を潜り抜けるようにして敵機の眼前にまで近づく。


 慌てて敵は引き金を引くが、その銃弾はアルヴァリスの左肩の装甲を少し削っただけだった。そのまま右手の剣を下段から振り上げ、敵ステッドランドの両腕を切断する。そして上段で剣を両手で持ち、もう一機の方へと機体をねじり、一息に真下へ振り抜く。まさに唐竹割といった風に敵のステッドランドは真っ二つに分かれてしまった。


「ユウさん! クレア姐さん! 早く! もう限界!」


 ヨハンの悲痛な叫びがさっきから無線で聞こえていた気がするが、気のせいではなかった。ユウとクレアは急いでヨハンを助けに向かう。






 ヨハンは両手に持った二振りを交差させ、敵の上段からの一撃を受け止める。その脇からもう一機が剣先をこちらに向け鋭い突きを放ってきた。ヨハンは受け止めた剣をそのまま弧を描くように下ろし、突きも受け止める。が、さすがに理力甲冑二機の力押しには勝てないので、腕を引いて敵をいなす。ついでに足を引っかけてやろうとするが、ひょいと躱されてしまった。なかなか一筋縄ではいかない。


「ヨハン! ユウ! 下がって!」


 飛び出そうとしたユウがクレアの方を見ると、彼女のステッドランドが静かに半自動小銃で狙いを定めている。敵二機はヨハンのステッドランドを巧みな連携で翻弄しているが、あの激しい動きをしている理力甲冑を敵だけ正確に狙い撃つつもりなのだ。 


 その場だけ空間を切り取ったように動きが止まったとクレアは感じた。極限まで集中し、静かに長銃の引き金を絞ると、一発の弾丸がある一点を目指し加速していく。


 こちらに背を向けていた一機が、首の下あたりを弾けさせながら勢いよく倒れ込んだ。巨人の手が流れるような手つきで次弾装填する。再び銃声がした時には、最後の一機の頭部が無くなっていた。そこへヨハンが二刀を器用に操って相手の両腕を切り落とし、とどめと言わんばかりの回し蹴りをお見舞いした。激しい土煙を上げながら転がる機体がようやく止まると、辺りには理力甲冑が駆動する甲高い音しか聞こえなくなった。










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