第6話 亡命先生・3

第六話 亡命先生・3


 ユウがシートをめくったその下には大きな顔があった。まるで中世の騎士が被るような兜。いや、確かに騎士を連想させるが……ユウにはもう少し別のものにも見える。


(どう見てもアニメのロボットだよなぁ……)


 全体的に騎士風の装いだが、少しケレン味のあるデザイン、ヒロイックなマスク、白を基調に赤のラインがいくつか入っている。まさにロボットアニメの主役機のようだ。もしこれを「○○というアニメの主役機を1/1スケールで作りました」と言われたら納得するろうデザインだ。よし、これをお台場に飾ろう。


 ユウがそんなアホなことを考えていると突然、外から激しい衝撃と爆発音が轟き、地面がグラグラと揺れる。


「クレア姐さん! 敵です! ! 囲まれています!」


 外からヨハンの声が聞こえる。他にも追手がいたのだろうか。クレアとユウの二人は早く理力甲冑まで戻ろうと格納庫を走る。


 何とか外に出てみると、周囲はいつの間にか敵の理力甲冑に囲まれていた。機体は先ほど撃退した帝国のステッドランドと同じだが、そのうち何機かは大口径の銃器、大型の槍や盾などの重装備を施している。一機は手持ちの大砲のようなものまで持っているではないか。さっきのは軽装の先行隊で、こっちはようやく追いついた本隊なのかもしれない。急いでユウは自分のステッドランドに乗ろうとそちらを見るが。


「な……?!」


 ユウの乗っていたステッドランドが煙に包まれている。所々見える装甲はグニャリとひしゃげている。さっきの爆発音は敵が大砲を無人のステッドランドに撃ち込み、破壊した音だったのだ。


 すると突然、辺りに外部拡声器スピーカーで増幅された声が響く。


「ようやく追い詰めたぞ、先生、およびボルツ・ターナー。ここは我々が取り囲んだ。おとなしく帝国へ戻ってもらおう。おっと、連合の操縦士諸君、今は動かない方が身の為だぞ。その二人と機体を大人しく引き渡してくれれば、君たちには危害を加えないことを約束しよう」


 ヨハンのステッドランドは二刀を構えているが、多勢に無勢、動くに動けないでいる。クレアも自身の機体の下で身動きが出来ないでいる。ユウも機体が大破しており、どうしようもない。このまま相手の言う通り、謎の二人組を引き渡した方がいいのだろうか?


(……いや、そもそも敵が約束を守る理由はないじゃないか?)


 ユウは敵が都合のいい文句を並べておいて、あとから攻撃を仕掛けないという保証はどこにもない事に気付く。しかし、だからといってこの状況を打破する手立てが思いつかない。


「おい! そこのお前! 早く中へ入るんデス!」


 すると、先生と呼ばれた少女が扉から半分顔を覗かせて手招きする。一か八か、ユウは扉を目指し走った。どうやら敵は機体を失った操縦士一人など気にしていないようだ。


「先生! 無茶ですよ! まともに動くわけがない!」


「無茶でもやらなきゃ全て無意味デスよ! 天才は無意味なことはしないんデス!」


 ボルツはまだ半分シートに覆われた理力甲冑の操縦席にいるようだ。


「一体、どうするつもりなんだ?!」


「お前! 名前は何て言うんデス!」


「僕はユウ! それよりも……!」


「ユウ! 仕方ないデスけど、お前にこの機体を動かす権利をやるデス! このを! だからアイツラを撃退して欲しいデス! !」


「アルヴァリス?! この機体の事?! 動くのか!」


「だから先生! 今のアルヴァリスは普通の人間じゃ歩かせる事も出来ないんですよ! 無理ですって!」


 ボルツは起動の準備だろうか、作業しながら叫んでいる。ユウはじっと目の前の少女を見つめ考える。敵は恐らく十体はいるだろう。そのうち何機かは重武装をしていた。対してこちらはヨハンとクレアのステッドランドが二機。そしてこの動くかどうかわからない、性能も未知数の機体アルヴァリスが一機。


 仮に二人を敵に引き渡したとして、ユウたちの安全は保障されないどころか、帝国の重要機密らしきものと接触したことで口封じされるかもしれない。せめてこの機体で戦い時間稼ぎが出来れば、無線で連絡した本部が部隊を寄こしてくれているかもしれない。


 ユウはそこまで考えて、ふと目の前の少女が涙目になっているのに気付いた。わからない、かもしれないで不確定要素ばかりだ。悩んでも仕方ない。スッと、心が急に落ち着いた気がする。


「何か武器は? 丸腰で戦えってわけじゃないでしょ?」








「さあ、どうするのかね? 私たちも暇では無いのだよ」


 クレアは自分の機体の下で悩んでいた。この状況はどうしたら切り抜けられるのか。ユウの機体は破壊され、自分は搭乗する間に攻撃される。唯一、戦闘可能なのはヨハンだけだが、一機でこの数を相手に戦うのは無理がある。かといって、敵の要求を呑んだ所で無事に解放される保証もない。どう転んでも分が悪い。


 クレアはギリ、と歯を食いしばる。危険な賭けだが、機体まで走るか。そう考えた瞬間。






 ――――突然、白く巨大な壁が宙を舞った。


 そのまま壁は取り囲んでいた敵の一機を圧し潰してしまう。壁は白い正体不明機の大きなハッチのようで、今は胴体部に大きな穴が開いてしまった。


 ……何かが高速回転する甲高い音が辺りに響いた。するとそこから白い影が飛び出す。あまりの速さに目が追い付かない。クレアには白い残像しか認識できなかった。それほどの速さだったのだ。


 敵機が驚き、小銃を白い影に向けるが照準がつけられない。一瞬の間に白い影は近くにいた敵機の正面に移動し、何かを振るう。次の瞬間にはその敵機は構えていた銃ごと両腕が無くなっていた。


 いつの間にか白い影はもうそこには居なくなり、その脇にいた敵にぶつかっていた。影は敵に衝突すると同時にを胴体に突き刺しておりそのまま薙ぎ払う。敵機が持っていた槍は地面に突き刺さり、機体は地面を激しく転がっていく。動きの止まった白い影を銃撃しようと他の敵ステッドランドが手にした銃を構える。しかし、彼らは銃の引き金を引く前に崩れ落ちた。白い影は後ろ向きにを掃射して同時に三機を倒してしまったのだ。




 残った敵は怯んで立ちすくんでしまった。無理もない、この一瞬で六体のステッドランドが撃破されたのだ。理力甲冑の速度常識を超えている。ありえない強さに自分の感覚がおかしくなったような気がする。こんな操縦、大陸のどこを探しても出来るやつはいないんじゃないか。





 ゆっくりと白い影がこちらを振り向く。甲高い音が少し落ち着き、圧縮された空気が漏れる。全体的に騎士風の装いだが、少しケレン味のあるデザイン、ヒロイックなマスク、白を基調に赤のラインがいくつか入っている。右手には勇壮な装飾をした一振りの剣、左手には見たことがない形状の銃器を装備している。オーバルディア帝国の理力甲冑操縦士はその姿に畏怖の念と美しさを見出した。




 ――理力甲冑アルヴァリスが死の舞踏を始める。








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