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 まだ昼休みの予鈴が鳴る前だったので、教室や廊下は生徒の話し声でにぎやかだ。

 由佳が教室に戻ろうとしたところで、廊下の窓に沿って設置されているロッカーに腰かけて話している三人の女子が見えた。

 他にもたくさんの生徒が行き来している中で、由佳がその三人組に目を止めたのは、その中に水瀬めぐの姿があったからだ。それ以外の二人は名前がわからないので、隣のクラスの女子だろう。めぐは一番由佳に近い側に座っていて、反対側の女子の方を向いている。

「──そういえばさ、めぐのクラスの、暗い子? 最近教室の前にいるよね、よく」

 中央に座っている女子が、不意にそんな話題をめぐに振ったので、由佳の足が思わず止まった。

「言い方ー」

 由佳から見て一番奥に座っている女子が笑いながら突っ込む。

「それって由佳のこと? 立花由佳」

 予感はしていたとはいえ、めぐの口から自分の名前が出たことで由佳の心臓が小さく跳ねた。

「ああ、うん、たぶんそう。先週くらいから、昼休みになるといっつもいるの」

 自分が話題に上げられている他人同士の会話なんてできることなら一秒も聞きたくなかったが、今からその場を離れて何も聞かなかったことにする勇気も由佳にはなかった。

「そうそう、小窓からちらちら覗いてて。あれ、何なの?」

「よくわかんない。別に友達とかもいないでしょ」

 一言一言に、他の二人が相槌を入れて、大げさに笑う。

「昨日の帰りも、コンビニのあたりで見かけたんだけどさー。無表情で歩いてて、怖すぎ」

 話を聞くめぐの表情も口調も、いつも教室で由佳に話しかける時と同じ、またはそれ以上に、楽しげな空気を纏っている。

「でも、めぐ、あの子と結構仲良くない?」

「由佳と? いや、全然、そんなわけないじゃん」

 めぐは驚いたように首を横に素早く振って否定した。

「え、そうなの? 結構よく話してない?」

「まあ、ほら、私って優しいから」

「それ、自分で言うの?」

 冗談っぽく答えて突っ込まれためぐは、笑いながらこう付け足した。

「だって、見たくないじゃん、浮いてる子とか。そういう子がいると、空気が悪くなるし──」

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