第6話 お仕置きして神話
夜。ルミナス相手に四十八手の取り組みを行った。
AVで仕入れた知識ではあるが、ルミナスは見た通りの華奢な体格で軽かったし、ゴーレムの俺の身体はパワーありまくりで持久力も底なし。
そもそもは、謁見の時のイタズラに対するお仕置きで、ちょっと嗜虐的な感じが入ってた。
ルミナスも、最後はマジで涙目になって、
「もう無理! これ以上魔力吸いだされたら死んでしまうのじゃ」
などと言い始めたから、まあ、目的は達せたかな。
しかし、よくわからない。
「魔力を失うと死んでしまうのか?」
「……死にはせんが……魔力がある程度溜まるまで、意識が戻らんから、かなり衰弱するのじゃ……」
うつ伏せになって息も絶え絶えのルミナス。
そうか。健康のため、吸いすぎには注意しよう。
「だったら、なぜわざわざ吸い取らせるんだ?」
「た……溜まりすぎた魔力は、精神に影響を及ぼすのじゃ……」
ルミナスの紫の髪は、就寝のため緩く三つ編みにしてある。そのひと房が、玉の汗が浮いた背中にへばりついていた。身体を冷やして風邪でもひかれたら面倒だ。タオルで汗などを拭いて、毛布を背中に掛けてやる。
「魔力が精神に影響するのか?」
「そうじゃ……イライラして不眠や好戦的になりよる。武芸や戦闘魔法を身に着けた男どもなら、鍛錬で魔力を消費すれば良いのじゃが、女子はそうもいかんでの……」
魔界は結構、男尊女卑だな。結婚して子を産む以外にも、妻は夫に余剰魔力を与える立場なのか。なるほど、ルミナスが夫を失ってから百年もオナ狂ってたのには、一応理由があったようだ。
気が付くと、ルミナスは熟睡していた。
困った。『邪竜よ眠れ』を唱えてもらってないから、俺の「名状しがたきコケシのようなもの」は天を穿つ勢いのままだ。かと言って、彼女を無理矢理起こせば、理不尽な呪命をされる可能性が高い。メイドたちの前でナントカHGみたく「フォ~ッ!」とかやらされたら、精神的ダメージがキツイ。
それに加えて、この身体は睡眠も疲労も空腹も感じない。朝までの時間をどう過ごすか。
……まぁ、順当に読書だな。
寝室の隅の文机の上には、この世界の書籍がひと山ほど、置かれている。夕食後、ルミナスの執務室からメイドに運ばせたものだ。
本当なら、椅子に腰かけてじっくり読みたいのだが、作りが華奢そうなので立ったままだ。疲れを知らぬ身体てのは、こんな時はありがたい。
手に取ったのは歴史書。百科事典並みに分厚いが、羊皮紙のような厚さの紙なので、手書き文字なのも相まって、内容は新書判程度だ。少なくとも魔界には、印刷技術は無いらしい。
パラパラとページをめくり、昼に読んでいて気になった創世神話を拾い読みしていく。
明け方、ルミナスが目を覚ますまでが、俺の夜の読書タイムだ。
「……歴史の観点、と申すのじゃな?」
昨日は寝起きが良かったルミナスだが、今朝は気だるげだ。やはり、魔力を吸い取りすぎたせいか。
「昨夜、読んでて気になったんだ。ヒト族から見ると、同じ歴史でも違う意味に取れるんじゃないか、とね」
創世神話。元の世界の創世記を多神教的に書き直した物語、と言ったところか。
創造神により、アダムとイブの代わりに二組のカップルが生れ、楽園で暮らし始める。そして、知恵の神が作った「知恵の実」を食べた方は人間界へ、魔神が作った「魔力の実」を食べた方が魔界へと追放される。
……悪魔の実を食べて海賊に、てのは無いようだ。
で、魔力の実を食べたペアの子孫は、その身に魔石を宿すようになり、魔力を蓄積していく。そして、その魔力を浴びた魔界の他の生物も変化して、魔物が生れる。人々はさらに魔力を溜め、様々な魔族へと分化していった。その結果、魔界は弱肉強食の世界となった。
