ゴーレムハーレムGO!

原幌平晴

第1話 なりなりてゴーレム

 やたらエロい夢を見た。


 ベッドの上で、腕立て伏せのように両腕で身体を支えたまま、リズミカルに腰を動かす。そのたびに、体の下で嬌声を上げる少女。

 そう、どう見てもローティーンの美少女だ。頭には小ぶりな山羊の角みたいな飾りを付けているし、髪も瞳も鮮やかな紫色だけど。

 ……自分にロリコンの趣味があるとは思わなかったぜ。

 しかし、俺の下半身の方は今一つ物足りない。イチモツにはそれなりの感触はあるものの、身体の奥から突き上げるような高ぶりが無いのだ。

 それでも体は勝手に動く。時々、身体を起こして小ぶりな胸を揉んだり、乳首を甘噛みしたり。

 ん? 俺の肌の色、やけに黒いな。黒人願望まであったとは。


 やがて、少女はひときわ呻くと、全身をガクガクと震わせた。その瞬間、イチモツを通して熱い何かが体の中に流れ込み、渦を巻くような感覚があった。やがてその渦は小さく凝縮され、イチモツの根元あたりに消えて行った。

 身体の下の少女は目を閉じ、やがて穏やかな寝息を立て始めた。

 ゆっくりと身体を起こす。引き抜かれたイチモツは、ベッドわきのランプの明かりで、想像通り黒光りしていた。

 いや、想像以上だ。サイズと言い反り具合と言い、男の願望そのもの。青みを帯びた光沢を放つ、漆黒の物体だ。同じ色つやである指先でつつくと、ちゃんと触覚がある。確かに体の一部なんだろうが、「肉体」とは言い難い。見た感じは、金属かガラスのような質感だ。


 ……まぁ、夢だからな。


 とりあえず、ベッドから降り立とうとすると、足の下でカシャンと何かが砕けた。ガラス製のコップらしきものを踏み割ったのか、破片が散らばっている。

 ベッドの縁に胡坐をかくようにして座り、足の裏を見る。同じ漆黒の質感で、ガラスの欠片が勝手にパラパラと落ちていく。傷ひとつない。

 妙な感じだ。試しに欠片の一つを拾い上げ、尖った先を腕の皮膚に突き立ててみる。感触はあるのに痛みは無い。皮膚はわずかに凹んだが、刺さったわけではなく、それ以上はカツンと止まったまま。すっと欠片を動かしても、凹みが移動するだけで切れることもない。

 実に奇妙な身体だ。

 立ち上がって、横たわる少女を見る。さすがに、M字開脚のままではどうかと思うので、体をまっすぐにして毛布らしきものを掛けてやった。


 ……で、ここはどこだ?


 寝室にしては、かなり広い部屋だ。しかも、内装は贅を凝らしてある。バロック様式だっけか? 執拗な装飾が壁や天井を埋め尽くし、天蓋付きのベッドやドレッサーのような家具にまで及んでいる。


 ……ドレッサーと言えば、鏡だな。


 この夢の中での自分の顔を拝んでみるか。

 テーブルなどの家具を避けて歩み寄り、鏡を見る。青みを帯びた漆黒の身体が映る。相変わらずそそり立ってるイチモツはさておき、見事に腹筋の割れた筋肉質の身体だ。ミケランジェロ作のブロンズ像ですか。

 しかし、鏡の位置が低すぎて顔は映らない。身をかがめて鏡を覗きこむ。

 彫りの深い洋風のイケメン顔で……スキンヘッドだった。

 うむ。イチモツの根元がツルリとしてたから予想はしてた。体毛の類は省略されてるらしい。

 見たところ、額にもどこにも文字は刻まれてないから、一文字消されてお陀仏とはならなそうだ。

 口を開いてみると、中も真っ黒。舌も歯も。お歯黒かよ。

 顔も金属的な光沢だが、表情は自由に出せる。某未来からの液体金属製暗殺アンドロイドみたいな感じ。


 さて、これからどうしたものか。扉の方に歩み寄ったが、鍵が掛かってるのかドアノブを掴んでも開かなかった。

 再び、どうしたものか。ベッドに腰を下ろして、少女の寝顔を見つめながら思案に暮れる。やけに長い夢だ。


 ……長すぎるぞ。いい加減、飽きた。

 夢の中で退屈するなんてな。いや、そもそも俺はいつの間に寝たんだ?

 膝の上に肘をついて顎を乗せ、ロダンの考える人のポーズ。この身体だと、嵌りすぎだな。

 記憶をまさぐる。そうだ、台風が来るというのに残業になって、やっと終わらせて帰る途中。突風に傘が煽られて、車道によろめき出た。そこへ眩いヘッドライト、激しい衝撃。


 ……あれ? これじゃあ俺、死んでない?


 しかし、最期のその瞬間、頭の中にはっきりと声が響いた。

 そう、思い出した。確かに名前を呼ばれたんだ。

 で、気が付いたら美少女といたしておりました、と。

 うん……あれだな、ラノベでよくある異世界転生だか召喚のシチュだよな、これは。ま、現実にはあり得ないから、病院で意識不明のまま見ている夢なんだろう。おまけに、年齢=彼女居ない歴=アラサーなもんだから、相当欲求不満で溜まってたんだな。


 困ったもんだ。もしかしてこのまま目覚めないとか?


「ん……」

 熟睡していた美少女が、かすかに声を上げた。

 俺の代わりに、この姫様が御目覚めか。

 ふと顔を上げると、窓の外が薄明るくなってきていた。

 やがて、少女はベッドの上で体を起こし、大きく伸びをした。毛布がはだけて、小ぶりな双丘が覗く。

「ふわぁああ」

 大あくびだが、むしろ幼げで可愛らしい。くしくし、と瞼をこする。

「むにゃむにゃ……久しぶりに良く寝たのじゃ」


「おはよう」


 思わず少女に声をかけていた。外見に似合った渋い声で、ちょっと違和感バリバリだが。


「おはようなのじゃ……って、誰!?」

 こちらに気が付いた少女がビクッとなって、反射的に毛布をかき寄せた。

 そして俺の顔、黒光りのスキンヘッドをマジマジと見つめて、指を指して言った。

「おまえ! わらわが夕べ錬成したばかりであろうに! なぜ喋れる? 勝手に動いておる?」

「錬成? なんだそりゃ?」

 思わずこちらもパチクリだ。

 少女の方も混乱しているようで、あたふたと喋り出す。

「ひゃ、百年がかりで溜めた魔力を基に、夕べ一気に身体の方を錬成したのじゃ! ……ちと、最後に呪文の詠唱を噛んてしまったがのぅ……」

 訳が分からんので、俺の質問も断片的になる。

「詠唱って? どんな?」

「こうじゃ」

 少女は何やらブツブツとつぶやき始め、最後に俺に向かって手をかざし、唱えた。


「成れ! ゴーレムと!」


 なんだか、分った気がした。

「そこで噛んだから、俺が呼ばれたのか……」

「なんじゃと?」

 キョトンとする少女に、俺は自分を指さし名乗った。


「俺の名前だよ。強羅ごうら武斗むとってんだ」

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