第2話 目覚めて魔王少女

「妾はルミナス・ヴィ・アブロシェール。当代の魔王じゃ」


 ベッドの上にちょこんと正座してる全裸の少女。

 俺もなぜか、向き合う感じで正座。

 窓の外はかなり明るくなってる。それと同時に、これが夢ではなく現実だという認識が、俺の中でも鮮明になって行った。


「さっきも名乗ったが、俺は強羅ごうら武斗むと

 ゴウラ、と少女は繰り返した。

 礼儀は重要だ。そこは異論ないのだが……さっきからどうも落ち着かない。

「なぁ、これ何とかならないのか?」

 股間のイチモツを指さす。相変わらず天元突破でそそり立ってるのだ。別に少女……ルミナスの裸に欲情しているわけではないのに。


 ルミナスは正座したまま腕を組む。いや、その胸では寄せて上げても強調しきれないんじゃ……。

 なんて思ったからか、ルミナスの答えは無情だった。

「最初からその形で作っておるからの」

 ……さいですか。

「手足の関節部と同様、変形させることは出来なくないが、小さくするのは無理じゃぞ、ゴウラ。それがお主の本体じゃからの」

「……本体?」

 ルミナスの指先が、イチモツをツンとつつく。

「おう……」

「ふむ。感触はちゃんとあるようじゃの」

 少女の両手が、むんずと掴んだ。

「ほれほれ、ここか? ここがええのか?」

 どこの変態オヤジだ!

 おまけに、あーん、と口を開けてるし。

「咥えるな!」

 角の生えたルミナスの頭を両手で鷲掴みする。

「痛い! 痛いのじゃ!」

 ギリギリ頭を締め付けると、流石に両手をソレから放し、俺の手首を掴んだが、力は俺の方が強いようだ。

 それに。夕べのベッドシーンでも感じたが、どうやらこの身体には性欲が無いらしい。ゴーレムってことは射精もないだろうし。

 つまり、完全に受け身だ。ならば、せめて精神的な主導権は握らないと、流されるままになりかねない。

 なのに。


『放すのじゃ!』


 頭の中に声が響いた途端、両手は膝の上に戻った。

「……呪命は効くようじゃの」

 頭に手をやりながら、ルミナスは呟いた。

 絶対服従の命令を仕込むとはな。やられたぜ。

「さてと」

「だから咥えるな!」

「痛い! 痛いのじゃ!」

 どうやら「呪命」の効果は、命じられた動作が終わるまでの一瞬らしい。それでも、これでは貞操の危機だ。まずは距離を取ろう。

 ベッドから降りて、部屋の真ん中で立ち尽くす。全裸でナニがそそり立ってると、何ともマヌケな感じがする。

 さらに、直立不動だと非常にモルゲッソヨな感じなので、少し足を開いて腕を組んでみる。


 ……なんだか、ルミナスの熱いまなざしが。

「ああ、その姿。ベリエル様そのもの」

「誰だそいつは?」

 俺の問いかけに、遠くを見つめる目で、ルミナスは喋り始めた。

「妾の夫、ベリエル・ヴィ・アブロシェール。先代の魔王にて、魔界軍団の大元帥。ヒト族連合軍と勇猛果敢に戦った英雄にして……」

「やっぱ、あれか。勇者に殺されたのか」

 俺の一言で、恋する乙女は突っ伏した。

「その通りじゃ……あうううう」

 なるほど。ちょっと可哀想ではあるが……あるが……。

「ひょっとして、それが百年前か?」

「……そうじゃ」

「百年前って、お前、その頃いくつだ?」

「十四じゃが、何か?」

 何かって、そりゃ間違いなく犯罪だろうに……いや、魔族だし魔界だし……うーむ。

 で、百年かけて魔力を溜めたと言ってたな。

「どうやって魔力を溜めた?」

 身体を起こすと、ルミナスは「にぱーっ」と笑った。

「もちろん、夕べのように」

 アレか? アノ時、俺の股間に流れ込んできたのが魔力か?

「そして、この部分に魔力を蓄積する魔石が埋め込んであるのじゃ」

 彼女が指さすのはキ○タマのあたりだ。タマだから溜まりやすい、なんて言うなよな。


 ……まてよ。

「身体の方を錬成したのは、夕べと言ってたな?」

「そうじゃ。そっちは出来立てのホヤホヤじゃよ」

 ……ってことは。


 俺の本体はこのイチモツで、役割はディ○ドー!? デoルドーなのかよ!!


 いや、魔界だから電動ならぬ「魔導コケシ」が順当か。

 美少女改め、百年オナってた未亡人だコイツ。

 気分はげんなりしても、相変わらずそそり立ったままのコイツ。

 まったくもって、ドイツもコイツも……。


 その時、この部屋の開かずの扉がノックされた。

「魔王様。御目覚めでしょうか?」

 若い女性の声だ。

「おっと、もうそんな時間か。着替えなくてはの」

 淫乱未亡人少女が、こっちに向かって命じた。

『後ろを向くのじゃ』

 意志と無関係に、回れ右。

 全く……今までさんざん見せつけておいて、何を言うやら。

 そもそも、そんな貧相な裸体に欲情などするもんか!

 なんて言っても、ナニがおっ立ったままじゃ説得力ゼロだな。いくら作り付けとは言え。

「入って参れ」

 ルミエルが許可すると、ドアが開いて「失礼します」との声が二つ。おそらくメイドか何かだろう。

 なら、このまま後ろを向いていた方が良いな。あまりイチモツを見せつけるのもなんだし。


 断じて俺は、露出狂じゃない。


 そうか。このまま動かず黙っていれば、等身大の彫像にしか見えないよな。魔王少女の悪趣味なコレクションってことで。

 そうしよう。


「もう、こちらを向いても良いぞよ」

 だから、ルミナスが声をかけてきても無視した。

 俺は彫像。彫像。


『こっちを向くのじゃ!』


 またもや、意志に反して回れ右。


「あら♡」

「まぁまぁまぁ♡」


 目の前にはメイドが二人。秋葉原でチラシ配ってそうな、ゴズロリ風のメイド服。ピンクと水色のボブカットからは、羊のようにカーブした角が覗いていた。

 その美少女二人が、熱い視線を送っている。

 そそり立つ、俺の本体イチモツに。

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