一方、知恵の実を食べたペアの子孫は、文明を発達させて人口を増やして行ったが、限度をわきまえずに人口を増やした結果、遂には人間界の資源を食いつぶしてしまうほどになった。
……うーん、異世界でも人間の
結果として、ヒト族による魔界への侵略が起こったとされている。侵略は何度も起こされ、「人魔大戦」と呼ばれている。
「ここなんだけど。どう考えても、ヒト族より魔族の方が強いと思うんだが?」
魔族で一番弱いだろうゴブリンですら、一対一ならヒト族には負けないだろう。
「戦争は決闘とは違うのじゃ。奴らは統率の取れた軍勢として襲って来おる。包囲されて持久戦に持ち込まれれば、たちまち魔力切れとなってしまうのが魔族の弱点じゃ」
「なるほどな」
弱肉強食な魔族たちは、連携などせず個々人で反撃してたのか。それじゃあ確かに、各個撃破されてしまうだろう。
ルミナスは寝返りをし、うつ伏せから仰向けになった。毛布がずれて胸ポロリだが、ラッキースケベ要素はかなり低い。
しかし、すぐに彼女の気だるげな表情は消えた。片手で口元を抑えて肩を震わせ、笑いをこらえている。
「……なんだよ?」
「ゴ、ゴウラ……お主の恰好!」
恰好って。別に、椅子が壊れそうだから両手で本を持って立っているだけだ。つまり、立ち読み。
で、ルミナスのもう片方の手は、「そそり立つ混沌」を指さしてる。俺の
確かに、どう見てもコンビニの成人向けコーナーで熟読してる姿だ。魔界にコンビニは無いだろうが、ポルノ小説ならありそうだ。
「笑ってないで、下向きにしろ」
ギリギリ。
「痛い! 分ったから放すのじゃ!」
なんとか、成人した二宮金次郎くらいにはなれたか? 全裸だけど。
その時、寝室の扉がノックされた。メイドたちだな。
ルミナスは気だるげな声で返事した。
「今朝は予定を変更する。もう少し休みたいのじゃ」
扉の向こうからは「では、一刻ほどしたら」と声があった。
「わがまま言って大丈夫なのか?」
「問題ない。朝と昼が執務室での軽食になるだけじゃ」
さすが魔王、というか何と言うか。
ポンポン。ルミナスがベッドの端を叩く。
「立っておらんで、ここに座るが良い」
腰を下ろすと、ルミナスは体勢を変えて俺の太腿に頭を載せた。鋼の肉体……というか、まさにアダマンタイト製なのだが、普通の膝枕のように彼女の後頭部を支えている。便利なものだ。
「そう言えば、このベッドはやたら頑丈なんだな」
俺が乗ってあれこれ激しく動いても壊れないのだから。
「なに。お主の身体の方は中空になっとるから、見かけほど重くはないのじゃ」
なるほど。床がひび割れたりはしなかったし。中空だから一気に錬成できたのか。考えてみたら、肺にあたる空洞が無ければ呼吸もできないし、声も出ないはずだ。もっとも、呼吸を止めてもちっとも苦しくないから、単なる習慣みたいだが。
「むしろ、中身が詰まっている本体の方が重いぞよ。妾の体重ほどもあるのでな」
小柄で華奢な身体つきだから、三十キロと言ったところか。
この
「妾の細腕では、身体強化の魔導を使わねば持ちあがらぬほどじゃ」
百年も男根ダンベルで筋トレしてたら、凄いことになってたろうな。ムキムキなルミナスを想像するとちょっと笑えた。
「で、歴史の話なんだが、続けていいか?」
「うむ」
ルミナスはうなずいた。
俺は一番気になっている点を訊ねた。
「最初の人魔大戦の後、このくだりだ。戦争の結果、ヒト族の側にも変化が生じた、とあるんだが……」
「そうじゃ」
紫色の瞳が
「きゃつらは、魔力を獲得したのじゃ」
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